表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/518

14-3.同。~事件の後に、遠い再会在り~

~~~~力は尽くした。それに結果が伴うとは――ボクの運も、捨てたもんじゃないな。

 …………。


 隣で、ストックが荒い息をしている。


 彼女は水に飛び込み、水底のボクのところまで真っ直ぐ泳いできて、ボクを抱えて水面にあがった。



 それまでにも滅茶苦茶走ってきて、そのままボクを引き上げたんだろうな。


 今は二人、木の床に寝転がっている。


 ボクは特に……異常はない。水も飲んでないし、そういえば気づいたら脛の切り傷もないな。



 ボクがフジダナになって潜ったせいか、辺りは水浸しだ。


 舟は係留されてるから、さすがに流れてはいないみたいだが。


 人気は元々なかったけど、いたらちょっとまずかったなぁ。



 最初に倒したやつを含めて、モザイクさんも全員無事……無事?なようだ。



 慌ててたとはいえ、だいぶ乱暴な手だったな。


 幸運にも犠牲が出てないからいいものを……猛省しよう。


 次はもっと、スマートにできるようにせねば。



 スマートと言えば。


 せっかく鮮やかにボクを助けたのに。



「救命行為すらし損ねるとは、運がないね?ストック」



 ふふ。かっこよかったよ。


 君こそまさに主役――物語のヒーローのようだ。



「馬鹿を、言え。そんな、ことで、お前の、唇を、奪って。たまるか」



 ほんと、そういうとこやぞ。


 声がしたし、奥の手があるから余裕こいて、せっかくだからと待っててあげたのに。


 君も知ってるやつだし、忘れたわけじゃないと思うんだけどな。



「そうかい。ありがとうストック」


「ああ」



 …………息を整える彼女を見るうちに、なんかめっちゃ顔が熱くなってきた。


 なんで僕は、実際にはキスを迫られたわけでもないのに。


 こんなに、動機が、収まらないんだろう。



 なにか、妙に嬉しい、ような。



 ボクだって女だ。最初に白旗上げた以上、そこにはつべこべ言わない。


 彼女の好意を受け入れているのも、自身がその、そのように思うのも否定はしない。


 だがどう考えても生理的に同性は無理寄りの無理なボクが、なんでこうなっているのか。そこが納得いってない。



 ストックが帰って来てから、まだほんの少しの間なのに。


 これまで何度か、こうして気持ちが跳ね上がることがあった。


 ストックがいいと思ったとかじゃなくて……何かツボに入った、ような。



 ストックが帰ってきた日。


 旅立ってすぐ。


 その夜、二人で話してるとき。



 そしてもちろん、再会の日の、夜。



 今と、いったいどこに共通点があるんだ……。



 ……いかん、思い出してたら、身もだえしそうになってきた。


 人前、しかも外で致すことではなかった。自重しよう。


 こういうときは呼吸だ。体の回復に努めるんだ。



 ついでにそうだ、話でもして気を紛らわせようじゃないか。



「それにしても、早かったじゃないか。どんな手品だ」



 ブルーパールを閉鎖、となれば。


 冒険者ギルドをとっかかりに、伯爵に追認してもらって、港で人を集めて……というあたりか?


 ボクが探し回ってた時間もあるけど、ちょっと早すぎやしないか。



「はぁ、ふぅ。あー……手品の種は、あれだよ。ハイディ」



 ストックが身を起こし、石橋の根元に寄りかかって、上流側を手で示す。



「メリア、メリア!あぁ、よかった。本当に……」



 暗くて見えにくいけど……あれはミスティじゃないか?なんでここに。


 メリアに縋りつくミスティと、呆然としているメリアが見える。



 少し遠いけど、暗い空間に声が反射して、二人の言葉が良く聞こえる。



「みす、てぃ?わかるのか?私の、ことが」


「分かります!だってずっと探してた!初めて会ったあなたを、メリアを、ずっと……」


「みすてぃ……ミスティ!う、うああああああああああ」


「わああああああああああああああああああ!!」



 吐きそうなほど泣いてる二人の声が、めっちゃ反響して……ごめん、うるさい。


 すごい感動的でわけわからん場面だけど、今すぐ離れたい。


 ストックを見ると、肩をすくめられた。



 くそ。動けない自分が、恨めしい。




  ◇  ◇  ◇ 




 大変だった。


 あのあと、ちょっと領主公邸に呼ばれまして。


 夜半になって、やっと解放された。



 結果的に、これはたった一人の犯行だった。


 街にまだ残っていた主犯がいて、これが捕まったらしいんだが。


 残りのモザイク男たちは、なんとただの街の住民。何の関係性もなかった。



 ボクらは危うく、住民を殴り飛ばした扱いになりそうだったが、いろいろ手が回ったらしく、無罪放免となった。


 主犯自身は帝国の人間だそうで、向こうの権力争いの絡みだろうとはミスティの話だ。


 何者かに誑かされ、犯行に及んだ……らしい。そこは命令とかじゃなくてか?よくわからんな。



 今のところこちらが知らされたのはそれだけで、事件が何だったのかはほとんどわかっていない。



 まぁいいか。そんなことより大事なことがある。


 一応着替えはさせてもらえたし、水気も拭いたが、汗やら汚れやらでひどいありさまだ。


 早く風呂に入りたい。



 …………いつの間にかボク、平民にあるまじき贅沢に慣れ切ってるな。


 公衆浴場くらいは存在するが、風呂は一家に一つあるものじゃない。普通は布で拭いて終わりだ。



 クレッセントは、様々な理由で良い衛生状態を保たなければならないため、風呂は普通にあったが。


 それも共同浴場だった。


 湯自体は魔道具でいけるが、専用の風呂を設えるのが、まだまだコストが高いんだろうな。



 代官公邸からようやく冒険者ギルドに戻ってきた。


 カウンター向こうに、ここ数日で何度か顔を合わせた人がいる。


 こちらを見る目が、ちょっと心配そうだ。

次投稿をもって、本話は完了です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

――――――――――――――――

幻想ロック~転生聖女は人に戻りたい~(クリックでページに跳びます) 

百合冒険短編

――――――――――――――――

残機令嬢は鬼子爵様に愛されたい(クリックでページに跳びます) 

連載追放令嬢溺愛キノコです。
――――――――――――――――
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ