11.パールの街近郊にて、語らう。
――――よーしそこに直れ帝国民。王国のフルーツを食らえ。
後始末に時間がかかった。
まず、改めてストックとカレンを互いに紹介。
事情を話したら、ストックは普通に嫌な顔をした。ですよね。
そして承諾した。王国民としては、精霊を出されたら無視できんしな。
亡命に関しては……むしろドーンに行ってから相談しようとなった。
それまでは秘する方向だ。
そしてこちら側の事情も、ある程度話した。
二人とも呪いの子で、前のときからやり直していること。
巫女に推挙されたので、ドーンを目指していること。
数年後のあそこの襲撃を止め、王国の滅亡を食い止めたいこと。
カレンは神妙な面持ちで聞いて、最後に賛同してくれた。
御付きの人たちは、カレンが普通に説得した。
素直に聞き入れられて……この子、人望はあるんだよな。
しかも、帝国に戻すのではなく、王国に亡命させるとか言ってた。
いけるんかそれ。なんか伝手があるとか言っていたが。
救援に来た人たちには事情を話し、彼ら四人を連れて行ってもらった。
グレイウルフは別途、討伐隊や調査隊が組まれるだろう。
ボクらが相手する理由はないというか……それは領の貴族の仕事だ。
場合によっては、ヴァイオレット様がすっ飛んできて片づけるだろうな。
そして三人旅になったわけだが、モンストンに戻るのではなく、そのままパールの街を目指すことにした。
引き続きボクが運転、助手席にストック。今はストックの後ろにカレンだ。
適当にお菓子や果物や飲み物を渡してある。ドアから小テーブルを出してそこに乗せ、堪能しているようだ。
帝国は食糧事情がアレだからな……。カレンは食いしん坊だから、あそこで暮らすのは辛かったろう。
なお、林でお菓子を持ってきたストックに、カレンはすぐ懐いていた。
あんだけ怖がってたのは何だったんだ。
今は、普通にお互い、呼び捨てで呼び合って、気安く話している。
皇女と高位貴族令嬢の会話ではないな。
主に、帝国の食糧事情の愚痴で盛り上がっている。
「おい、ハイディ」
「なに?」
急にこっちに話が飛んできた。
バックミラーをなんとなく見ると、ちょっとだけカレンが映ってる。
……青房の実が出す果汁は、水じゃ落ちないんだが。首元にめっちゃついてる。
美味しそうに食べてるから、余計なことを言う気はないが……ドレス汚しすぎだろう。
洗濯機に放り込めばいけるが、あれ絹だよな?大丈夫なんだろうか。
クレッセントにあったやつなら、綺麗なドレスについた血潮だって、布を傷つけずに洗い落としてくれたが。
そういえば、代わりの服も用意してやらないとな。
一応、荷物は持ってて、服は入ってた。ただドレスばっかりだ。行動に支障をきたす。
パールでの用事が増えた。
「神器車ってこんな快適じゃないだろ。もっと揺れるものじゃないか?」
「高いのはこうだよ?ミスティが乗ってたのは車体が安いからね。
あれはだいぶ揺れたろう」
カレンは、ボクの運転する神器車にもたまに乗ったが、よく行動を共にしていたのはミスティだ。
戦闘を車両でやろうとするミスティと、降りて戦おうとするカレンはよく衝突しながらも、仲がよさそうだった。
なお、カレンは結構すらっとした美人になるので、ミスティは体格で追い抜かれて、並ぶと年齢と印象が逆転する。
で。基本的に、車体の揺れは魔力流の問題なので、核結晶の性能で決まる。
安い結晶の魔力流は、地面の凹凸をうまいこと吸収してくれないので、走ると揺れる。
なので例の高そうな結晶を使っているミスティのクルマは、快適なはずなんだ。
ところが彼女は魔石に金をかけないので、結晶の性能を十分発揮できていなかった。
ボロい魔石のガワに良い結晶だと、魔力流の高い出力をうまく緩衝できず、結局振動が起きる。
あれ、走らなくても魔力流出すだけで微妙に揺れるんだよね……。三半規管が弱いと、すぐ酔っちゃうやつ。
よくカレンは、ミスティといつも一緒に乗ってられたわ。ほんと頑丈だよ。
……ん?そういやさっきはなんで、ミスティの運転を嫌がってたんだ。
前は確かにそういう愚痴も聞いたが、それでも普通に一緒にいたぞ。
はて。
次の投稿に続きます。




