21-8.同。~技術の粋が天地を支配する~
~~~~ボクだって、できればやりたかなかったがね。だが手を付けた以上、必ず最上の結果でやり果たす。
『なぁ!?撃ち落された、だと!!』
ボクとリィンジア、センカとフィラがドックから外に出ると、そんな声が聞こえた。
拡声魔導かな。なんでわざわざ状況を喋るんだろうか。
男の子はよくわかんねーな。
クレッセントから何かが撃たれたようだが、ディードが落としてくれたみたいだ。
パンドラ自体は、魔力流で稼働を押さえられている。
このままだと、カラミティできず、いつもの武装は展開できない。
しかしその魔力流、どうも三点で形成しているようだから……一つ崩せば、消えるな。
ほど近いところに、見上げるような巨獣がいる。
四つ足で、すべてが魔結晶でできた、けもの。
ボクの獣より犬っぽいな。
こないだみた、メアリーとサレスが合体した魔獣のようでもある。
首は一つだけど。
さて。
何か、結晶の獣だけではなく、だいぶ遠くにクレッセントと……魔獣らしき軍団も見える。
効力射をしばらく叩きこみ、あれでこちらをフクロにする気なんだろうな。
まずは魔力流をなんとかし、あとはパンドラにやってもらおうか。
『ウィスタリアと……あの魔力なしの、平民!
貴様!貴様らが、いるからッ!!!!
ちょうどいい!お前たちをいたぶれば、この船も我らの軍門に下ろう!』
ああ。近くのこいつが皇子のやつなのか。
ウィスタリアを見ると。
肩を竦められた。
えぇ~……もしかしてこれ、ボクがやんのかよ。
まぁいいか。こないだ彼女たちが、面白い技をやっていたし。
ちょうどいいから、試してみよう。
本番前の試運転、ってやつだ。
「じゃあ二人をよろしく。
ちょっとおちょくってくる」
フィラとセンカを、ウィスタリアに任せ、歩き出す。
「相変わらずいい性格してるわね。行ってらっしゃい」
手をひらひら振って。
無造作に歩み寄っていくと。
結晶の獣が、前足を振り上げた。
『そら、ひざまず――――』
ボクはそれが、接触する瞬間。
魔素を見て。
手で流した。
巨体が、ひっくり返る。
『けぎゅ!!??』
なんだ、噛んだか?
「引くわ……化勁をそんな綺麗に出せるなんて。
何の予備動作もなかったじゃない。こわ」
「君らの真似だよ」
「えぇ~……」
後ろでウィスタリアがめっちゃ引いてる。
しかしこれ、自分の力を使わなくていいから、楽だな。
いろいろ試してみるか。
獣が起き上がろうと、足をじたばたさせているので。
その一本に近づき。
また接触に合わせて、今度は腕を回した。
リィンジアの真似、だ。
『おぉぉをあぉあおぉおぉ!!????』
すごい勢いで飛んでった。
地面を抉りながら、何度も跳ねていく。
パンドラからはだいぶ離れ。
当然に船を覆っていた魔力流は、消えた。
『『皇子!!??』』
別のとこから声が、聞こえる。
二人。ボクを門で飛ばした子は、いないのだろうな。
しかし、今更慌てても遅かろう。
魔力流の拘束が外れた時点で……パンドラはもう、動き出している。
近いためか、少しエイミーの船内音声が聞こてくる。
『災厄よ、箱より出でて――――。
広がり!
天に舞い!!
獣となり!!!』
ん?
いま続かなかった?
しかも変形もしてるけどこう、魔力流がですね。
黒い、卵のように。
『魔王と化せ!
顕現、紅環・口霊・王魔』!!」
災厄の箱、パンドラの象った卵の中から。
何か巨大な甲殻類の……水老か?はさみ二本ついてるけど。
そいつが殻を破って、のっしのっしと姿を現した。
まさかこれ。
『ハイディ、私たちに任せて、行って!』
『蹴散らしてやるとも』
マドカとアリサだーーーー!!??
どうやって生身の人間を王魔態に組み込んだ!!
エイミーは謎技術発明し過ぎだろ!!
『よぉし行ってらっしゃいマリーちゃん、ダリアちゃん!』
別のドッグから、人型神器・不死者まで出てった!
過剰戦力だこれぇ!?
『全砲門開けぇ!』
そんな数つけたとはまったく聞いてない無数の砲口が、甲殻の様々なところから顔を出す。
『ブレイク散布弾、発射ぁ!!』
弾頭を内包したいつもの怪鳥が、無数に天に昇って行った。
あれはさっき話してた、ピコマシン+アリサの力での結晶結合破壊弾。
特に、主構成要素が魔結晶のものに有効だが、結晶体の人間は避けるようにしてある。
うちの一つが、やっと起き上がった、皇子の魔獣に。
炸裂した。
『ぎゃああああああ』
『『皇子ぃ!?』』
いや君らはどこにいるのさ。
いい加減、助けてあげなよ。
皇子、結晶化がとけて生身で投げ出されてるし。
安全に人間だけを引っこ抜く、優れものです。
マリーたちも、同様の魔導を乱射している。
クレッセントの周りには結構な魔獣がいるんだけど、みるみる数が、減って。
いつもの、魔境掃討を見ている気分だ。
「ボクらの出番はねぇな」
「頼もしい限りね」
砲撃の隙を縫うようにして、空からアウローラが降りて来た。
「ディード……こんな姿になっちゃって」
『悪くないぞウィスタリア。外に出られて実にいい』
ディードのさらっとした一言が涙腺に来そうです。
それで流して良い年月じゃないだろ、君。
「そろそろ行こう。みんなも乗ってくれ」
ボクは伏せる龍の頬のあたりに手を当て、壁を透過。
ウィスタリア、センカ、フィラを招いて、中に入った。
彼女たちを、座らせ。
龍はボクの運転で、再び天に戻った。
いくぞ。
南へ。
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