14.河川都市の事件、解決。事態は混迷。
――――友よ、助けてくれてありがとう。でもそこまでやれとは言ってない。
呪法・紫電雷獣は、技を撃てば一発で痺れて力尽きる。
だが、移動・格闘だけなら消費は多くない。ある程度、維持できる。
おかげで、だいぶ見て回ることができた。
上流側の様子も見たが、船は出ていなかった。
いや、船自体はいるが、あのモザイクも、麻袋も見当たらない。
もちろん、船内に連れ込んでるならわからないが……ボクの勘が告げている。
――――メリアは、まだこの街にいる。
パールの街の西端からは、大きな石橋がかかっている。確か何kmかあったはず。
橋の南北は河川港になっており、この北側にも広い船着き場が広がっている。
停泊している、船の数も多い。
この街は、ブルーパール側になる西側には外壁がない。
時間を取られずに、こうして街の内外を行き来して自由に見て回れるのはいいが。
逃げる側にしてみれば、逃げやすいところだな。
……船着き場もざっと探してみたが、見つからない。
焦るな。落ち着けハイディ。
まだ探すべきところはある。まずは考えよう。
ここをこのまま見て回ってもいいが……。
そもそも、こんな目立つところに運び込まないんじゃねぇかな?
袋に入れて担がれていたメリアは、気絶してる感じじゃなかった。
動こうとするのを、押さえつけて運ばれていた。
あの子は薬剤とか魔導も効きにくくて、簡単に気絶しない。
となると、跳ね回る麻袋を置いてたら周りに不審がられる。
そうならないようにするには、誰にも見られないところに行くしかない。
…………あそこなんて、お誂え向きじゃないだろうか。
石橋の下にも、桟橋が見える。
暗いからよく見えないが、あそこにも船がありそうだ。
加速し、暗闇に踊り込む。
河原替わりに木製の通路が続いている感じで、そこから河中に向けてところどころ桟橋が伸びている。
そのうちいくつかには小舟があるようだ。
石橋は幅も長さもあって本当に広くて、その下は地下通路のような趣きがある。
天井も高い。これなら、中型の船までは橋の下を通れるだろう。
帆船なんかはさすがに無理だろうが、魔導船なら問題ない。まぁ普通の流通に使うのは、魔導船じゃないけど。
おそらく、この橋で敢えて上流と下流を分断することで、大型の船はそのまま通過できないようにしているんだろうな。
暗闇に慣れてきた目と、そして耳が違和感を捕える。
ぼやけたような何かと、くぐもった声のような音。
そちらの小舟に近づこうとしたところで――横合いから何かが、ボクに向かって走り込んできた。
暗い中でも近ければわかる。モザイク状の顔、そしてボクを捕まえようとする両手。
無造作に跳ね、その顎を回し蹴る。
そいつは簡単に桟橋に倒れ伏した。
着地し、検めようとすると、闇の中に仄かな緑の何かが――
体を伏せ、素早く動き回る。
水中、桟橋の下から、何かが飛んできた。
水の、刃。
石橋に当たって、僅かに橋を抉り、石材が散る。
魔導……しかもこれ、精霊魔法か!?
魔術、法術は発声が必須だ。これは、ボクの知る一つの例外を除いて絶対。
魔力光はあるものの、発声なく魔導が発動したら、それは魔法だ。
魔道具には攻撃能力はない。
神器の場合……こういった魔導攻撃手段はあるが、連発できない。
刃は都合、同じ位置から三度来た。神器でもあり得ない。
水中、二か所から発光を確認。
精霊魔法でこちらの位置を確認しつつ、刃を撃っているのか。
しかも水中呼吸まで……かなり腕のいい魔導師が、それも複数か。
出力からして貴族ではないが、厄介だな!
水の刃を交わし……桟橋から離される。
橋の先で、水しぶきが上がっているのが見えた。
くそっ、魔導船を出したか!
舟は加速しつつ、上流へ向かっていく。速い。
さらに魔導師二名がこちらを狙っている。
ボク一人で舟を足止めできる状況では、ないな。
時間を稼ぐにも、敵の戦力がちと多かったか。
一瞬、上流側に視線を向ける。
向こうは河川港。あちらでやると、さすがに人目につく。
後ろ盾になってくれる大人もいないところで使うのは、こちらの身が危ない。
一方、この場はほぼ人気がない。多少派手にやっても、ばれやしないか。
……ストックが間に合っていればいいが、ここまでちと早く来過ぎている。
楽観は難しいだろう。
ならば今ここで。
やるしか、あるまい。
水中の魔導師を倒し、船を止め、メリアを助ける!
ボクは雷光を迸らせ、橋を一気に駆け抜け、河中を目指す。
僅かな、音。水中から刃が飛んでくる。
身を低くして――左の脛をちょっと切られたな。
橋の隅に到着。船の方向……上流の方を向き、跳ぶ。
もちろん、舟には届かない。着水し、後ろから魔導師に狙われるだろう。
だがこれでいい。
ボクの持てるすべてを使って、相手をしてやろう!
次の投稿に続きます。




