12-2.同。~やっとついた河辺の街~
~~~~その決意は。友には明かさぬ、二人だけの秘密だ。
パールの街は、大きめの川のほとりにある。
中環道と放射道の交差であるのに加え、河川港まで備えている、モンストン領の交通要衝だ。
街の西側半分には河が支流のように引き込まれており、街中にも川と橋が多い。
我々は街の中央東側に拠点を構え、数日滞在することにした。
宿は例によってギルド支部を探し、そこに決めた。
メリアについても冒険者登録手続きをしておく。
王国では、正規に入国した外国人も、冒険者登録ができる。
ボクもかつてその制度を利用したことがある側だ。
犯罪の温床になりそうな気もするが……そもそも、正規に王国に入国する、ってコストが高いからな。
まず魔境を越えてこなければならない。
それ以外に必要なものは入国にあたってはないが、精霊の監視付きのようなもの。国内での悪事は難しい。
そこまで許容できれば、真っ当に働けば暮らしてはいける。他所の国よりはるかにマシな生活になるだろう。
収入は悪くはないし、生活にかかる出費が非常に安い。
特に食べ物が安いからな。銅貨単位で生活できるのに、入るお金は銀貨だ。
たた金は増えるが、信用は金では買えない国なので、ここで成り上がろうと思ったら大変だろうな。
この国の信用とは、精霊からの寵愛に担保されたものなので。
外国人が一定以上の地位や名誉、経済力を得るのは不可能だ。
王国民になり、数々の義務を伴う「契約」を許容すれば、また話は変わってくるがね。
今、冒険者登録用紙を書いているメリアも、話が進めばそうすることになる。
「ハイディ、部屋はどうする」
ストックが記帳してから聞いてきた。
「ん?どうするって、なに?」
「あー……お前がいいなら、いいんだが」
ストックが、メリアを見ている。
メリアは見られていることに気づいて顔を上げ、きょとんとした。
それから、神妙な顔つきになって。
「遠慮はしてやるが、費用がかさむのではないか?」
「おいまて。何をすると思ってるんだ。
何をする気だストック」
「私は別に?」
「ボクが何かするみたいに言うのはやめろ。
というか歳を思い出せ。我々は四歳児だろうが。
一部屋、ベッドは二つのとこにしとけ」
…………。
何か二人からじっと見られている。
「こやつ、さりげなく寝床の数を減らしたが、どうなんだストック」
「ハイディは甘えん坊なんだよ、メリア」
「よーし、そこまで言うならボクは甘えるぞ。いいんだなストック」
「自重しろハイディ。せめて私に別の部屋をとってからにしろ」
メリアが記入した用紙をストックに渡す。
「ハイディには大人しくしてもらう方向で。
こちらの登録を願います。部屋はこちらで」
「承知いたしました」
受付のお姉さんは、華麗にこちらのやり取りをスルーしている。
侯爵家の裏書持ちの幼児三人とか、厄ネタでしかないしな。
全力で避けるのが一番だろう。ボクだってそうするわ。
ストックが部屋のカギを受け取る。
ボクは床に置いていたカバンを頭に乗せた。
三つくらいなら、軽いもんだ。手を添える必要だってない。
それにしてもここ、モンストンの支部と作りが一緒だな。
調度や色合いが違うくらいか?
北側の領のギルド支部は、ボクの記憶ではこうではなかった。
あっちは平屋で、裏手の庭に厩舎や駐車場があるクチだった。
領によって方針が異なるのかもしれない。
ストックの先導に続いて廊下を行く。
番号からするに、結構奥の方の部屋っぽいな。
メリアと並んで、ストックの後ろについていく。
「少しはもつぞ?ハイディ」
「いいよ。気持ちの問題だけど、これもまた鍛錬だ。
そういや、メリアはなんかせんの?」
メリアは前の時は、頑丈さを武器に耐えながら神器を振り回していた。
多少の魔素制御はしていたが、武術の習得はしてない。
「あー……師がいれば考えるか。神器でもいいがなぁ。
おぬしらは持たんのだな?」
「オーバードライブ使いすぎて、ボクら最後石になったんだよ。
もうこりごりなので、やりたくない」
「無茶をしよる。まぁそれなら私も神器は控えてみるか。
精霊に嫌われても敵わんしな」
精霊に嫌われるかはわからないけど、本人がそう予感してるなら、そうなのだろう。
精霊と武術がボクの中で不意に結びつく。
「それがよかろ。ヴァイオレット様にでも指南を受けてみたら?」
「ヴァイオレット……王国最強の武人と名高いモンストン侯爵か?
なぜ……ん?ひょっとしてストックの母上だな?師でもあるのか?」
「そ。ストック、ヴァイオレット様って精霊魔法使いで、武術家だろ?
メリアが指導を受けようと思ったら、丁度いいと思うんだけど。
ドーンにもいくし」
「そうだな。私からも話しておくよ」
ヴァイオレット様は、この国有数の精霊魔法使いで、武術家。
エリアル様とも同門だっけか。かなりの使い手のはずだ。
「私は呪いまで使う気はないぞ……?」
「君は精霊がいるんなら必要ないだろ。
忘れてるかもしれないけど、ボクら魔力なしだぞ?」
魔導が使えるなら、あんな拷問鍛錬しないほうがいい。絶対そのほうがいい。
次投稿をもって、本話は完了です。




