21-7.同。~罠はさらなる備えで粉砕する~
~~~~ここにはいないみんなも、きっと頑張ってくれている。大詰めだ。
入り口から駆け込んできたのは、少しボクに似た紫髪の、聖女。
「遅かったじゃないか、ウィスタリア。
リィンジアを取り返しに行くよ?」
走って、パンドラまで戻ってきただろう彼女は。
つかつかと寄ってきて。
ボクの襟首を掴んだ。
「あんた!知ってて!!」
「むしろ君はなぜ気づかなかった?
彼女のしていたブローチは、君が贈ったものとかじゃないだろう?」
「ぇ」
色味が違うと、ボクが指摘したやつだ。
そもそも入船のときにチェックしたが、彼女はあんなものは持っていなかった。
「先日の、連中の侵入目的はあれだよ。
キリエたちは、知らされてなかったみたいだけど」
「その、ハイディ。どういうこと?」
ちょっと頭を整理して、エイミーの質問に答える。
「リィンジアの部屋に、中宮がブローチを置いてったみたいなんだ。
最近彼女がしているやつが、それだった。
結晶体向きの洗脳魔導、覚えてるだろう?」
「え、かけられてたの!?」
「ずっとじゃないだろうけどね。
ブローチを身に着けておくこと。それをごまかすこと。
タイミングを見計らって行方をくらまし、ストックと融合すること。
そのまま聖国竜神山に向かうこと、あたり命令されてたんじゃないかな?」
「なぜ、そのままに、したのよ」
「先人に倣った。敵が攻めてくることがわかってて。
それがいつになるか、わからないなら。
こちらから誘い込んで、準備万端にして迎え撃つ」
8年前のヴァイオレット様。
4年前のスノー。
ボクはそれと同じことを、したまでだ。
パンドラが襲われた時点で、絶対の防御は無理だって、はっきり身に染みたしね。
ウィスタリアの手から力が抜け、ボクが自由になる。
「リィンジア様は、ぶじ、なの?」
「無事じゃないってのは、つまりストックもやばいのとイコールだ。
ボクがそれを許すと思うか?」
「そう……ね」
そこで納得してくれるんか。
ありがたいんだが、うん。
我ながらどうなんだろう。
「君らの時代は、クストの根がいた。
奴がいる以上、流れしものに取り込まれたリィンジアは、どうしょうもなかったんだろう。
だが今。根はすでに倒され、策は十分にある。
取り込ませて、救出した上で、『いと長く流れしもの』を打ち倒す」
クストの根がおらず、縛りの効いていない今の状況。
この機に、いったん流れしものを活性化させた上で、対処する。
こうしないとおそらく、核たる「祖霊の対」が引きずり出せない。
問題の根本に対処しておきたい、というのと。
祖霊をボクから追い出したいという二点から、そのように進めると決めた。
聖国には魔物が出るようになってしまうだろうが。
一方で、呪いの法術も使えなくなる。
それは……前の時間にあった、飢饉の根本対策になる。
王国としても、この結末なら文句はあるまい。
「できるの?」
「やるさ。知恵者のお墨付きも、もらってる。
で、当然だが一緒に来てもらうから」
ボクは赤と青の細身の腕輪を一本ずつ、彼女に渡す。
「これは……?」
「意図的な融合装置だよ。
君の精霊の力を、引き出すためだ。
そいつがあれば、侵入容易になる目算だ。
青い方は……リィンジアに渡せ」
「……わかった」
ウィスタリアが腕輪を左手にはめて。
もう一つはしまい込んだ。
そして。
細くゆっくりと、息を吐いてから。
ボクを見た。
「行きましょう」
「ん。ではエイミー、みんな。
魔晶人の相手はよろしく」
「まかせて!!
……あれ?何かしら」
エイミーがどこかを見て、声を上げた、その時。
パンドラが、僅かに揺れた。
『かかった!撃て!!』
何かどっかで聞き覚えのあるよーな、声が……。
「ラース皇子!?」
ウィスタリアよくわかったね?
こんな声だっけか。
クレッセントとつながりのある疑いの濃厚な子の、声。
ということは。
「エイミー、周囲確認」
「はいはい。
なんか……結晶のおっきい犬?っぽいのがパンドラ囲んでる。
三体。で、大きな魔力流を出してる」
「なるほど。魔力流干渉でこっちの動きをとめていると」
「みたい」
例えば神器車同士が正面衝突すると、魔力流の力によって直前で止まる。
接触はできるが、衝突は出来ない感じだ。
船以上の巨大な魔力流を出せば、その中に閉じ込めることは……まぁできるな。
しかし結晶の犬、ねぇ。
魔獣というやつか?これも。しかも、人が理性を保ったまま?
いろんなもの出してくんなぁ。
「エイミー、グラス」
「はいよ」
エイミーが取り出した、眼鏡を受け取ってかける。
ウェイブグラスと名付けた、眼鏡状の魔道具。
ある種の通信機器を兼ねている。
操作し……つながった。
「『ディード、聞こえるか?
よし、通信状態は良好だな。
神器船がいるだろう。
何か撃ったら、迎撃を頼む。
ああ、始末はパンドラ側でつけてもらおう
君は迎撃だけでいい』
エイミー、コールかけて。後を任せる。
ウィスタリア、行くよ。
行きがけにちょっと捻っていこう」
「よっしゃ!」
「ふふ。殺さないように気を付けるわね」
嬉しい配慮だ。ぜひそうしていただきたい。
センカとフィラにも、目線を送る。
彼女たちも、頷いた。
さぁ、いよいよだ。
前の時間からの因縁の船と。
小さな戦争を、始めよう。
あの船、一度ぶっ飛ばしてやりたかったんだよ!!!!
次投稿をもって、本話は完了です。




