22.ウィスタリア聖国付近。霊と呪いの始祖
――――不確定要素を分離することで……ボクの戦略は完成する。もう少しだ。
南へ向かって、飛ぶ。
地上にはたまに、陽光を反射する結晶が、見受けられる。
そしてそれを目指して飛び交う、無数の怪鳥が、空に。
大量の鳥を従え、龍と化した聖域アウローラは、魔境を超え。
ボクの因縁の国に至る。
共和国より、南方。
河が縦横に流れ込んでいる国、ウィスタリア聖国。
山もほとんどなく、平坦な国土。
空からだと、ほぼ国の端まで一望できる。
その領土の端、かの国が国境と定める何もないところから。
土砂を噴き上げながら、何かが地上に躍り出た。
やっぱこう、立て続けにくるよなぁ。
敵さんも計画通りってとこか。
「……相変わらず、でかいわね」
助手席のウィスタリアが、青くなっている。
彼女が、はるか前世で対峙した相手。
そして愛しい者を、飲み込んだ怨敵。
『いと長く流れしもの』。
魔力流を思わせる赤黒い何かに包まれた、柔らかな棒のような、帯のような何か。
いや、頭としっぽがあれば、蛇あたりに見えるんだけどね?
それがない。
そしてアウローラより、さらにでかい。
でかいというか……親子ほどの差というか。
国と都市だもんな。規模が違う。
本来は戦闘になるような、相手ではないな。
人も魔物も、飲み込んでしまうという存在らしいから。
しかしアウローラは神器。そのいずれにも当たらない。
なるべく接近戦は、避けてもらうけど。
安全に、戦えるだろう。
こちらと同様、雲下まで飛び上がった黒い帯から、音が広がる。
声のようでもあり……おそらくは呪い。
アウローラへの到達具合からするに、地上にはほとんど届いていないが。
それでも守りなく浴びれば、かなり堪えるだろうな。
では指示を出し、自分たちの仕事に赴くとしようか。
「センカ、フィラ」
「はい」「なんでございましょう」
後部座席から、少し固い返事が来た。
「補佐といっても、指示はディードから出してもらう。
基本的には力の供給だ。
君らがいないと、魔素の提供者がいないからね」
「「わかりました」」
魔力なら大丈夫だがねぇ。
魔素、それと結晶出力の励起がないと、起動しない武装がある。
センカの体からは結晶を取り除いたが、フィラの体には神器使ってるからね。
二人で分担し、戦闘を補ってもらう。
「ディード、念のため接近戦は避けてくれ。
どうせ倒せないから、火砲は好きなだけ使っていい」
『心得た』
サイズ感が違うし、相手は呪いの祖。
下手な攻撃は、呪い合ってこちらがダメージを受ける。
中核を取り外してからが、本番だ。
「ウィスタリア」
「その前に」
なんだ。彼女が悪戯っぽく笑っている。
「助手席、座ってよかったの?」
…………別にこの半島には、助手席は伴侶が座るという、文化風習はない。
それは、地球由来のものだ。
そして結晶体のウィスタリアは、向こうのこともある程度は知っている。
「単純にこっから先の動きとして、君が後ろにいると面倒だった。
その上で」
両の腕輪を回し。
左手を彼女の方に、差し出す。
「ボクの今日の相棒は、君だ。
ウィスタリア」
「…………あんたほんとそういうとこよ」
何がだよ。
彼女も、左手の腕輪を回してから。
ボクの手を、右手でとった。
融合が始まる。
その中で。
「己の業を解き放て。いくぞ」
「ええ」
それぞれの想い人への執着が。
強く赤い光となって。
ボクらを包み。
そうしてボクらは、アウローラから、消えた。
次の投稿に続きます。
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