表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
504/518

Y-1.聖国近郊魔境。――――別れ【ストック視点】

――――私は今生においても。悪役を、任ずる。悪の最後は……破滅だ。


 大きな穴が開いて。


 あの黒い影ような、蛇の残骸のようなものは、確かに消えた。



 …………これで王国は大丈夫、ということだろう。


 呪いの祖は、私の祖国を呪っていた根源は、消えた。



 お母さま、お父さま、お兄さま。


 私はやっと、果たしました。



 皆の未来を守れたと、そう胸を張って言えます。


 悍ましい滅びと、破滅の何かではなく。


 人が、生きていける未来を。



 いろんな人の、手を借りて。


 何よりあの――――愛しい人に、助けられて。



 別れの前に、それが果たせて……よかった。



 おや。


 ハイディが、こちらに走り寄ってくる……珍しい。


 戦闘中でもない限り、滅多に走ったりしないのに。



 周囲確認をもう一度してから、変身を解く。



「っ。ストック?」



 リィンジアとも分離。


 そばには、ネフティスの後部車両。



「もう大丈夫だろう。


 ハイディも来るみたいだし……。


 そっちも、ウィスタリアを迎えにいったらどうだ?」


「ふぅん。はっきり言ったらどうかしら。お邪魔だって」


「そっちの邪魔はしない、と言ってやろう」



 互いに、にやりと笑って。


 彼女は……ちょっと聖女にあるまじき跳躍で、遠くのウィスタリアの元へ向かった。



 ありがとう、リィンジア。



 あまりその呼称で、呼ぶわけにはいかないけど。


 お前もまた……私の相棒だ。


 ほんの短い間だったけど。お前の套路は美しかった。



 ハイディを待っていたら、突然ネフティスに乗り込んできて。


 融合されたときは、ほんとどうしようと思ったけれど。


 彼女の計画通りだったとは、恐れ入った。



 我が武の祖よ。


 ウィスタリアと、仲良くな。



 リィンジアの飛び去った方から……私の愛しい人が走ってくる。



 ……ただでさえ、珍しい姿、だから。


 目に焼き付けておこう。


 申し訳ないのだけど、今だけはじっと見せておくれ。ハイディ。



 見納め、だろうから。



 速度を落としつつ、ハイディが私を見つめる。


 目が、離せなくなる。



「どうしたハイディ」


「ストック」



 声。


 ハイディの、可憐で、とても凛々しい声。



 時に無常観すら漂う、達観した響きを持ちながら。


 強い命の炎が、漲るような。


 大きすぎる自然。太陽を思わせる、音。



 私の閃光――――。



「時間があるかわからないから、君の嘘を教えてもらいにきた」



 息が。


 鼓動すらも。


 止まった気がした。



「嘘、とは?」



 声が、震える。



「確信や証拠はない。


 ただの勘なんだがね」



 私は、よく知っている。


 そう前置きをする、ハイディの。


 勘が外れたことは、ない。



「君とボクじゃ、ゲームに対する認識が違う。


 それは話したね?」


「ああ、聞いた」



 ハイディから聞いたことは、不思議と忘れない。



「君のそれは『プレイヤーのもの』だ。


 記憶を失ってるわけがない」



 斬り、こまれた。



 ……そう。別に忘れてる、わけじゃない。


 この世界に来る、前の。転生前のこと。


 ただ私は、その頃の自分が好きじゃない。



 いいことばかりの、人生じゃなかった。


 大事な人は、いたけれど。


 異性を好きになれない私は……生きづらくて。



 母は、理解してくれた。


 父は最低のクズで、実はほとんど会ったこともない。



 苦労は意外に少なかったけど。


 でもそのクソゲーにのめり込むくらいには、現実が辛かった。



 ずいぶん昔にサービスが終わった、ソーシャルゲーム。


 『揺り籠から墓場まで』。その一作目。



 オフライン用のデータを手に入れて、やって。


 サーバーを立てて、有志と遊んで。


 仕事とそれで、大層睡眠時間が削れた。



 そのせいで。


 優しくしてくれる、幼馴染とも、少し縁が薄くなって。


 ううん、それは言い訳。私は彼女から、離れたかった。



 ずっと一緒にいて。


 好きだって言えないのが、とても、辛かったから。



 多くのことから逃げた私は、ついに現実からも逃げた。


 そのゲームの向こうの世界から、呼ばれ。


 気づいたら悪役令嬢・リィンジアになっていた。



 そんな自分を。


 私はあまり、ハイディに晒したくは、なくて。


 ……嘘つきで、ごめん。



「認めるよ。私には、地球で生きた記憶が、ある」


「詳しく聞きたいね。特に、この世界に来た経緯とか」



 ここまできたなら……いい、か。


 なぜお前がそれを、こんなに気にするのか、わからないけど。



 もう、お別れだもの。



 ハイディはたくさん、がんばってくれた。


 でも、無理なんだ。



 あの日、それがよくわかったから。



「……時間もないだろうし、ざっと説明するぞ。ハイディ」



 クエルたちはたぶん、神主・東宮を探しに向かったんだろう。


 奴を滅されたら……私はもう、この世界にはいられない。


 あまり長くは、かからないと予想している。



「拝聴しよう」



 えっ。



 なんで真面目に頷きながら、私の腰に手を回したの??


 いつの間に。気が付かなかった。距離を詰められた。


 ハイディ?どうしたんだハイディ??



 ぐ。顔がちか、じゃない。すごい真面目だ。


 近いけど。すごい近いけど。



 話、話をしよう。



 息……息が、かかる。


 甘くて、くすぐったくて、のけぞりそう……。



「……私は、向こうでは紫羅欄(あらせいとう) 竜胆(りんどう)といってね。


 しがない研究員をやってる。


 趣味で、とっくの昔に終わった『揺り籠から墓場まで』を掘り返して。


 他の人も遊べるように、サーバーを建てて……という表現は分かるか?「わかる」そうか。


 シナリオに納得いかないから、改造したり、追加を配信したりしていたんだ。


 特に、悪役令嬢リィンジアが気に入っていて……その人生を、なんとか救えないかと考えていた」



 そう。最初はこう、リィンジア推しだった。



 こ、心読んでないだろうな!?


 今はお前推しだから、このタイミングで目を覗き込むな!



「AI……人工知能、ああウィスプみたいなものを入れてね?「人工知能は分かる」ん。


 それでシナリオを演算させながらやっていたんだが、どうしてもリィンジアが救われない。


 なぜかヒロインのウィスタリアと相打ちになる。


 もしかして、ヒロインの側を何とかしないといけないのか、と試行錯誤していた時。


 声を、聴いたんだ」


「精霊の囁きか」



 ささやくようにいうのやめて。



「……驚いたよ。AIかと思ったら、そうじゃなくてね。


 頭がおかしくなったのかと思った。


 それである日……急にこちらに呼ばれて――この世界に来たんだ」


「まて。そのシナリオ……ボクらが体験した、前の時間だが。


 君が改造したものの中に、あったのか?」



 ん?そういやぁというか、ラリーアラウンドも、クレッセントも。


 それに神器だって、なかったはずだ。



 ハイディが言うには、本当はあるんだろうけど。


 たぶん、課金用データは削られてたんじゃないか?


 オフライン用にするにあたって。



「…………そういえばなかったな」


「わかった。続けて」



 言われて見れば、あれは不思議だ。


 少しだけ目を伏せ、整理する。



 私の運営していたサーバーは、この世界とは違う、ということなのだと思う。


 ひょっとしたら、過去の……配信されていたころのゲームとすら違うのだろう。



 ゲームに似た世界が、まずたまたまあって。


 そこと地球がゲーム経由で、なぜか繋がって。


 クストの根が「逆輸入」?されてしまったのではなかろうか。



 ただ穏やかに、緩やかに、魔素と魔結晶の循環の中、滅びと発展を繰り返してきた世界に。


 ゲームというシナリオが、クストの根によって突き通され。


 役ができ、強制されるようになり、破滅が蔓延するようになった……私はそのように感じている。



 しかし。



 クストの根という、ゲームからこの世界の入り込んだ、ある種のバグ。


 ゲームの進行を押し付けつつ、時代を遡ってすべてを破壊する先進波。


 それによって滅茶苦茶にされていた世界は、それでも独自の発展を遂げたのだろう。



 精霊が。人間が。ともに手を取り合って。


 そうして。


 彼らが長く、ゲームに対抗し、しまいには決定的に違う、ハイディという結末にすら辿り着いた。



 それでも足りないものだから、私を地球からこの世界に呼んだのではなかろうか。


 その期待通りに、私は、私たちは、クストの根を排除し。


 その種子たる邪魔(ヤマ)も、根こそぎ消滅させた。



 神主については、スノーたちがうまくやってくれたようだし、今も東宮にアプローチしているだろうけど。


 ハイディとともに、ゲームの破滅を滅茶苦茶にしてやったのは私だ、という自負はある。



 そして東宮の消滅と共に、それは終わる。


 私の役目は……終わるんだ。

次の投稿に続きます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

――――――――――――――――

幻想ロック~転生聖女は人に戻りたい~(クリックでページに跳びます) 

百合冒険短編

――――――――――――――――

残機令嬢は鬼子爵様に愛されたい(クリックでページに跳びます) 

連載追放令嬢溺愛キノコです。
――――――――――――――――
― 新着の感想 ―
[一言] そういやストックはどこから竜胆だったんだろうか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ