9-3.同。~林より魔、出づる~
~~~~ボクの新しい切り札は、まだちょっと秘密だ。ふふ。
「ありがとう、ストック。
あとはもう、ぐんにゃりしてていいよ」
「そうか。あー……ではせっかくだから一つ。
昨日のゲーム絡みのことなんだがな。ちょっと気になってて」
「なんぞ?」
「ゲームでは神器ってないよな?」
ん?ないこたぁないんだが。
何かこう、同じものを知ったはずでも、微妙に認識差があるな……。
そう、認識。ストックはちょっと、ゲーム絡みはボクと認識が違う。
視点、が違うような?不思議な差異だ。興味深いな。
「課金アイテムという、有料のもので存在する。
ただ、使い物にならない」
先にもちょっと触れたと思うが。
不遇な代物よな。
「なぜだ」
「一つ。そのゲームは移動が必要ない。クルマも船もいらない」
「ああ……」
ソーシャルゲームってやつだし。
その手のものにもいろいろあるだろうけど『揺り籠から墓場まで』に移動らしい移動はない。
一瞬で目的地までびゅーん!だ。乗り物なんて必要ねぇ。
「二つ。神器の魔力流を見ると、魔物や眷属は逃げる。ゲームにならない」
「おお……」
ゲームではこう、神器を持つとこちらがずば抜けて強い扱いになるのか、逃げられやすくなるそうだ。
あと経験値?が入らないとか。
これは現実でもそう。うまく使わないと逃げられる。
倒したければ、気取られずに近づくとか工夫がいる。
なお神器車や船は、魔物が「逃げてくれる」ことを期待した品だ。
「三つ。そもそも魔物と戦わない」
「あー……そういえば、戦う相手は」
「眷属とか、あと人」
「だったか」
革命とか戦乱があるからね。
対人が多いみたいだ。
もちろん、人間に神器の魔力流は効かない。
必殺技?みたいのがあるんだけど、一度撃つと当分撃てないんだよね。
「両方、神器はほぼ要らないな……ゲームじゃ役立たずってわけか」
「それをボクらは一生懸命研究してたわけだ」
学園で二人、結構ガチでやってた。
ボクは一応、その前からいろいろやってたけどね。
学園じゃ二人でちょっとした発明とかだってしたんだぞー?
不死身の神器だ。すごいやつなんだからな。
「実際にこの世界で生きて行く人たちにとっては、必要じゃないか」
「そうだね。ボクもそれでいいと思うよ」
ほんとにね。必要とされてたし、面白かった。
けど、本来世界に必要ないと言われると、少々腹は立つな。
神器はもっとこう…………。
……………………。
なんか、今更ながらすごい気になってきた。
「どうした?ハイディ」
「いや、なんで『神器』っていうんだろうなって。
攻撃性魔導具、から付く名じゃないだろ?」
「こちら側ではなく、なんというか……。
ゲーム。地球とやらの側の命名や都合なんじゃないか?」
ほほう。その視点はなかったな。
「だとして、どんな由来になるのさ?」
「課金……お布施を入れる……」
「よすんだストック。それ以上はいけない」
文字通り、神の怒りを買うぞ。
「冗談だ。神自体はいるんだ。不敬だしな。
……いや、普通に考えて、彼らが入ってるんじゃないか?」
「神職が声を聞くっていう彼ら……というか。
ゲームのプレイヤーたちが?まさか」
「あるいは、彼らとの交信機」
「ないではないけど……検証が難しいな」
「それこそ、向こうと通信でも繋がれば別だがな」
「ん。それはそれでまた別の問題を生みそうだ。
ありがとうストック」
面白い話だったし、ちょっと覚えておこうかな。
「こちらこそ。有意義な話だったよ。
あとは、お前の横顔を堪能してるとしよう」
弱めに視線を感じると思ったら、運転中ずっと見てたのかよ!?
よく飽きないな。
ボク、そんなに顔がいいほうやないやろ。
美人ってのは、こいつみたいな……。
……………………。
助手席の窓の向こうに。
何かあるまじきものが、見える。
「なあストック」
「何だ、じっと見て」
「ボクの目は、ちょっとおかしくなったらしい。
この国にいないはずのものが、見える」
ストックがはじかれたように振り返り、助手席の窓の外を見る。
遠く向こうに林があって、向かって右手にその端が見える。
その先に……林から出て走る馬車らしき影があって。
林の端に、僅かに獣らしきものが映る。
その獣は、林の木々並みに、大きい。
緊急事態だ。
王国の中で、魔物を目にするなんて。
ダンジョンから出てきたんだろうが……貴族が倒された可能性すらある。
「グレイウルフだな」
「……そうだね。行こう」
見過ごせるものではない。
ハンドルを左に切り、林へ向かう。
ガタつくが、アクセルをベタ踏みして速度を上げる。
「間に入る。馬車の方を頼む」
「わかった」
だいぶ近づいて来て、様子がわかる。
馬車はかなりもう、林から離れつつある。
馬も御者も無事なようだ。中身はわからない。
林からはのっそりと狼が出てきている。
馬車を追い立てる様子もないが……口元が血で濡れている。
食事は終わったということか?
…………いや、違う。勘が働く。
今、巨狼がかみ砕いているのは、馬だ。足が僅かに見える。
でも馬車は二頭立て。馬は両方無事だった。
「ストック、変更だ。林の中を頼む。
今グレイウルフが食ってる、馬の乗り手がいる。
それから、狼はおそらく二頭以上だ。
打倒より事態把握と、救出優先で」
「ああ。そちらは?」
「とりあえずあれをひき潰す。それから林に入るよ」
「では行ってくる。ハイディも気をつけろ」
ストックが扉を開けて、クルマから飛び出した。林の中へ直行していく。
ボクは助手席の扉を閉めて、さらに狼に向かう。
グレイウルフは、向こう側を振り向こうとしている。
…………やはり林に戻ろうとしている。本命は、林の中か。
魔力の大きい者がいて、それが暴れているのかもしれない。
魔物は食糧たる魔力に対し、敏感だ。……だが神器には鈍感なんだよな。
ギアを切り替え、ハンドルを回し、左から回り込むように狼の側面に向かう。
そのまま加速しつつ、木の根と幹で、車体の左側を浮かせた。
奴がいるところまでは、少しだけだが上り坂になっている。
シフトレバーを操作、ディレクションギアをニュートラルに切り替えて、アクセル。
ボクの愛車が片流走行しながら、気炎を上げる。
「――――いくぞサンライトビリオン、閃光のように!!」
次投稿をもって、本話は完了です。




