14-4.同。~推理や説明はできれば探偵に任せたい~
~~~~友の感動は素直に祝福したいが、ちょっとこう、ダメだ。疲れた。あと体がべたべたする。
「すみません、ウィッティさん。戻りました」
「聞きましたよハイディ様、大変だったそうで」
「ごめんなさい、部屋はどうなってますか?」
「勝手ながら入らせていただきまして、片づけています。もう少しで使えますので」
「助かります。もう一部屋、同じような部屋を取りたいのですが」
「それなら隣が空いてますが……」
「ではそちらで。四人で二部屋ということで、もう少し納めておきます。
台帳を……そこの人に。ミスティ、記帳して」
「あ、はい」
ボクは銀貨を数枚出し、受付の人に渡した。
「食堂はまだ開いてます?」
「はい、大丈夫ですよ」
「では、後で来ます。ミスティ、そっちで風呂使わせて」
「はい。え?もう一部屋って私用ですか?」
「そんなわけないでしょ」
ちらりと、彼女の片手……左手を見る。
メリアの右手に固く繋がれている。
この貴族どもめ。さすがに人前くらいは自重しろ。
「遠慮してるんだよ」
「あーいやーそれはー……ダメです。同じ部屋にしてください」
「なんでや」
「ハイディ。未成年に手を出すのは――三警句に抵触するんです。
二人っきりにしないでくださいお願いです」
ああ、殺すな、犯すな、呪うなか。
ダメなんか。我慢できんのか君。
「わかったよ。婉曲な心中をほう助する趣味はない。
あー、でも風呂は使いたい。べとべとする。川底が汚かった」
「ハイディ様、大浴場がありますよ?」
なんと。
「…………初めて知りました」
「申し訳ございません。宿泊区画、奥の階段から一階に降りたところです」
「ありがとうございます。ストック、服とかとって入ってこようか」
「ああ、そうしよう。ミスティたちはどうする?」
ミスティとメリアが顔を見合わせている。
「……どうする?」
「ここで待ってよう。長風呂しすぎるなよ?二人とも」
「ん。ミスティにお酒飲ませないようにね。すぐ潰れるから」
「安心しろ。よく知っているとも」
メリアが……とてもすっきりした顔で言った。
本当に、憑き物が落ちたような表情だった。
「「「「かんぱい」」」」
さすがに皆、乾杯の声も疲れている。
あ”~。辛いのが染み入る。
ミスティはただの果実水だ。炭酸も入ってるけど。
とりあえず皆、黙々と食べる。
長時間取り調べを受けたこともあって、腹が減った。
そしてだいたい腹六分目くらいになったところで。
「さて。どっから聞いたらいいのかさっぱりわからん。
ストック、頼める?」
「んー……そうだな。
まず、ハイディと別れたあたりからか?」
「そだね」
ストックによると。
あの後冒険者ギルドに行ったら、ミスティがいたらしい。
彼女曰く、皇女誘拐の動きがあって、それを追っていると。
それ普通に言うと我々のことみたいやが、そうではなく、組織的なものだと。
ミスティはそれを止めるため、ギルドと港湾管理組合、パール伯爵にはすでに話を通していたらしい。
街には捜査の手が入っており、さらにボクが行ったあたりより上流で検問を張っていたと。
そちらで彼らの仲間のモザイク集団は捕まっていたそうな。
で、ミスティはメリアを訪ねてきたわけだが、部屋に案内してもらったところ、もぬけの殻。
しかも倒れた男が二人。
ホールに戻ってきたところで、ストックに出会ったらしい。
あとはそのまま、石橋の方まで二人でやってきたと。ストックが先行し、到着。
ついたところでちょうど、何かが人や舟を投げ飛ばしているところだったんだそうな。
袋からメリアが出されたので、ボクがやったんだと思い、水に飛び込んだ、と。
ふーん。
名探偵がとっくに全力で網を張ってたと。そりゃストック、すぐ来れたわけだ。
ただやりすぎて暴発された感じかな?詰めが甘いところは相変わらずだ、ミスティ。
ボクの方からも、ストックと別れた後の動きを一通り話して。
「今回あったことに関しては、これで十分だね。ありがとうストック」
「いやいやいやいや!?」
ストックは異論があるようだ。
……ミスティとメリアを見る。
この二人は、互いにある程度事情を知っている。
ボクもまぁ、わかる。それに筋をつける論を知っている。
あとストックだけかー。うーん。
めんどくせぇ。アルコールないとやってられんわ。
与太話過ぎる。
「ストック。どの辺が知りたいんだ」
「ハイディは当然のようにわかってるのか……。
そうだな」
ストックが二人をちらりと見る
「二人のことを大まかに、だな。
二人は前に会ったことがある。そうだな?」
「はい」
「ああ、そうだ」
「ありがとう。
あとはそうだな、今回何があったのかとかは……」
それも知りたい、か。
証拠はないけど、ミスティは仕組みを知ってる。
メリアも多少理解がある。
ならこのメンバーで話すのは、適切か。
「それは少々説明がしづらいのですが……」
「二人が会ったことがある、その時の再現だよ。ストック。
『メリアがこの時期にパールに来ると、誘拐される』。
でも本来の役を果たす帝国人がいなかったから、代役を立てた。
ど?ミスティ」
「私もそう考えてますが……なんでハイディは分かるんです?」
「メリアは、様々な『カレン・クレードルの人生の記憶』を知っている。
さてこれは、別々の可能性のカレンが存在するのか。
それとも、実際にそれだけの数、カレンが過去に存在したのか。
どーっちだ?」
「……後者、です」
「ミスティはそれを、体験的に知っていると。
ボクはそれを、体系立てて推論したトンでも論文を読んで知っている。
『魔素結晶化周期と世界の螺旋循環』っていうんだけどね」
ジョッキの残りをあおる。
ストックに話してもらってるうちにだいぶ食べ進んだし。いいかな。
「この話、続きが知りたいんならお部屋戻ってからにしようよ。
どする?」
もうそろそろ、元の部屋も使えるだろうしな。
三人が顔を見合わせてから頷いたので、ボトルを買い足して部屋に向かった。
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