11-5.同。~未熟な雷光を披露する~
~~~~以前は大変だった。そう振り返られるのは、幸福だな。
メリアが無言で丁寧にお茶を淹れて……ボクに出してくれた。
「まぁ飲め」
「ありがとう。酒勧められてるみたいなんだけど」
一口いただ……うっま。こんないい香りになるのかね。
良い茶葉使えばたいがいうまくはなるけど、メリアの淹れ方は何が違ったんじゃろうか。
「酒と言えば、メリアは辛いのはいける口か?」
「ああ、アルコールはいけ……ではないな。
ハイディがカフェテリアでよく飲んでたと噂の、あれか?」
噂になってたのか。それは初耳だ。
「そうだ。街についたら一杯やろう」
「人間の飲み物ではないと聞いたが?」
「メリアは辛いひき肉料理好きだったじゃないか。
あれのほうがずっと辛いよ?」
クレッセントの中の食堂は味が死んでるので、一緒に外に出たときの話だ。
そういや、うまいうまいって食べたのと同じもの食わせても、反応がないときがあったなぁ。
あれは、意識の有無の差によるものだったってことか。
ひょっとすると、自由意識のあるときは、だいたいのものはおいしいって食べてたかも?
「ああ、赤辛ソースがたまらんでな。
いやまて、だまされんぞ。我々は今幼児だろうが。
子どもに飲ませていいものではなかろう」
「ボクは平気だったよ。拷問みたいな武術鍛錬してるから、そのせいだけど。
メリアは痛みにもおっそろしく強いし、そこは今も変わんないでしょ?」
「そうだが……なんでおぬしはさりげなく、とんでもない単語を混ぜるんだ。
拷問染みた鍛錬とはなんだ」
見せたほうがはえーか。
もう一つ切った黄金果を皿に盛ってストックに出して。
ナイフを置いて。
「では、一手披露させていただきます」
拳と掌を合わせ、武礼をとる。
二人から拍手をもらった。メリアは微妙な顔をしているが、ストックは……わくわくしてやがる。
何だそのかわいいお顔は。漲ってきたぞ?うっし。全力でやったらぁ。
テーブルから少し離れて、深く息をする。
大きな音が出てしまうので、上衣の袖をそっと口にくわえる。
息が音に……ならずに、布に吸われていく。体の魔素が活性化し、瞳が赤く灯る。
そのまま、横を向いて構える。
エリアル様から授かった、雷獣套路。
この套路は短い。都合八手。しかも雷光に乗せるので、一瞬で終わる。
まずは二手をもって構える。云号の相より阿号の相へ。雷光が立ち始める。
震脚にて発気、振動を追い抜く雷光となり体を裁き四手。
最後に素早く居合のような発勁にてしめる。
――――はずだが、五手目、地駄滑りの型のところで盛大にずっころんで、顔で地面を滑った。
全身がしびしびして動けない。もうむり。
「ハイディ!?大丈夫かハイディ、っつ」
ストック、触っちゃダメだって。まだ体に電撃通ってるから。
……横抱きにされた。そのまま椅子に座らされる。
「メリア、ハイディの後ろの席、開いたカバンの中からタオル持ってきてくれ。
痺れるから、この子にはしばらく触れない方がいい」
「わかった。無茶苦茶してるの、おぬし」
メリアがタオルを持ってきて、ストックが布を水場で適度に濡らし、ボクの顔を拭く。
……まだ痺れるだろうに。丁寧に拭くなぁ。
顔は汚れただけで、擦り傷とかはできてないみたいだ。
痺れて痛いだけ。
「普通、魔素制御での身体強化と、エネルギーへの変換は別だろうに。
なぜ同時にやって、しかも体に電撃を流す」
身体強化ってのは前に言ったっけ。一時的なステータスの振り直しだ。
エネルギー変換は、振る分をいくらか使って、準魔導的な現象を起こす。
魔力がなくてもできるが、出力は弱く、効率はよろしくない。
メリアの言う通りの方法をとった場合、ほとんど強化にはならない。
身体強化とエネルギー変換なら、どっちかに集中した方がいいだろう。
呪法はこれらとは違う。
まったく別の法則を仕込むようなもの。
呪いが武の型とかみ合えば、純粋な強化となる。
呪いの中には、その成立で空を飛べるようになったり、火を吐けるようになるものもある。
魔物で言うと……ドラゴンなんかは、呪縛の力で強くなってる代表例だったはず。
様々な宿業を背負っており、強く在ることを強要されているのだという。
人の身ではそんな宿業には耐えられない。
だから扱える範囲の呪縛と、人にしか使えない魔素制御でもって、強さを得る。
次投稿をもって、本話は完了です。




