9-4.同。~友よ、なぜここにいる~
~~~~急に魔物が出すぎる。ここは本当に、あの王国か?
魔力の溜まりを感じ、アクセルを離してギアをシフト。
サンライトビリオンが急加速し、坂を一気に駆け上がり、奴の手前で跳んだ。
グレイウルフがぎりぎりで気づいてこちらを振り向き――その顔面を魔力流に飲み込まれた。その顔面「を」→「が」の間違いかな……?
神器車は匂いもしないし、音もほとんど立たないからな。見えてないと気づくまい。
魔力はわかるのに、魔力流だと魔物が気づかない仕組みは、よくわかっていない。人間には非常に好都合だが。
通りすぎ、片側で着地。ハンドルを回しながら移動し、車体を水平に戻す。
魔物の体が崩れ落ち、大きな音と振動がした。
魔物はたいがい、傷をつけられても急速に再生する。
でも、目はダメだ。両目を損傷すると絶命する。
回って狼の正面まで戻ってくる。
そのまま、倒れ伏した魔狼の顔のあった部分をもう一度轢き潰しつつ、林へ突入する。
魔狼の背を乗り越えると、広めの獣道があった。馬車や神器車がすれ違えるくらい、幅広だ。
道が奥の方まで、真っ直ぐ続いている。
遠くにあと二体、グレイウルフがいる。
その手前、左手側に倒れた狼の足が見えて……あれはストックがやったかな?
そして、その足の近くに数人、人が。
けが人はいそうだが、まだ犠牲者はいない感じか?
馬は見当たらないから、逃げたか食われたか、か。
彼らの近くまで寄って、窓を開ける。
「後ろのグレイウルフは倒してあります!
早く林から出て逃げて!」
「また子ども!?」
「今、女の子が……」
「ボクの相棒ですから大丈夫!それより早く!」
少し前に出て、彼らと二頭のグレイウルフの間に入る。
狼どもは、魔力流を見て及び腰だ。
「待って!奥でもう一人戦ってるの!」
…………?この人たち、冒険者っぽくはないよな?
神器を持っている様子もないし。
戦うとは、はて。
「お、おい!」
「でも……」
事情がありそう。
そして前の二頭以上にグレイウルフがいることは確定。
ストックは一体は倒してる。今は姿が見えないので、さらに奥へ行っているようだ。
…………まずいな。倒れている狼は、ほどよく焼けている。あの発勁を使ったんだ。
彼女の魔素はもう、余裕がないだろう。
その上で、敵の数がわからない。
グレイウルフは群れを成す魔物だ。10匹以上残っている可能性もある。
そして、神器車で正面から向かうと、逃げられてしまう。
奴らは素早いし、ここは林。動き回りづらいから、簡単には倒せない。
生存者が三名。奥に一人。それとストック。
――まずいと思ったときは、か。
口角が自然に上がる。気持ちが落ち着き、発想が逆転する。
よし、逃げよう。
後部座席の二つのドアを開く。
「乗って!奥の人と相棒を拾って、脱出します!」
少し悩んだ様子を見せたあと、三人はクルマに乗り込んできた。
座ったのを確認してから、ベルトを締めさせ、直進。
グレイウルフが二体とも、道を開ける。
その先、奥に開けた場所が見える。
広場には巨大な狼が……2,3頭かな?
あと、小さな人影が二つ。
一人は白地に青い上着の、ストックだ。
もう一人は折れた剣を持った、なんか水色っぽいドレスの…………。
……………………。
なんで王国におるんじゃ。
とりあえず、もう何もかもめんどくさくなったので、広場にそのまま割って入る。
ハンドルを切って車体を回し、ブレーキ。ストックの方に助手席を向けて、止まる。
もう一人はちょっと車体がかすりそうだった。向こうが避けたけど。
助手席のドアを開けると、ストックが滑り込んできた。
背面のドアも開ける。
「呼びかけてください。そこに乗るように」
「お嬢!!大丈夫ですか、こっち乗って!」
なんだお嬢て。どんな呼ばせ方しとんねんこやつ。
後方にいたちびっこいのも、乗り込んできた。
何か痛そうな顔だが……傷はなさそうだな。
そして持っている折れた剣は、神器ではなさそうだ。
それでよく魔物相手に頑張ったな……。今四歳くらいのはずだろ?
「では、馬車が逃げたほうを目指しますよ」
背面扉を閉めて、発車する。
魔力流を見て、狼は身を引いた。
林の端で轢いたやつを乗り越え、外に出る。
「王都の時のように、また轢かれたかと思ったぞ、ハイディ。
少しは私に敬意を払うようになったか?ん?」
最後部の奴が愚痴ってる。見えねぇ。
「君が捕まりそうになってたから、諸共轢いたって言ったよねそれ。
カレンが神器車に轢かれたくらいで、ケガするわけないでしょ。
あと、これでも君のことは尊敬してるから」
ボクが神器を三本壊して、ようやく首を刎ねたやつだぞ。
クルマで轢いた程度で傷なんてつくわけ…………
……………………。
「馬鹿なあああああああああああああ!!!!
どういうことだカレン!?」
「あっはっはっは!!その悲鳴も久しいな。
言っただろう?」
狭い最後部で、幼女が堂々と胸を張っている……はずだ。
座席と人で見えねぇよ。
「私は呪われている。同じ時を繰り返している、とな」
「そこでキメ顔しても見えねぇって」
思わず突っ込んだ。
隣でストックが困惑してて。後ろの三人もどうしたものかというお顔だ。
ボクは正直、淑女みを吐き出しそうです。なにこれ。
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