21-2.同。~超長射程砲撃~
~~~~ボクも、半島中が飢えている頃を知っている。……感慨深い。
「ハイディ、そこ右」
「あいよ。あれだな」
少し奥まったところに、それなりのお屋敷が見える。
「お手紙は?」
「出してあるわ。今日の日中とだけ伝えたけど」
さすがに淑女。そのくらいは、ちゃんとしてるか。
時間については手紙の連絡だし、まぁそんなもんだ。
日付が合ってるだけ、しっかりしてる。
「じゃあそこの門扉の手前で止めるから、行っといで」
クルマを道の脇に寄せて、停車。
訪問はウィスタリアだからね。
ついて行くとしても、リィンジアくらいまでだ。
「ありがと。ちょっと待ってて」
「私も行くわ。後で呼びに来るから」
ウィスタリアとリィンジアが、クルマを降りて。
門番の方にお話して。番の方は、屋敷に確認を取りに行ったようだ。
って呼びに来るんか。ボクらも紹介って流れか?こういうところはそつがねぇな、ウィスタリア。
待っていると。
ふと、運転席側の扉の向こうを、叩かれた。
外を見て。
窓を開ける。
見覚えのある、オーガの子がいた。
腰をかがめ、こちらを覗き込むようにしている。
おや、運動着姿だ。体でも動かしてたか。
「これはデケイル殿。
しばらくぶりです」
「ハイディ嬢。魔都にいらっしゃるとは。
ウィスタリア嬢らもご一緒でしたか」
ああ、彼女たちを見かけてこちらに来たのか。
「ええ。オヌ伯爵にお世話になったらしく、ご挨拶したいと」
「ああ……父からは聞いておりました。
その、淑やかな方だったそうで。
恥ずかしながら、彼女だとは思いませんでした」
ああ……たぶん、初見が決闘場なんだよな、この子。
あのウィスタリアを見たら、そうは思わんだろうよ。
「ところで、学園は休園となりましたが、その後いかがでしょう」
んー……そうだな。
この子には前にちょっと話したし、触りだけいいか。
「パンドラはいつも通り……といいたいところですが。
敵船に襲撃を受けまして」
彼の顔が、僅かに曇る。
「なんと。皆さん、ご無事で?」
「もちろん。所属の者を捕えたので、あの船を追っているのですが。
あそこは不定航路をとっていて、追跡がしにくくて」
「…………魔都に向かっている、との話があります」
おぉぅ。
近辺にいるのでは、とは思ったが。
なぜ、魔都を目指す。
不穏だ。
「それはできれば詳しい話を伺いたい、ですが」
「父の言なので、私も詳しいことは。
よろしければ、ご案内いたしますが」
「そうですね。できればご挨拶もさせてください」
「では――――」
彼が屋敷内にクルマを先導しようとした、その時。
「まてハイディ、今北から何か、打ち上がった」
ん?北?
助手席の方だな。どれ。
確かにこっちから透過してみると、雲を引きながら打ち上がる何かが……
それが何なのか。
ボクの中で、唐突に、結びついた。
マリーの神器車・不死者。
その武装で検討したことが、あるからだ。
魔導の届かない長射程に、どうやったら攻撃ができるか。
「ストック、エイミーに緊急通報!
パンドラに撃ち落させろ!
質量弾だ!」
答えは、大質量を魔導で射出する、だ!
不死者に搭載したレールガンは、そこからの着想だからな!
「し、質量!?
くそっ」
ストックがダッシュボードから慌てて魔道具を取り出し、砕く。
「デケイル殿、屋敷に避難を!」
「っ。お二人は」
「このクルマは大丈夫ですし、迎撃に出ます!
ウィスタリアたちに言伝願います!」
「わかり、ました!」
彼が下がったのを見て。
シフトレバーを後ろに倒し、発進。
下がってから、角度を変えて、道に出る。
この奥から、街の外に出られる。
一射だけとは限らない、迎え撃たなくては!
次の投稿に続きます。




