15-2.同。~遠い巡りの話を語る~
~~~~どれだけ繰り返されたのかは、わからない。循環の観測者たるかのドラゴンは、覚えていない、とだけ答えた。
ミスティが話に刺激されたのか、何やら思案顔だ。
「魔素の記憶……」
「よく知ってるねミスティ。遺伝というやつだ」
「遺伝?あー……魔素もひょっとして、情報を引き継ぐのか」
ストックはゲームの……地球の知識があるからなぁ。
こっちには遺伝学はない。
だが「魔素が情報を記憶し、それが伝わっている」という様態は確認されている。
ん?ストック、遺伝は知ってて、魔素のことの方は知らなかったのか。
ちょっと意外だ。
「だから繰り返しのたびに同じ人間が何度も生まれるし、事件の再現のようなものも起こるんですか?」
「みたいだね。その辺は、ミスティとメリアの方が詳しいだろうけど。
この魔素が結晶を経由して循環する様と、魔素自体が情報を記憶していることから、『マクロの輪廻転生』が生じる」
この地上は、同じ歴史を繰り返している。
同じ人間が生まれ、だいたい同じことをする。
そして、同じ状況だと同じ事態になる。
先の『メリアがこの時期にパールに来ると、誘拐される』だ。
なおカレンではなく、メリアだ。ここの違いは後述する。
ただこの点には、少し議論の余地がある。
先の事件の主犯が、カレン・クレードル誘拐を行おうとするところまでは、この原理の通りだ。
一方、モザイク人間たちの出現は、これだけだと説明がつかない。
この循環には、何らかの強制力がある、とは考えられる。
その正体は今の材料でははっきりとはしない。
気になるところではあるが、この点は割愛しておこう。
ボトルから飲み物を一口。
個別の話に行く前に、ミクロの方の話もやっておこう。
「もう一つ、『ミクロの輪廻転生』。
これは精霊と人間の関係によって生まれる。
我々は魂もまた記憶を持つようだ。
二人はこれがゆえにお互いを覚えている。
さてストック、精霊の忌み名は知っているね?」
「ああ。精霊となる前の、名前……そうか。
人が死して精霊になると言われる、この国の精霊信仰は真実なのか。
つまり人が精霊になり……」
「精霊もまた、人になる。
それで、精霊において名前というのは大事な概念だが」
「ああ、もしかして<メリア>や……<ミスティ>もか?それは霊の名前なのか」
そう。そして『カレン・クレードル』に別の魂が入っていることがある。
この場合、同じ人間だと判定されないんじゃないかな。
誘拐事件が起こるのは、カレン=メリアのときだけ。
ミスティの行動から、ボクはそう考えている。
「ボクの<ハイディ>や、君の<ストック>もだ。
『ウィスタリア』役の<ハイディ>がボクってとこかな?
で、精霊の忌み名にはルールがある」
「ルール?」
「人が精霊に名をつけることはない。精霊が自分で人に教える。
その逆で、人に入った霊の名は、自身が名乗ってはならないとみられる。
誰かに呼ばれるまで、名乗ることはできないということだ。
ほら、メリアに君が名前をつけたとき、変な反応したろう?」
「あれ、か」
そう。褒美をとらせるとかはしゃいだ、あれである。
「ほほー。そういうルールだったのか。なぜ名乗れんのかはわからなかったが。
ミスティやおぬしらは、誰かに呼んでもらったのか?」
「ボクは呪いの子だ。前の生のときにこの名で呼ばれている。
それを引き継いでいるんだろう。
ストックも、最初は誰かに呼ばれたんでしょ?」
「…………ああ。そうだ」
?妙に間があったが。ラリーアラウンドで誰かに名付けられたんじゃ?
「私は……その。ずいぶん昔に」
おっとなるほど。
やはりミスティはそうだったんだ。「ずっと探してた」って言ってたしな。
メリアは二回目くらい。
ボクとストックは初めてなのかな?
少なくとも、そういう魂の記憶みたいのは、ボクはないな。
「やっぱりコンクパール公爵令嬢はずっと<ミスティ>がやってるのか。
ちなみに令嬢としてはなんて名前なの?」
「クレア、です」
「ん。あとそれって大丈夫なの?精神的な負担というか」
「言うほど細かく覚えてないので。メリアのこと、以外は」
……見つめ合ってるやがる。まぁいいけど。
ミスティはここが特殊。何度もクレアとして生まれ変わっている。
一方、メリアは二回目だが、体のカレンの方が特殊。
カレンには繰り返しの記憶がすべてあり、宿った魂がそれを知ることができる。
二人はこの辺りから、輪廻転生の仕組みにある程度理解がある。
普通の人間の場合、自分の体と魂が別々とか、そんなことは感じないだろう。
そこはメリアの『カレンとして行動しているとき』の話に準ずる。
「というわけで、マクロとミクロの輪廻転生の話はここまで。
ああストック、腸詰は食べていいよ。話は大丈夫?」
「大丈夫だ。ありがとうハイディ」
……ここからだが。どうしようかな。
たぶん、ストックがこの話を突っ込んで聞いたのは、あのモザイクどもでピンと来たからだ。
得体のしれないあいつらと、ボクがコンクパールで体験したことに、関連があると。
?ミスティがこっち見てる。
「ハイディ。何か話の続きがあるんではないですか?」
「うーん、そう。ちょっと話してはおきたいんだけど、面倒な内容なんだよ。
疲れてるでしょう?」
「私は特に。できれば聞きたいです」
「私もだ。聞かせろ」
ストックを見る。腸詰をほおばって……こら、はしたない。
もっきゅもっきゅして飲み込んだ。
「私としては、その話こそが聞きたい内容だったと思うんだがな?」
「やっぱり察しがついてやがったか。
じゃあ続けようか」
次の投稿に続きます。




