11-3.同。~木陰の女子会と洒落込む~
~~~~かつて聞いたことがある。王国民に飯の話をするなと。腹いっぱい、食わされるからだ。
ハンドルを左に切って、少し進み、停める。
ちょうどよい感じに木があった。車両後部が日陰にはいるようにする。
「メリア、他のものも出すよ」
「は?え?なんだ急に、同情か?」
「うっさいな。生もの結構積んでるけど、もうすぐ街につく。
余らせるのもったいないから、食べちゃってよ」
「ん、んむ?そこまで言うなら、食べてやらんこともない」
「よし。ストック、後ろ開けたからテーブルと椅子出して。パネル操作で出てくるから。
ボクは果物出すね」
「わかった。準備しようか」
生ものを始め、食料を入れた冷蔵箱は、運転席の下だ。
助手席の下には、飲料を主に積んでいる。
しかし、クルマの外はさすがにあちぃな。
天気はいいが、ピクニックって気候じゃない。
だがたまに風が吹いて、いい気分だ。
川辺の街が近いからかね。
「ハイディ、私は?」
「ゲストは大人しく後ろのテーブルに行ってどうぞ。
そこで水も出るから、手も洗っておけ」
「おう」
テーブルと椅子とか、水道とか、この辺はついてない神器車もあるが、サンライトビリオンには標準装備されていた。
魔境を行くのが神器車のコンセプトだし、アウトドア関係は需要が高い。
とはいえ、特に水の生成魔導を仕込むのはお高い。こいつは飲み水までOKだ。いいクルマだ。
その気になれば果実炭酸水とか、自前で用意できる。買ったやつのほうがおいしいけどね。
「ストック、そっち済んだらメリアのとこの席から、機材出して。お茶セット積んである」
「わかった……これだな。いや、私これ使い方わからんぞ?」
「よぉし手はあらったぞ!お、これ私の知ってるやつだな!
これくらいやらせろハイディ……っておぬしたっかいやつ使っておるな!?」
メリアが大きめのカバンほどの箱をテーブルに置いて、皿やカップを取り出していく。
そしてガワを組み立てると、お茶を沸かせる魔道具の出来上がりだ。
携帯性に優れ、装飾もきれいな逸品だ。一目見て気に入って買ってしまった。
今朝、飲料とか補充に行ったとき、商店で見かけてつい。
こんなに早く使うことになろうとは。
ついでにエプロンも出して、ボクもテーブルの側へ行く。
まずはテーブル脇の水場で手を洗う。ストックが出しといてくれたタオルで拭いてっと。
「君は皇女なのにその辺の金銭感覚まともだね。我々魔物も狩ってるから、小金持ちなんだよ、今」
「帝国は貧乏だからな。そのくせ見栄を張らせられるから、いつも火の車よ。
経理がわからねば、家が燃え上がる」
あー。帝国皇室は、子どもにも爵位やら領地やら与えるんだっけ。
「まったくだ。帝国貴族は二度とやりたくない」
「王国貴族は気楽なのか?」
「そうだな。義務や責任は大きいが、恩恵も十分だ。割には合っている」
二人が妙なところで意気投合している。
お茶の準備はそのままメリアが進めてくれているので、沸くのを待つ間、早速果物を切る。
ナイフと薄いまな板までついてるんだよね、このティーセット。便利だ。
まずはこいつかな。金樹と呼ばれる木になる実だ。黄金果とか、大げさな名がついてる。
大きくて、赤い皮をむいて中の果肉を食べる。するすると皮をむいて、実を切り分けていく。
中は割とよく熟れていて……中心の種周りがまさに黄金だ。甘いんだよな、ここ。
というか、今は明らかに時期じゃないんだけど。
王国は果物や野菜なら季節関係なく、何でも育つんだな……。
実を皿に盛る。一つにフォークを刺して、メリアに差し出す。
「……そうだね。魔物の相手ばっかりだから、メリアにとっては気楽だよ。ほれ、食え」
「んむ。うまい。
しかしその待遇は最高ではないか。
偉いのに目下に気ばかり使うより、妙な呪いに警戒するほうが楽でいい」
「ならクレッセントはよかったんじゃないか?メリア」
「「あそこは嫌」」
「えぇ~……なんでだ。ハイディまで」
そんなこと申されましても。
あそこは絶対行きたくない職場だ。もう二度と御免だ。
というか、ストックの中では我々はただの魔物退治集団だったのだろうか。
違うんだよなぁ。
「ストック、そもそもあそこは研究機関なんだよ。魔境航行は素材収集や研究のため。
魔物を倒すのは生業じゃなくて、ついでだ」
「なんだ、そうだったのか」
そういやボクはストックに、組織運営周りのことは話してたが、あそこの研究絡みはあまり語っていなかったな。
クレッセントの研究は、ボクの肌には合わなくて、興味なかったんだよね。
学園でストックと神器を調べたり開発したりしてたときのほうが、楽しかった。
本当にいいんだよ神器は。ただの攻撃性魔道具にとどまらない。
何をとっても謎機構すぎる。変なギミックがついてたりする。
試行錯誤の塊で、どれをいじっても面白かった。
特に神器車は最高だ。あの武骨な石材の中で、本当に様々な機構が動く。
ボクは目に見えないそれらを想像するのが、本当に好きなんだ。
ゲームで雑な扱いをされてるものとは、信じられない。
神器なくして、この半島の暮らしは成り立たない。
生活自体は魔道具が多くささえてるが、人の生存は神器が支えている。
この世界に現実に生きる我々にとっては、大事なものなんだけどなぁ。
次の投稿に続きます。




