11-2.同。~友の新たな名~
~~~~君ら割と仲良いな?……こういうの、ちょっと嬉しいね。いい。
「運転技術の差じゃないのか?」
まぁ技術でカバーできる範囲の話では、あるにあるけど。
ミスティの場合は、それ以前だ。
「んんー?技術的には確かにボクだけど、ミスティは特にそこ問題ないよ。
あれは改造したいからボロい車体使ってるだけ。
まともな魔石は、改造する費用が滅茶苦茶高いんだよ」
なんでミスティがボロ車体に乗ってたかっていうと、クレッセントのミスティにとって、車体魔石は改造前提だからだ。
魔石に穴を開けてアームをとりつけ、多数の神器を装備させる。
頑丈で高い魔石でこれをやると、耐久性も落ちるし、金も信じられないくらいかかる。だからボロに乗っていた。
そしてそんなことをわざわざするのは……奴が車両戦のスリルの虜になっていたからだ。
取り付けた神器を結晶制御で振り回し、魔物とドッグファイトする。
降りて戦った方が強いのに。今はさすがにそうじゃないと願いたいな……。
「ほほー。では費用を出してやれば、多少はマシになるのか」
「その金はどこから出るんだ、亡命者」
「ゴフッ」
皇女がシートに沈んだので、ストックを見る。
思いついたことがあるので、助言をもらっておきたい。
「ストック、ちょっとお願いがあるんだけど」
「何だ」
「あれにつける名前考えてくれない?カレンはダメだし」
「何でじゃ!?」
「カレン・クレードルを捨てるっつってる女が、その名をこれ以上名乗るな。
せめてお母さまに安全に会えるようになってからにしろ」
「グフッ」
正論パンチでまた沈んだ。
ストックは顎に指をあてて、ボクに言われたことを真面目に考えているようだ。
「カレンはそうだな……こう見えて自然……気取らない感じか。
控えめとはいいがたいが、黙っていればその名の通り可憐だな」
「そだね。なんかある?」
「メリアというのはどうだ」
「由来は?」
「ツバキだよ」
「なぜそこに行った。というか『カ』はどこに行った」
「カレンとカメリアだと、名前の印象が被るだろう。だから抜いた。
あとこういうのは勘だ。お母さまもそう言っていた」
「そうか。ヴァイオレット様由来なら間違いないな」
「信頼が厚いじゃないか」
「ボク、君の名前は結構好きだよ?どっちも」
「……そうか」
「ガハッ」
今何で沈んだんだ貴様。
おや、起き上がって座席の間から顔を出してきた。復活早いな。
「だが、その名は良い。私はこれから、メリアを名乗る」
「そう。よろしくメリア」
「気に入ってくれてよかったよ、メリア」
「んっふっふ。よくこの名を思いついたなストック。
特別に褒美を取らせても良いぞ!」
「だから褒美の原資はどっから出るんだ。持ち合わせすらないだろう君」
「オグッ。ハイディ、おぬしさっきから抉り込みすぎだろう」
そんなこと言われても。
しかしなんか、気になる言い回しをされたような……?
「メリア、やっぱりハイディは運転がうまいのか?
私は神器車にはほとんど乗ったことがなくて、よくわからないんだが」
聞くのを待ってたようで、ボクらの話が終わったとみてストックが話題を変えた。
「控えめに言って、生きてる世界を間違えておる。
ドリフトとウィリーをジャンプを駆使して、魔物の顔面を当たり前のように削りおる。
しかもそんなアクロバティック運転してるのに、同乗しても揺れも負担もない。
おぬし、乙女ゲーじゃなくって、レースゲームに出るべきだろう」
「「…………」」
ちくしょうなんてこった、こいつもかよ。
仕入れどころはどこだ。
「ん?通じんかったか?」
「通じてるけど、出所がわかんねーんだよ。
ボクらは変わった魔結晶を取り込んだら、そのゲーム?とやらの知識が入った」
「おお。なら私もだな。ほれ」
令嬢が脚出すなし。
ボクは運転中なので、ストックが見て確認してる。
どうも右足……脛にあるみたいだ。
「黄色か。どこにあったんだ?メリア。帝国か?」
「いや、さっき林でハイディに轢かれそうになったときに、膝をついたら落ちてた結晶を踏んだ。
めっちゃ痛かった」
「ハイディ」
「ごめんなさい」
運転中だから頭は丁寧に下げられんが、素直に謝った。
ストックが心配だったんです。雑なことしてごめんよ。
しかし……その辺の林に落ちてるわけねーだろ、って思うけど。
いや、ひょっとしてそういうもんなんだろうか?
ボクらの取り込んだ特殊な色のものでなくとも、天然の魔結晶は意外なところで見つかったりするしな。
魔結晶は、魔素が魔力になる過程でできるので、結構自然出土もするのだ。
魔素や魔力は人体には豊富だが、自然界にも普通に存在する。
ただ結晶は、多少ぶつかった程度で人体に取り込まれるものではない。
ボクがやったように、本来は結構深く刺して粘膜に取り込ませないといけないはず……。
この色付き結晶は特殊なのか? 刺したあと、気づいたら入り込んでたしな。
「よいよい。おかげでかしらんが、例の夢のような霞のようなあれは、まったく来んしな」
「あれってそんな頻繁に来るの?」
「基本的にはそっちだ」
「……それはお辛い人生なんじゃないのか?」
「んんー?そもそも、そう感じることもない。
その間は味がわからんから、そこがちともったいないがな」
辛いと感じる意識すら、『カレン・クレードル』に引っ張られて沸かない、ということか。
ちょっと想像がつき辛い感覚だな……。
ストックが不思議そうな顔をしているので、ちょっと説明する。
「ストック、今のボクらは前とは違う人生を歩んでるよな?」
「そうだな」
「メリアにはそういう、違う人生の記憶が無数にあるそうだ。
まぁ、自分で体験してるのは……前と今回だけ、であってるかな?」
「ん……概ね合っておる」
……何か濁したが、置いておこう。
「その上で、夢を見ているみたいに、自由がないときがあるんだってさ」
ストックがお労しい感じの表情になった。
「そんな顔するなストック。私はそれでも楽しく生きてるぞ?
特に今生は、期待が持てそうだ。
……青房はこんな味だったのだな」
たぶん、ボクもお労しい感じの顔をしている。
ストックを見ると、こっち見てた。頷き合う。
よし。
まだ午後遅いくらいの時間。見晴らしもいいし。
ちょっと街道外れたとこで休憩でもしよう。
次の投稿に続きます。




