22-2.同。~Hidy【隠し場所】~
~~~~助手席に座らせたことは、内緒ってことで。
ん……。
ほんのわずかに飛んだ意識が、戻ってきた。
いつか見た、まだらに覆われた闇の空間。
クストの根の本体が、いたところ。
なるほど。
つまりはこの封印ぽいの、過去のボクが得意としていたのか。
でもそれをある種のごみ箱代わりに使うのは、どうかと思う。
5mほど前。ボクのような姿かたちの女がいる。
ウィスタリアより、よっぽどボクにそっくりだ。
これは。
「体がない……あるいは。
本体からは長く離れてるから、ボクを模しているのか。
祖霊といったか」
「ええ、ソレイよ。
初めまして。久しぶり?ハイディ」
ん?イントネーションが違う。
祖霊じゃなくて、ソレイ??
あ。そういう名前なのか。
「初めまして、だ。
それで?」
「邪魔だから死んで」
彼女はオーバードライブで神器・聖人を生成。
躊躇いなく切りかかってきた。
ボクは袖を咥え、僅かに瞠目しつつ、魔素を拡散。回避。
避けながら5つばらまいた分身の一つが刃を止め、残りに殴られてソレイが後退する。
…………魔素の反応がない。
元は「人間」だそうだが。
精霊と化して、今は肉体もないなら、魔素がないのは当たり前、か。
魔導には僅かに魔素の含有があるから、そこを起点に崩すんだが。
それすらないとなると……どうしたもんか。
ボクの肉体を模しているから、ボクの膂力でも殴り倒せるが。
聖人を出された。再生する。
このままだと、決着がつかん。
向こうもそう思ったのか、再生頼みの特攻を――――違う!
分身を、すり抜けるように迫ってくる。
これは、外部魔素制御!本人に魔素がないだけで、制御はボクと同じことができるか!!
彼女が刀を振るい。
ボクはそれを読んで、交差。
互いが、大きく離れる。
……頬をかすめたようで、少しひりつく。
「ふふ。勝てる、勝てるわ!あのハイディに!!」
だから何者だよ過去のボク。
「このままあんたの技で、切り刻んであげる。
ふふふふふふ……」
絶好調だな。
しかしボクの、ね……そういやどうして使えるんだ?
今、分離してるだろ??
思わず、上を見上げる。
このまだらの空間を。
…………そういう、ことか。
ここ自体が、精霊を司るだろう、ソレイの領分。
だからボクの……魂にこびりついた技の真似ができる、のだろう。
つまり。
ボクのものじゃない技は使えないし、対処できない。
ここにはボクとソレイしか、いないのだから。
「ボクは戦闘において、強く禁じていることが一つある」
目線を戻し。
ソレイを見る。
ボクと同じ顔の、違う女。
「戦闘前と戦闘中に、喋らないようにすることだ」
「……は?」
彼女の不機嫌な声が、聞こえる。
ボクの頬の傷がなくなり。
そうだな……せっかくだし、あれをやってみようか。
今なら本気出しても、大丈夫だし。
魔都行き前に用意した新しい体は、絶好調だ。
「話すなら戦闘後。言葉は相手に知見を、強さを与える」
「何、煽ってるの?」
「もう終わったってことさ」
ボクは、くるりと、回る。
「『【空】に【回】りて、問う』」
かつて、ウィスタリアが見せた技。
そして、エリアル様の技。
「問い」の至り。
「『汝、如何にすれば分かたれるか――――』」
ソレイは警戒して構える。
……悪手だ。
何がなんでも、今この一瞬でボクの首を落とすべき、なのに。
借り物では、そこまでだな。
「『霊の祖よ、斬れ落ちよ』」
一回転したところで、止まり。
裾を両手でつまみ、足を引き、頭を下げる。
「がひゅ」
問いに、答えが返った。
ソレイの五体が爆発したように。
ばらばらに、こなごなに、ただの血煙になって。
聖人すら、破壊され。
その首だけが、落ちた。
一応ここ、床らしきものはあるが。
こう……自分の生首が浮いてるようにしか見えない。
気分が悪いな。
こんな全力を出せば、ボクの体だって砕けるところだが。
特に不調はない。
ソレイがボクを乗っ取った時。
聖人はボクの技に耐えきった。
なら、同じもので体を作ればいい。
そうすればボクは、すべての力を尽くせる。
「な、こんな、今のあんたは!ただの人、でしょうに!?」
生首で喋られるのこわっ。
まぁ確かに、精霊をばらばらにするとか。
人の所業ではねぇな?
だがまぁ、人っていうかロボだな。今のボクは。
人類の叡智を舐めるなってことだ、精霊。
「人に過ぎたる力、というやつだ。
君が勝手に使おうとして、ボクの右腕が割れただろう?
人の身は、そんな頑丈にできてねぇんだよ」
しかし今なら、存分に用いることができる。
いつか言っただろうか?
これがボクの「代償が大きい力」だ。
神器もそうだがねぇ。こっちはその比ではない。
ボクは刃物のほとんどが使えない。料理にはなんとか使えるようにしたが。
「斬ろう」とすると、斬れる。でも刃が持たず、砕ける。
刃がなまくらだったり、肉体で近いことをすれば、体が破損する。
一応、治癒の魔導で治るけどね。とっても痛い。
確か前の時間で、魔素制御ができるようになった頃からそうだった。
やっぱ自分の魔素を空気中に出し、しかも操れるってのは相当おかしいことらしい。
脳の全力を出せる、というのもこれに拍車をかけているようだ。
魔素を直接制御する、という機能は、技術的再現ができていない。
魔力にする等、別の力を経由する必要があった。
ゆえにこそ、それを行える武術は難しく、武術家は強いのであり。
その中でもトンでもに位置するボクは、人の領分を超えているのだ。
有難迷惑にもほどがある。
普通に強くなれるように、してほしかったものだ。
「世界を、超えている、ということ……」
世界が認められる範囲を、勝手に踏み越えてしまうんだろうねぇ。
「かもね。
さてソレイよ。
なぜここにいる。
君は、勝手に出ていけただろう?」
ボクの意識がないとき、体を動かしていた疑いがある。
封印も何も、そのとき出てしまえばよかったはずだ。
まぁ、やられたらボクは死んでただろうけど。
精霊が宿れば、そのものは不壊となる。
そして精霊が出てしまうと、壊れる。
ただそれにしちゃあ、ボクはちゃんとケガをしたからなぁ。
宿ってる、とはちょっと事情が違うんだろうか。
「…………あの子を助ける、ためよ」
「君の対、呪いを司る精霊」
「そうよ。だからずっと機会を伺ってた」
「なら、なおさらわからん。
なぜ今出て来た。
ボクに任せておけばいいものを」
「あんたは!あの子を殺すでしょうに!!
あの時だって、そうだった!!!!」
えぇ~……なんでそこでおこなのよ。
「いや何言ってるんだよ。
その気なら、仕留め損なうわけないだろ。
君の知る過去のボクは、そんなに間抜けなのか?」
生首が喋るのをぴたり、とやめる。
目が泳いで。
泳いで。
…………めっちゃ泳いで。
「でも!」
おお、抵抗した。
「反骨はいいと思うが。
自分の首から下を飛ばされたことについては、どう考えているのだね?」
「っ」
当然だが、いつでも止めは刺せるし、この子に抵抗能力はない。
ボクを模している以上、装備もなく魔導は使えないからね。
「ボクが望むのは『大人しくしてろ』これだけだ。
この対峙は意図するところだが、それはこちらの要求を伝えるため。
報酬の用意くらいあるが?」
「人の用意できるもので、私が何かを呑むとでも?」
にやりとしている。この状況でかよ。
というか、ボクのにやり顔凶悪じゃね?
「精霊を宿せる体を、いくつか作ってある」
フィラ用のやつだ。当たり前だが、予備がある。
すぐ使えるのが3、部品取り用にさらに2つ。
もちろん、ボクが今使ってるのはまた別。
こっちは、人間の魂の移動用だ。
「その上でこれからボクは、クストの根の作ったあの呪いの皮を剥ぎにいく。
中身を助けてな」
生首ソレイが呆然としておる。
「なんで……いえ、できるっていうの?そんなことが」
「体に精霊を移すことについては、実績がある。精霊の長でも宿せる。
奴の中身に関しては、君の助力がないなら、倒す方向になる」
「なっ!?」
「どうする」
ソレイは長く煩悶とし。
「……今更、あなたの下に、またつけというの?」
ちげーしめんどくせぇな。
「自分の想い人くらい、自分で助けろって言ってるんだよ。腑抜け」
「この、言ったわね!?」
「やらんのか?」
「やるわよ!!あーーーーーもーーーーーー!!!!
やっぱりあんた、ハイディじゃないの!!」
こう、すげー嫌われてるな過去のボク。
いや、今のボクも嫌われたってことか?これ。
悪くないね。
「では。ボクが君のことを呼ぶから。
そしたら、ここから彼女の名前を呼べ。
まさか、忘れてなどいないよな?」
「忘れるわけ、ないでしょ」
やっぱりその不敵笑い、ちょっと圧が強いって。
では同意もとれたことだし。
お姫様たちを、助けに行くかね。
次の投稿に続きます。




