21-5.同。~敵のさらなる罠。そして戦略~
~~~~精霊の力がない場合、こんな滑らかに飛べないんだよね……。実に助かる。
操縦席は、クルマとほぼ同じわけだが。
……我ながら、なぜクルマと同様の操縦系統で動かせているのか、実はよくわかっていない。
魔力流の噴出と調整で、空を踏むように飛べる、んだけどさ。
原理は、アっさんが組んでくれたんだよね。
ボクは流体力学は未履修だ。変数が多くて難しい。
球体シフトレバーの操作が、少々忙しいが。
感覚的に、ネフティスとそう変わりなくて、支障はない。
助手席が空で落ち着かない、くらいか。
……ネフティスごと、彼女を連れてくることも、できた。
だが先日の戦いを思えば。
こうしたのも、悪手ではない、はずだ。
突然始まった砲撃。
今までのことを考えると、これだけでは終わるまい。
早々に対処せねばならないし、皆にも各自動いてもらわないと。
何より、決着をつけねば、ならない。
このままではじり貧だ。
……自分の戦略に自信を持て、ハイディ。
あの人たちだって、そうやって未来を、切り拓いたんだ。
今度は、ボクの番だ。
……見えて来た。
地上彼方に、巨大な、蛾のようなものが。
四つの聖域に、繋がれている。
つないである鎖のようなものの材質が、ちょっとわからないが。
そいつは、聖域の魔力流に身を焼かれながら。
逃れようと羽ばたき、もがいている。
尾の部分が膨らんで、何か――――
「ッ!『再生の炎』、起動!!」
慌てて超過駆動し、魔導を放つ。
龍の口腔から、巨大な炎の怪鳥が飛び立っていった。
蛾の尾から出ようとしていたものが、炎に巻かれて燃え尽きる。
蛾本体は、あまりダメージを受けていない。
火はすぐに消えてしまった。
……どういうものなのかさっぱりわからんが、アレが質量弾か?
どうやって、はるか魔都に向けて打ち出してるんだ???
しかし、となると。奴の口からは、荷電粒子砲が飛ぶと見てよいのだろうな。
その上で……その身を囲む、四つの聖域。
無人だとは、限らない。
状況は、シンプルではないな。
ならこちらは、わかりやすい手でいこう。
球体レバーを操作し、上昇。
ほどほどの高度に至り、真上から奴を打ち抜く。
それしかあるまい。他の手段では、周囲を巻き込みかねない。
これ、やっぱりストックを連れて来た方が楽だったよなぁ。
高度を見積もり……到達。
下方を向かせ、レバーの高さを切り替え。
口腔操作にして、ギアはニュートラル。
アクセル。
魔力流が溢れ、高まり。
多量の魔力を生み出し。
ボクの必殺技を再現せんと、輝く。
レバーを倒す。
「荷電粒子砲、発射!」
地を向き、真っ直ぐになった龍の体。
尾から始まり、その口まで、エネルギーが伝わり。
無音無光の獣の矢が、解き放たれる。
呪いの反転が乗ったそれは、見事、蛾の邪魔だけを押しつぶした。
余波が広がるが、それだけで壊れるほど、聖域はやわではない。
――――蛾は再生してこない。討滅は、できたようだ。
……8年ほど前は、荷電粒子砲一発じゃ倒せなかったんだよなぁ。
もちろん、このアウローラの出力はボク単独とは段違いだ。
しかし、話に聞いた先日の山のようなやつは、かなりしぶとかったそうだが。
なんだろ。何か見落としたか?
そも、なぜあの聖域に括りつけられていたのか。
あとで調べに来るか、と首を南に向けようとした、その時。
聖域の魔力流の中に、何かが見えた。
……神器車?なんで今、人がクルマで降りようとしてるんだ?
もっとよく見ようとして。
目の端に止まったものを見て。
ボクはすぐにパンドラに戻ることを、決めた。
そこは魔境だ。露出したダンジョンの入り口が、いくつかは見えるところにある。
その門から。
結晶の輝きが、いくつもはい出てくるのが見えた。
さてはこの邪魔が討伐され、鎖が切れるのをトリガーにしていたな!
これはこちらがおよそ予測していた中で、もっとも悪辣な作戦。
現存全人類一人一人に用意された、魔晶人。
そいつらの大攻勢が、始まったのだ。
各国内のダンジョンからも、出てきているだろう。
急がねば。
次の投稿に続きます。




