20-7.同。~過去の東国と、変わる東国~
~~~~今回は秘匿前提だし、妹の苦労は少ないだろう。今はまだ。
秘密のご相談を終え、回診の続きに出た。
といっても、あと回っておくのは……。
「あ、ハイディ様!」
開いている扉の向こうからボクを呼んだのは……フィリアルだ。
エリアル様について雑務に携わっているので、今はお仕着せである。
「ちょうどよかった。っと、皆もいるね。
体調はどうだ?フィリアル」
「はい、とてもいいです。
頭痛が嘘のようにとれて」
「よろしい。そのまま健康的な生活を続けなさい。
正語りを『使わない』訓練は、徐々に進めていくように」
「はい!」
で、部屋……食堂の中には。ウィスタリアとリィンジア。
キリエ、メアリー、サレス、クレアとカレンもいるな。
おや、ストックもだ。こんなとこにいたのか。
「何あんた、来たの。なんか用?」
ウィスタリアが砕けてすっかり気安い。
「不敬よウィスタリア」「不敬です!」
「頭下げなさいよ」「何様のつもり?」
「そうだスマッシュされるがいい」「同感です」
「辛辣!?」
……狼狽える気持ちはわかるぞウィスタリア。
なに今の反応。
ストックを見たが、軽く首を振られた。
てっきり君が何か吹き込んだのかと思ったが、違うのかよ。
「敬意とやらは、胸にでもしまっとけ。
そんなことより、君らの無事な様子が聞きたいところだが。
大事はなさそうだな?」
「「「「「「はい!」」」」」」
えぇ~……ほんと何この反応。
何かウィスタリアはいじけているので、リィンジアを見た。
「あなたが私たちの時代にいたら、これが普通です。
パンドラを知れば知るほど、ね」
時代、ということは。
「……ひょっとして、食料か?
当時は、王国の供給能力も少なかったのか?」
「ええ。アレがいたから」
6人が深く頷いている。
……『いと長く流れしもの』か。
推定、祖霊の対となる呪いの存在。
呪いは魔力にも影響を与える、と言われている。
知った上でなら分かるが、聖国はだから土地が細っているのだろうな。
あそこは丸ごと呪われているようなもの、だろうし。
で、その呪いの始祖が活動していた時代、ならば。
当然に……食糧事情は厳しかった、というわけか。
魔力による生産補助がないか薄いなら、そりゃ大変だわ。
「当時、仮にパンドラがあったとしても、状況は同じだと思うが」
「かもしれないけど、ね。
土地よらない福音を、あなたはもたらしているのだし。
それは、敬われる然るべきことよ」
確かに、魔力豊富な土壌を人工的に作り出したわけで。
そうとも言えるか。
「そうそう。それに、あんたならアレも倒しちゃいそうな気がするし」
意外に重く期待されてんな?やるけど。
「ま、でてきたらやるさ。
そういや一個だけ聞きたいことがあったんだけど。
キリエ、フィリアル。
君たち、船に何しに来たのか、聞いてたか?」
「襲撃としか」「私もです」
ふーん……どう考えても違うんだが、言わなかったのか。
ボクはリィンジアがしているブローチを、ちらりと見て、視線を外した。
とりあえず、しておくお話はこれくらいだな。
「ありがとう。
っと、お茶菓子は出てねぇのか。
ストック、寝かせてるやつがあったろう」
「ん?ずんだか?」
…………やはり知ってるか。
ずんだは、豆を潰した餡だが、王国にはない。
ゲームに出てくるものでもなく、地球のものなんだが。
すぐ出てくる知識じゃねぇだろ。
覚えてないって言ったんだから、もうちょっと取り繕えや。
かわいいな。
「そうだ。ああ……豆のペーストだよ。
甘くしてある。
連邦の限られた地域の文化食・餅につけて食べる。
その茶には合うだろうから、出すよ」
皆の目がきらっきらだ。甘いものの影響、お強いな。
キッチンの入り口に向かい……。
「甘いものと聞いて!」
食堂にやってきた友を振り返り、見る。
どこから聞いたのさ、ミスティ。
そしてこれは……共和国調略組の御休憩かな?
「手間はかからんだろうが、手伝おう。
なに、私らも小休止というやつでな」
「そりゃ助かるよメリア。ギンナとベルねぇもか。
お疲れ様」
「ええ、ちょっと煮詰まってね」
聞き捨てんらないんやが??
「うまくいかないのか?」
「違うのよストック。うまくいきすぎてるの。
手のひらを返したとか、そういう感じではないわ。
急に協力的になったところが多くて、整理が大変なの」
「帝国側も動きがあったようで。しばらく忙しそうです」
ほほう。
星帚という邪魔がいなくなって、スムーズに事が運ぶ。
だが滑らかすぎる、と。
「別口の支援者がいる。ただどこかがわからないです」
ベルねぇでもわからんと?
おっと。少し眉根が寄った二人に、釘を刺さなくては。
「メアリーとフィリアルは、考えなくてもいいから。
別に今の状況なら、自明だし裏もとらんでいいだろ」
「え、ハイディ様は分かってらっしゃるんですか?」
「その、それはちょっと教えてほしいんだけど、ハイディ」
ちょ、ベルねぇとフィリアル……。
同じ顔立ちで迫られると、なんか圧があるな???
「王国ではないわよ?ハイディ。ファイアでもね」
ギンナの言う通り、そこはそうだろう。
その辺なら、パンドラと足並みをそろえる。
協力的だが、共同はしない集団と言えば。
「だから、学園だろ?」
幾人かが、息を呑んで、その顔に納得が広がっていった。
「あ、あー!そういう。だから休園を」
「あそこは伝手がたくさんあるだろう、ミスティ。
なぜ協力的なのか、はわからないが。
休園してまで手を空けた理由は、今顔を出したということだろう」
「私は察しがついたぞ、ハイディ。
お前のためだ」
は?何いうとんのストック?
「ああ……学園始まって以来の、誉れ高き永世教授をこけにされたわけで。
向こうは知らぬこととはいえ、そりゃそうされたらやるでしょうね」
コケにって……ボクが直接被害を受けたことと言えば、ラース皇子絡み。
特に、門に落とされたやつ、だが。
指示は皇子、実行は共和国の子。
子どもには重く罪は問わなくても、送り込んだ側にはけじめをつけさせる、と?
パンドラ≒王国の進めているものに乗じて。
「いやいやいや。ベルねぇ、それは休園してまで……」
……いや。ちょっと学園史に引っかかるものがるな。
「あそこは、そうか。
そうやって信用を勝ち得た歴史のある、学府だったか」
「舐められたら全力で潰せ、が我ら学園に連なるものの使命ですから」
ボク、教壇に立たないから全然意識してなかったわ。
講師とかを賜る際に、言われるんだよほんとに。
「それ、まだ続いてるんですね……さすが王国」
ぽつりと言ったのは、クレアだ。
そういや、この子はミスティの同位体なわけで、学園の講師資格持ちか。
さすがに今はそのまま使えないはず、だが。
「そういうことなら、甘えておけばよさそうだな。
ギンナたちも、しっかり休んでいくといい」
ま、いいか。
お茶菓子を出さなくては。
しかしボクのため、ねぇ。
学園の指針としてそう、というのは理解するが。
少しむず痒いな。
次の投稿に続きます。




