14-3.同。~事件の後に、遠い再会在り~
~~~~力は尽くした。それに結果が伴うとは――ボクの運も、捨てたもんじゃないな。
…………。
隣で、ストックが荒い息をしている。
彼女は水に飛び込み、水底のボクのところまで真っ直ぐ泳いできて、ボクを抱えて水面にあがった。
それまでにも滅茶苦茶走ってきて、そのままボクを引き上げたんだろうな。
今は二人、木の床に寝転がっている。
ボクは特に……異常はない。水も飲んでないし、そういえば気づいたら脛の切り傷もないな。
ボクがフジダナになって潜ったせいか、辺りは水浸しだ。
舟は係留されてるから、さすがに流れてはいないみたいだが。
人気は元々なかったけど、いたらちょっとまずかったなぁ。
最初に倒したやつを含めて、モザイクさんも全員無事……無事?なようだ。
慌ててたとはいえ、だいぶ乱暴な手だったな。
幸運にも犠牲が出てないからいいものを……猛省しよう。
次はもっと、スマートにできるようにせねば。
スマートと言えば。
せっかく鮮やかにボクを助けたのに。
「救命行為すらし損ねるとは、運がないね?ストック」
ふふ。かっこよかったよ。
君こそまさに主役――物語のヒーローのようだ。
「馬鹿を、言え。そんな、ことで、お前の、唇を、奪って。たまるか」
ほんと、そういうとこやぞ。
声がしたし、奥の手があるから余裕こいて、せっかくだからと待っててあげたのに。
君も知ってるやつだし、忘れたわけじゃないと思うんだけどな。
「そうかい。ありがとうストック」
「ああ」
…………息を整える彼女を見るうちに、なんかめっちゃ顔が熱くなってきた。
なんで僕は、実際にはキスを迫られたわけでもないのに。
こんなに、動機が、収まらないんだろう。
なにか、妙に嬉しい、ような。
ボクだって女だ。最初に白旗上げた以上、そこにはつべこべ言わない。
彼女の好意を受け入れているのも、自身がその、そのように思うのも否定はしない。
だがどう考えても生理的に同性は無理寄りの無理なボクが、なんでこうなっているのか。そこが納得いってない。
ストックが帰って来てから、まだほんの少しの間なのに。
これまで何度か、こうして気持ちが跳ね上がることがあった。
ストックがいいと思ったとかじゃなくて……何かツボに入った、ような。
ストックが帰ってきた日。
旅立ってすぐ。
その夜、二人で話してるとき。
そしてもちろん、再会の日の、夜。
今と、いったいどこに共通点があるんだ……。
……いかん、思い出してたら、身もだえしそうになってきた。
人前、しかも外で致すことではなかった。自重しよう。
こういうときは呼吸だ。体の回復に努めるんだ。
ついでにそうだ、話でもして気を紛らわせようじゃないか。
「それにしても、早かったじゃないか。どんな手品だ」
ブルーパールを閉鎖、となれば。
冒険者ギルドをとっかかりに、伯爵に追認してもらって、港で人を集めて……というあたりか?
ボクが探し回ってた時間もあるけど、ちょっと早すぎやしないか。
「はぁ、ふぅ。あー……手品の種は、あれだよ。ハイディ」
ストックが身を起こし、石橋の根元に寄りかかって、上流側を手で示す。
「メリア、メリア!あぁ、よかった。本当に……」
暗くて見えにくいけど……あれはミスティじゃないか?なんでここに。
メリアに縋りつくミスティと、呆然としているメリアが見える。
少し遠いけど、暗い空間に声が反射して、二人の言葉が良く聞こえる。
「みす、てぃ?わかるのか?私の、ことが」
「分かります!だってずっと探してた!初めて会ったあなたを、メリアを、ずっと……」
「みすてぃ……ミスティ!う、うああああああああああ」
「わああああああああああああああああああ!!」
吐きそうなほど泣いてる二人の声が、めっちゃ反響して……ごめん、うるさい。
すごい感動的でわけわからん場面だけど、今すぐ離れたい。
ストックを見ると、肩をすくめられた。
くそ。動けない自分が、恨めしい。
◇ ◇ ◇
大変だった。
あのあと、ちょっと領主公邸に呼ばれまして。
夜半になって、やっと解放された。
結果的に、これはたった一人の犯行だった。
街にまだ残っていた主犯がいて、これが捕まったらしいんだが。
残りのモザイク男たちは、なんとただの街の住民。何の関係性もなかった。
ボクらは危うく、住民を殴り飛ばした扱いになりそうだったが、いろいろ手が回ったらしく、無罪放免となった。
主犯自身は帝国の人間だそうで、向こうの権力争いの絡みだろうとはミスティの話だ。
何者かに誑かされ、犯行に及んだ……らしい。そこは命令とかじゃなくてか?よくわからんな。
今のところこちらが知らされたのはそれだけで、事件が何だったのかはほとんどわかっていない。
まぁいいか。そんなことより大事なことがある。
一応着替えはさせてもらえたし、水気も拭いたが、汗やら汚れやらでひどいありさまだ。
早く風呂に入りたい。
…………いつの間にかボク、平民にあるまじき贅沢に慣れ切ってるな。
公衆浴場くらいは存在するが、風呂は一家に一つあるものじゃない。普通は布で拭いて終わりだ。
クレッセントは、様々な理由で良い衛生状態を保たなければならないため、風呂は普通にあったが。
それも共同浴場だった。
湯自体は魔道具でいけるが、専用の風呂を設えるのが、まだまだコストが高いんだろうな。
代官公邸からようやく冒険者ギルドに戻ってきた。
カウンター向こうに、ここ数日で何度か顔を合わせた人がいる。
こちらを見る目が、ちょっと心配そうだ。
次投稿をもって、本話は完了です。




