15.パール冒険者ギルドにて、夜更け。長い話。
――――こんな与太話は聞き流せ。頼りになる仲間ができた。それだけだ。
部屋に戻ってきた。
せっかくなのでと、食堂でいくらか買って持ってきた皿を大テーブルに並べていく。
四人でめいめいに座れるところに座り、だらける。
ボクとストックは一人用のソファー。
椅子はまだあるけど、ミスティとメリアはベッドに腰かけている。
ミスティはちょっとキリッとしているが、メリアの手を離せていない。
ロザリオの赤い石を、右手の指で撫でまわす。
どの辺から話をしていこうかな。
「さて、と。
ボクは『魔素結晶化周期と世界の螺旋循環』ってトンでも論文を読んだことがあってね。
この内容が、ミスティやメリアの体験に、少し筋をつけてくれる。
あと、魔境の奥に魔界がちょっとだけあって、そこに永く住むドラゴンに聞いた話もある。
ボクはこの辺から推測して、今回起こったことや、二人のことに理解がある」
ボトルの中身をぐびっと飲む。
ミスティが変顔してるけど、とりあえずほっとこう。
さて、ここからどう話していくか。
これから話す内容は、話してしまうこと自体は問題ない。
二人に対しては……彼女たちの体験に照らし合わせ、真実味があるだろう。
その上で、ミスティには一つ、関係のある話もあるし……その上で手伝ってほしいことがある。
つまり「必要なこと」の範疇だ。伏せるべき内容は、ない。
ちょっと荒唐無稽だが、それだけだな。
よし。
ストックの方を向く。
「まずは……ストック、メリア。輪廻転生って単語は理解できる?」
こちらにはない単語だ。
だが我々にあるゲーム元の知識……地球にはあるわけで。
これで説明していくのが、丁度いいだろう。
「私は大丈夫だ。メリアは?」
「私もだ。生まれ変わり、というやつか」
「ん。で、こっち世界のことになるけど。似たようなものがある。
一つは大枠になるから、『マクロの輪廻転生』と呼ぶか。こっちは魔素の関係。
もう一つは個人のスケールになるから……『ミクロの輪廻転生』としようか。これは精霊が絡む。
マクロの方が、誘拐事件再現の話になる。
ミクロの方が、メリアとミスティが再会していることの説明になる。
ど?次行く?」
「…………続けてくれ」
ストックが促し、残り二人も頷いた。
ちょっと無作法だが、ちょうどいいので皿の上の腸詰を並び替える。
ストックから見えるように……『/\/\/\/\』みたいに。
ボクの頭の中のイメージを吐き出すためだが、ちょっと実態とは合わないかな。まぁいいや。
ストックはそれをしげしげと見ている。まだ食べちゃダメだからね?
「まずマクロの方だ。
ストック。この地上には魔素が満ちている。
これが魔力になる。
魔素が魔力になるとき、魔結晶になることがある。
ここまではいいね?」
「ああ」
「では問題。魔力になった後はどうなる?」
「……いずれ魔素に戻るはずだ」
「正解。では魔結晶は?」
「そのままで……いや、これも魔素に戻るのか?」
「そう。すごい時間がかかるけどね。
では今の要素で考えてごらん」
ストックとミスティが二人で唸りだした。
ボクは料理と一緒に買ってきた、緑の香味ソースの瓶を取り出す。
苦みがあって、ボクやストックが好きなやつだ。
蓋を開け、中のどろっとしたソースをスプーンで腸詰にかけていく。
『\』の周辺だけ、緑に塗っていく。
見ていた二人の顔が、同時に青くなる。メリアも眉根が寄っている。
……ミスティは自分のことは知ってるんだろうけど、これはやはり知らんか。
「……おい。いずれ世界中が結晶化し、また戻っているのか?」
「うん。地上はすべて結晶化し、そして長い時間をかけて戻る。
全結晶化するまでを活動期、それが魔素に戻るまでを休眠期としようか。
それぞれ、一万年程度ずつかかるとして話を進めよう。
いい?」
「…………ああ。だがそれ、人間は一度全滅してないか?
再び活動期になったときは、どうなっている?」
えぐい話の方が気になっちゃったかストック。
まぁ、聞きたいならいいか。
瓶とスプーンを置き、続きに入る。
「んー……ストック。魔素が魔力になったときは、結晶化することがある。
魔素に戻った時は、どうだろうか?」
「想像がつかんが……何かあるのか?」
「ヒントはスロウポークだ」
スロウポークは繁殖せず、どこかからやってくる。
ただ出現は常に、ダンジョンや魔境。
それら魔物の領域は、魔素と魔力の変換が盛んだ、と言われている。
「!魔物が、生まれるのか。あ、まさか」
「『人間とは、より完全に近い魔物』だそうだよ」
「魔物は不完全ということか……魔素の生成だな?」
「そう。人間は魔素を自力生成する。魔物はできない。
魔素に戻るときに命が生まれることがあるが、魔力からの時は魔物。
魔結晶から魔素に戻ったときは人間になる……と言われている。
これが生命の始祖となり、繁殖していく」
そうして世界は。
循環、しているのだ。
次の投稿に続きます。




