21.魔都。決戦。
――――来たか。
魔都。
半島横断魔境の、あまり広くない水の囲みの中にある、都市。
共和国の一都市分しかないが、住んでいる者は意外に多い。
国家ではなく、ただの一都市で、どこの国にも所属していない。
各種魔導を研究しており、神器や魔道具各種も作っている。
外貨獲得手段は、主にこれらの販売だ。
土地には割と魔力があり、耕作地面積あたりだと連邦に迫る生産量を誇る。
聖国や帝国より、実はよっぽど豊かだ。
攻め取られそうなものだが、南には共和国、北は帝国東部地域にあたり。
その帝国東部には各種武具を下ろしていたりし、協力的な関係。
帝国の東端は広い魔境に接しているため、他国に攻め込むどころではなく、関係良好だそうな。
ボクはこの魔都に結構馴染みがある方、ではあるんだが。
実は今生で来たのは、初めてだ。
パンドラは、都市の外堀の向こうに停泊。
そこから車両で、外壁を通り、中へ。
クルーに魔都出身・関係者が多いため、結構な車両群で入場した。
関係ない人もそれなりにいるから、留守番組も多いけどね。
例えば、ボクの友達らはほとんど居残りだ。特に用もないから。
今パンドラにいないのは、共和国に行ってる組かな。
ギンナとベルねぇ、ミスティとメリア、スノーとビオラ様。
あとクエルとシフォリア。
娘二人は護衛と用事があるとかで、スノーについてった。
マドカとアリサは今回お留守番だ。
航路予定を出したときに、ビオラ様経由で話は行ってるため、魔都に入るのはすんなりだ。
魔都は元々、その辺がおおらかなんだよねぇ。
差別・迫害は絶許だけど。こう、それ以外はなんというか……達観した社会だ。
ボクはネフティスに、ストック、ウィスタリアとリィンジアを乗せてやってきた。
ウィスタリアが、最初にしばらく世話になった人に挨拶したいと。
当時はその後、自分で神殿に赴いて……クレッセントに行ったらしいんだよね。
魔都は神器車が多く、道路も整備されている。
とはいえ人も多く歩いているので、ゆっくりめに走っていく。
この都市は六本の真っ直ぐな道が、中央から外側に伸びている。
道同士は60°おき。上から見ると確か……風車ってわかるかな?
羽が六枚あるものを想像してほしい。そんな造りになっている。
我々は南門から入ったが、目的地は北東。
オーガ氏族の区画なんだそうで。
オーガといえば、パンドラだとシドゥさんとケルケンソさん。
あと最近知り合ったな。魔術科のデケイルくん。
学園、いきなり休園になっちゃったけど。ここに帰ってきてるよね。
寮とか下宿からは、追い出されてるはずだもんな。
彼は貴族令息だし、寮暮らしだろう。
魔都だから、転送通いという線もあるけど。
魔都には移動しない神器船が、衛星都市として周囲に配置されてるからね。
前の時間のクレッセントは、そのうちの一つだったんだけどなぁ。
動かさなければ、きっともっとましな暮らしができていただろう。
今生でも同じように魔境を不定航行すると聞いたときは、心底呆れたものだ。
難しいことだし、やってればある種の注目は浴びるが。
そんな見栄でする労苦じゃねぇよなぁ、あれは。
それでデケイルくんについては……伯爵令息だったはずだから、誰かに聞きゃ家がわかりそうだが。
先触れもなしでご挨拶は、失礼だ。
また学園で会った時に、お話しするか。
人は多いが、馬車はいないので、道路の流れはスムーズだ。
よく行った王国のシャドウの街は、中心あたりがとても混んだが。
魔都は走りやすくていいな。真ん中はもう、抜けてしまった。
「ウィスタリア、何番街か覚えてる?」
「7……8だったはずよ」
「8?貴族街じゃねぇか。誰に拾われた」
そういや聞いてなかったが。
この流れだと……。
「オヌ伯爵よ」
隣でストックが吹いた。
「それ確か、あのオーガの子の!?」
ストック、直接は挨拶してないが、話は聞いてたか。
「そうだな、他にはいない。
おいウィスタリア、あの時どうして絡んでこなかったし」
「へ?私、伯爵本人にしか面識ないもの。
ご子息がいても、わからないわよ」
わかれよ。
ああいや、こやつ三年前にここに来たというから……。
「魔都の貴族令息なら神殿か。会わないわな」
ここの神殿は、神職を養成する神学校に近い。
結晶の使い方を教えてもくれるし、初等部未満の教育もしてくれる。
魔都の貴族令息令嬢は、基本的にここに通って教育を受ける。
別に親元から通ってもいいんだが、たいがいは寄宿舎に入って生活だ。
デケイルくんもそうだろうな。
で。神殿に行ってすぐクレッセントなら、ウィスタリアが会うことはなかったろう。
「そうそう。よく知ってるわね」
「ボクは前の人生、ここ出身だからな。
神主が来る前から、クレッセントにいたんだよ。
その頃はまぁ……ベースはパンドラみたいなもんだ。
食料はなかったが」
「そうだったのね。
いやそれ……食料なかったらダメじゃないの」
君の主眼はそこかよ。腹ペコめ。
「ダメなもんか。パンドラが異常なだけで、この世代の神器船はそれが普通だ。
これから、全部パンドラ基準になってくがね」
「そう。皆飢えない時代が、来るのね」
リィンジアがしみじみと言う。
本来なら、神器船一台作るのも結構金がかかるもんだ。
けど王国は戦略として、他国を巻き込んでこれを作りまくるつもりでいる。
移動領土をたくさんこさえた上で、地上の水脈を変更し、魔境を魔界にする。
そうすることで魔物はおとなしくなり、空気中の魔素は徐々にみな魔力になっていく。
誰も魔物の餌食にならず、飢えず、魔結晶ができない社会になっていくだろう。
そういや、その到来前にやっとかなきゃいけないことがあるな。
魔結晶がなくても、神器を動かせるようにしないと。
人の間から結晶がなくなるのは、だいぶ先だろうけど。
神器船が動かせなくなったら、大問題だ。
まだまた、ボクの仕事はなくならんかなぁ。こりゃ。
他の人がやってくれりゃいいが、なかなか頼めることでもない。
次の投稿に続きます。
#本話は計8回(14000字↑)の投稿です。




