13-4.同。~桟橋街を駆ける~
~~~~確かにやばいところだったが、邪魔していいとは言ってない。
一瞬、ストックと目を合わせる。
ボクはストックを横抱きに抱えて、立ち上がった。
「ありがとうございました!舟はこのまま戻して構いません!
ボクらは降ります!」
「はぁ!?お、おい!」
船頭さんに一息に言って……跳んだ。
近くの桟橋、家屋の屋根、そして屋根伝いに跳ねて真っ直ぐにその窓へ向かっていく。
あの窓の外、すぐ下には水路が流れていて、その幅がかなり広い。
こちらの岸からただ跳ぶのだと、届かない。
水路の手前まで跳んできて――
「ストック!」
「任せろ!!」
態勢を入れ替え、横抱きにしていたストックを投げる。
彼女もボクの手を思いっきり蹴って、岸向こうの窓へ跳んだ。
自分は、水路を目で追う。近くの桟橋、建物、路地、水路の舟。
……くそっ、ダメだ!似たような麻袋を抱えた人が、かなりいる!
何か……何か手がかりは。
はっとした。
視線の向こうの通りに、ここにいるはずのない人が、見える。
この方がいるなら、こんな事態は茶番だ。だが動く様子もなく……。
…………。
深く息を、する。
自然に、口角が上がった。
そういうことかよ。やってやろうじゃないか。
ふと思いついて、泊っている部屋の窓を見た。
ストックが、男を一人すっころばせている。あとは水月でも打って気絶させるだろう。
帽子は部屋のどっかにでも投げたのか、もう被ってない。
男が転倒した拍子に、いつも皆で使ってる小テーブルが傾いて。
そこに置いてあった、深めの皿の……中身が少し見えた。
先ほど見たものと、記憶が繋がる。
もう一度、水路に視線を走らせる。
さっき見た人はもういなかったが、ボクの目的のものは見つかった。
念のため、屋根伝いに少し移動し――麻袋を担いで走る、背の高い男を見る。
その袋に、確かに青いシミができている。しかも袋自体が僅かに、動いた。
あれだ!
跳んで行って……男が屋根の影に入ったので、路地に着地。
奥に見える。角を曲がった。追いかける。
男は何度も曲がりながら逃げ……って追いつかない!?
あ、こいつ魔導使ってやがる!
そいつの足元に、仄かな緑の光が見える。
魔道具に身体強化等ができるものはない。
となれば、魔術。
魔導師を動員してまで、彼女を連れ去ろうとするなら……帝国の関係者か。
さらに追いかけ、桟橋街の深いところまではいってきた。
水路上に作られている、木製の狭い通りを走る。
奥に広めの水路が見える。その手前で、袋を抱えた男が道を右に曲がる。
こちらも同じところを曲がり、走る。
奥から誰かが走り込んで――ストック!?奴がいない!
男は確かにここを曲がってきたはず。なら!
ほんの一瞬、彼女と視線が交わる。
ボクは速度はそのままに跳び、彼女は減速しつつ姿勢を低くする。
上には家屋の庇が。そして跳んだボクの正面に映る、庇の端に掴まる人間。
すれ違い様、掴まっている手に、思いっきり蹴り込む。
さらに自分も庇に掴まって、回転。そいつの背中を両足で蹴って――構えるストックの方へ落とした。
ストックが両手で床から跳ねあがり、そいつの腹部に両足を蹴り込んだ。
空気が無理やり吐き出される、音がする。
通路奥に飛んで行く男からは視線を外し、庇に掴まったまま水路を含めて周囲を見渡す。
…………。
庇から手を離し、降りる。
麻袋は、なかった。
「いない。気配もない」
「部屋で二人、途中で一人、ここで一人倒した。
あまり手がかりはなさそうだったが……見ろ」
ストックが男を指さす。
その顔が……なんだあれ??モザイクっていうんだっけ?
見ても顔つきがさっぱりわからない。
あれ、でも見ているうちに、徐々に普通の人の顔になってきた。濃い感じの。
なんだこれ。魔導、じゃないな。光が見えないし。
「これを目印にすれば、多少はいけるか。
あとは、麻袋に青いシミがある」
「…………青房の実を食べてたのか、あいつ」
「ほんと、ただじゃ転ばないよメリアは。
トラブルに巻き込まれやすいけど、いつも耐えて耐えて諦めない」
「……必ず助けてやろう」
「うん」
汗が滴る。
息は整ってきた。
少し――学園にいた頃を思い出す。
いろいろあって、許可をとってストックとちょっと街に出たことがあった。
そこで、丸羽鳥十数羽を積んだ荷車が、横転した現場に出くわした。
鳥の確保に奔走するが、捕まえた鳥の数が足りない。
そのとき一息ついて相談して……最後の一匹を探し当てた。
あの日も、暑かった。
目を瞑り、ストックに尋ねる。
「戦略目標」
ストックが、ふっと顔を緩めた気配を感じる。
「メリアの救出。あとはいいだろう」
「作戦」
「二手に分かれよう。ただやみくもに探すのは――」
「ボクは最短距離で行く。確保または、時間を稼ぐ。
ストック、ブルーパールの上流を封鎖できないか?」
「……やってみよう」
目を開ける。
ストックがボクを見ている。
「頼んだ相棒」
「任せろ相棒」
右手を顔の高さに掲げる。
ストックも同じように差し出す。
手を叩いて鳴らし。
互いに前へ走り出し、すれ違った。
ボクは直線で行って、とにかく出口を塞ぐ。
捕えられればよし、でなくても時間を稼ぐ。
走りながら、深く息をする。
息が音に、音が声に、声が鳴動に、鳴動が雷鳴になって響く。
「__/\/\/\/\/\/\/\/\/\/ ̄ ̄!!」
人から出たとは思えない音が、躍動し、暴れ、街中に響く。
ボクの暗い瞳に電流が走り、紅い輝きを灯す。
――――起きろ、紫電雷獣。
肌が泡立つ。
髪が、逆立つ。
ボクに魔力はないのに、力をもった光が、雷光が迸る。
腕が震える。
脚が痺れる。
そしてボクの思う通りに……動く。
ひとの身の内にあるケダモノが、目を覚ます。
雷光を迸らせ、踏み込む。
普段の最高速に倍する速さで、体が一気に進む。
屋根へ飛び上がり――目指すは北西。
ブルーパールの上流側。
そこから、小~中型の高速魔導船で脱出すると見た。
帝国に連れて行くなら、南に行くのは遠すぎる。あとはまぁ……勘だ。
さぁ。ボクの友達を返してもらうぞ、下郎ども。
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