10-2.同。~旅の道連れ、増える~
~~~~……前の時間を覚えているなら。君はなぜそう、笑えるのだ。友よ。
空いたボトルを引き取りつつ、カレンの汚れた手をハンカチで拭く。
さっと拭きながら考えて……まとめつつ、口にした。
「正直に言う。まず気は進まない」
「ん?なんでだ」
「ボクは今、楽しい楽しい二人旅の最中だ。邪魔だ」
「ぷっ、そーかそーか!そりゃ目出度い。だが連れてけ」
「それから、ボクに利点がまったくない。このままでもボクの戦略目標には支障がない。
君を連れて行くことで、それが大いに乱される可能性がある」
「目標はなんだ?」
「ドーン滅亡阻止」
「わかった。連れてけ」
「それから建前だ。出奔した帝国皇女を、聖域に連れて行く理由はボクには用意できない」
「よし、それはお前以外に頼もう。連れてけ」
「最後に。それは『カレン・クレードル』の行動じゃないだろ?大丈夫か?」
「やる。連れてけ」
「分かったよ」
「よぉし、では連れて……は?いいの?」
めっちゃ狼狽している。
断るわけないだろ。今のボクは王国民だぞ。
高位精霊の囁きってのは、神託みたいなもんだ。逆らったら非常にヤバイ。
それがドーンにこいつを届けろっつってんだから、国難に明らかに直結してる。
決して無視できない。
「良いっつってんだろ。ただ適うかはわからんが、条件は付けるぞ?」
「言ってみろ」
「王国民になれ。いったん亡命し、手続きして帰化しろ。
明らかに君を呼んでるのは、長き名を持つ精霊だ。
そんな人間を、他国に出せるか」
精霊は、「ウンディーネ」のような種族名のほかに、『忌み名』と呼ばれる個体名を持っている。
精霊が、そうなる以前の名前、らしい。
長き名、と言った場合は、三節からなる名前だ。節が多い方が、位が高く、強力な力を持つ。
…………契約してない人間を、遠くから呼び寄せるなんて。
この三節忌み名の精霊――精霊王で間違いないだろう。
その手の話は、ファイアで読んだ本に、いくつも出てきた。
そんな精霊に呼ばれるということは、この皇女は王国最強の大魔導師になれる資質の持ち主である。
帝国に帰すわけにはいかない。
「承服しよう。ぜひ頼みたい」
あっさり応諾された。まぁそうか……。
「君、帝国大っ嫌いだったしな……」
「そもそも!王国の姫であった我が母を、誘拐同然で側室にしたのがあの皇帝ぞ?
滅ぼしてやりたいが、手を貸さぬか?」
「その気もないのに、言うんじゃないの。
お母さまに会うんだったら、手を貸してあげる」
彼女の母にあたる帝国に渡った王女は、側室にされたが、その後に離縁して王国に戻っている。
娘であるカレンだけ、帝国にとられた状態だった。
ただ、そのカレンのお母さまも、王国に戻ってからどこに行ってるのかが不明だ。
誰かに事情を聞けばわかりそうだけど、悩ましいところだ。
少なくとも、カレンは前のとき、そのあたりをだいぶ調べ回っていたが、見つかっていない。
そもこの子の記憶のことを鑑みるに、それがわからないってことは、数々の人生で一度も会えてないってことなんだよな……。
どんだけ厳重に隠されてるんだろう。
ん?なんかめっちゃ見られてる。
「おぬし、そういうとこだぞ」
「なんだそれは」
「婿なのか嫁なのかわからんが、伴侶がおるんだろう。
なら他の者にいい顔するではないわ」
「だったら遠慮してくれる?」
「足を別に用意してくれるんだったら考えんでもないな!」
「モンストンの街に、ミスティがいるけど」
皇女の顔色が変わった。
最初すごい嬉しそうな顔をしたあと、今は青ざめている。
「やめろ。それだけはやめろ」
「よし、モンストンに戻るか」
「やーめーろー!泣きわめくぞ、縋りつくぞ、駄々をこねるぞ!?」
「そこまでかよ……」
「お願いします、ハイディの運転がいいです。ミスティはいやです」
「そこまでかよ…………気持ちはわかるし、わかったよ」
カレンはすごい力が抜けたように、へなへなと座りこんだ。
ミスティ、普段の運転は普通で丁寧なんだけど、魔物との車両戦になるとすごいことになる。
カレンはミスティには懐いていたが、あの運転はダメなんだろうな。トラウマを患っていそうだ。
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