13-2.同。~同じ食文化ならうまい方を尊重したい~
~~~~アルコールは欲しいねぇ。あの体にしみわたる感じがいいんだよ。
「お前たちの船じゃ、その辺は厳しくなかったのか?」
「魔都からいる生粋の人たちはちゃんとしてたよ。
魔境航行するようになって、いろんなとこから寄り集まってきたんだけど、その結果礼法なんて知らねぇ奴の方が増えた。
ただでさえ業務がとっ散らかってたから、どうしてもおざなりになってったよ。
元々、魔都の貴族でも研究者気質の人たちが集まってたから、そのせいもあるけどね」
「そうだったのか。私が入ったときは、しっかり修めてると思ったのはおぬしだけだったぞ?」
「そうだね。かなり魔都の内戦で亡くなったから。
ボクができてたのは、そこの女公爵のおかげ。
それがなかったら、どっかで撃ち落とされていたかもしれないよ」
礼法という点でなら、例えばキリエだってできてるが、彼女が入ったのはメリアより後。
ダリアは元イスターン王女だけど、そこは適当だったなぁ。
ミスティといい、やればちゃんとできるんだろうけど。
「おぬしばかり負担を負わず、私などに任せてもよかったのではないか?」
「魔都の貴族ならまだしも、他所から来てて出自がはっきりしてる人たちはダメだよ。
どうしてもそっちの人間だって思われちゃう。
メリアにはちゃんと助けてもらってたし、いいんだよ。
ほれ、この辺もしっかり食え」
「むむ。水老だが臭みがないな?うまい」
「臭みて……君が食べたことあるやつは下処理がまずいか、鮮度が低いのだったんじゃないか?」
「帝国の食事事情など、クレッセント並みにずさんだからな。
皇女でも、まともなものは食えん」
「公爵でもダメだったな。食えるだけマシ程度だ」
引いた。貴族でも食うに困るレベルなの?
「えぇ……。雪深いところとか凍土があるとはいえ、惨憺たるあり様だな。そこまでかよ」
「生産力も低いが、帝国貴族はまずいのが是という謎の見栄があってなぁ」
「子どもはそれを押し付けられるし、会食ならそれが礼儀のようなものだった」
なんだそれは。文化として尊重できる限度を超えている。
「礼儀などあってないようなものだろう。法衣貴族どもなんか、食べるフリして酒しか飲まん。
ああただ、東方魔境の最接近領はまともだ。まず応接で食事を出してきちんと持て成す。
別に会食を開き、皿に謎の木彫りの置物を乗せて出し、茶を飲んで話をする。
笑いをこらえるのが大変だった」
そして結局、人はその裏をかくと。
というかなんだ木彫りて。
そんなウィットに富んだ帝国人は、聞いたことがなかったぞ。
帝国の東端まで行けば、そこから先はもう半島じゃない。
帝国東方魔境の防衛領主じゃ、半島魔境を航行する船とは縁がないしなぁ。
ボクが降りた後はあの船、東方にも行ったようだが、ボクがいる間はそんな東まで行かなかった。
「あの辺境伯か……。そうなら面倒くさがらず、誘いを受けて行ってみるんだったな。
いやまてメリア。クレッセントは帝国並みにダメだと?どういうことだ。
神器船都市はそこまでひどくはないだろう?」
今更そこに突っ込むのかよストック。
「私はクレッセントしかしらんが、あそこはダメだな。ほかはどうなんだ、ハイディ」
中型以上の神器船は、都市活動ができるほど大きい。
ただ故あって、自給自足できるような環境ではない。
まったくダメなわけじゃないんだが、外から買った方がいいくらいには、コストがかかる。
「ところによるよ。神器船は農地を作っても、基本的にそこに回す魔力の余裕はない。
神器船都市の農業は荒れ地並みなんだよ。
だから、外から豊富に仕入れられるところならば豊かだが、そうじゃなきゃダメだな。
ストックは、ドーンと比較してるんじゃないか?」
「ん……あそこも王国だということか」
「そーそー。魔境航行するところも、商売寄りのとこはいいらしいよ?
クレッセントは金食い虫と非効率の塊だったから、どうにもならなかった」
「なるほど。二人そろってもう嫌だと言うわけか……お、来たな」
なんか小さめの皿がいくつも置かれていく。
一つは汁椀。
魚……あれ、これひょっとして。
「紅水魚だっけ?川で生まれて、海に出て、川に戻ってくるっていう」
「ほー。帝国にはおらんな?」
「王国と連邦で見られる魚だよ。夏以降に川に戻ってくる。
今年の初物だそうだ。二人とも、生魚は大丈夫か?」
「ボクは平気。聖国で食べたことある。メリアは?」
「ああ、私もだ。ミスティと行ったときに、食べたことがある。
だがこいつ川魚だろう?いろいろ大丈夫なのか?」
「そこは大丈夫だ。王国や連邦は食にうるさいからな。
焼き物と汁物も頼んだから、少しずつ味を見てくれ」
ボクは汁椀に手を、メリアは焼き物の身にフォークを伸ばす。
「ほー。いい塩気だ。身が締まっているな」
「こっちはほくほくして柔らかいね。
でもこれは冬に飲むもんだろう」
メリアにも椀を回し、ボクは生の方を食べる。
醤に少し漬けてあるみたい。
独特の香りがする。身はつるっとしてて柔らかい。
「んむ。私は気に入ったぞ。冷やした室内で飲むのがたまらんな」
「追加しようか。……ストック、ありがとうね」
「おいしく食べてもらえるなら何よりだ」
次の投稿に続きます。




