15-4.同。~我が過ぎたるを語る~
~~~~六連戦とか、とんだ罰ゲームだった。七戦目があったら?ボクは生きてはいないな。
ほんと、何度振り返っても、自分が生きて六人に勝った理由がよくわからない。
勝ってしまったのは事実だし、各戦闘については先に通りだが。
言うは易し、だ。それを六回連続で。
なにより……自分のあの時の精神状態で。
それを為せたのが、未だに信じられない。
…………話を戻そう。
「そう。でさ。どう思う?」
ミスティが目を伏せ、考えている。
しばらくすると、瞼を開けた。
「……他の方の心情的にもあり得ませんが。私が行くはずないです」
「そうだ。ちなみにボクがやったのは魔物を呼び出すんじゃなくて、聖国水脈の暴走だ」
「水脈……?あ、魔境!でも何のために?」
「魔境がもっと広がると、魔力が飽和して魔素に戻らなくなる。
そうなったところを魔界といい、魔界の中の魔物は魔力供給が安定する。
飢えなくなり、人を襲わない」
「……根拠は」
「ダンジョン深度5に行って、同じものを見た。人と魔物が共存していた。
あと、最初に言ったでしょ?ドラゴン。普通に話できるし、やつはその辺も知ってる。
結晶の螺旋循環も、実際に見てるってよ」
「…………」
ミスティは驚きつつも目を細め、考えながら聞いているようだ。
手で促されたので、続ける。
「話を戻すがこの状況。君なら水害の被災支援をまず行って、その最中に魔境のことに気づく。
魔物を直接蜂起させたんじゃないところから、何か違うってちったぁ調べるだろう。
魔界化の件はストックも自力で調べて辿り着いてるから、君でもわかる。
ボクは君の行動を、そのように想像するわけだが。
さて、コンクパールに来てる場合かね?」
「ハイディの想像は合っています。
確かに、私なら絶対に行きませんね。
でもこれ、あなたが自分の力で水脈をどうこうしたんですか?
その場合、あなたを倒せば静まると結論しそうですが」
「聖国がやってる仕掛けを調べて、暴走させた。
一度やったものは、二度と元には戻らない」
「そこも後から調べればわかる、と……。
確かに、これは。自分以外の意思がないと、あり得ない」
ミスティが、顎に手をあててじっと考えている。
そう。『役割』を外から強制した何かがある。
ここを共有してほしかった。
もちろん、まだ「何か」としか言えない。ただあるのは確信している。
誘拐事件のモザイクしかり、コンクパールに彼女たちをけしかけたものしかり。
一定以上の強制力を持って、役を押し付け、あるべき流れを実現しようとする何かが、ある。
「ふふん。この話をした分の見返りは、期待できるかね?名探偵」
「やっていいということですか?水脈変更」
「やるのか!?」
「ストック。ボクさっき魔界をなんて定義した?」
「…………魔力が、魔素に戻らない。世界が循環しなくなる?」
「そゆこと」
螺旋循環が止まると、ミスティはもう『クレア・コンクパール』を演じなくてよくなる。
もう一度メリアを探し回りたいなら、話は別だったが。
やっていいかと聞くということは、その気はないんだ。
というか、どう考えてもメリアが泣いて止めるしな。
「ミスティ、君が主導していい。やり方は任せよう。
ボクからのおすすめは、帝国を沈めることだ。最高効率で、最小被害だよ」
帝国は領土が広大だが凍土や荒れ地が多すぎて、人が住んでいるところがまばらだ。
うまい具合に「魔境で」国を分断できる。
国はなくなるが、人の被害は最小限で済む。出るのは出るが。
「それは考慮しましょう。
でもそれ以前に、敵がいるんですね?」
ミスティはそちらには食いつかず――メリアから手を離して移動し、椅子に深く腰掛けた。
そしてボクを見てきた。
目が、やる気だ。見返りを期待して、良いということのようだ。
やっとここまで来た。
この冒険家に、目先のスリルではなく、未来をとらせるのは大変だ。
この人は簡単に椅子には座ってくれない。
でも一度座ったなら、やり遂げるまで力を貸してくれるだろう。
自分の目的を果たしつつ、一緒に戦ってくれると期待してよさそうだ。
次の投稿に続きます。




