20-6.同。~研究所パンドラは自重しない~
~~~~少しずつ露わになってきたエイミーの本性。悍ましく、美しい。お似合いだな、君たち。
「それで、関係しそうな人間を招集した、と」
「はい」
ビオラ様がにっこにこだ。
この人も、根底がヤバイ研究者寄りだからなぁ。
ストックは珍しく見つからなかったので。
とりあえずビオラ様とスノー、マリーとダリア、マドカとアリサに声をかけた。
マリエッタとエイミーには、移すべき体の方を作れと伝えてある。
どのみち、検討からだろう。人型魔道具は世に出るが……それとは、別に。
で、会議室の一つで内緒のご相談だ。
こちらがやるべきは、マリエッタの安全な「移動手段」の確立だ。
方法もあるし、フィラである種の前例もできた。
それをさらに進めることになる。
「その……姉上」
「なんだ妹よ」
スノーが重々しく口を開く。
「聞きたくないのですが。
ひっじょーに聞きたくないのですが。
……………………できてしまう、のですね?」
「できる」
王太子殿下は机にお潰れになった。
「断言しますねぇ」
マリーがによによしてる。
「気づいてんだろ?ボクがやろうとしてたこと」
マリー、マリエッタ、アリサには、ボクの手伝いをしてもらっていたわけだが。
構築したもののいくつかについては、具体的な「目的」を話していない。
だが、一緒にやっていれば想像はつくわけで。
「ヘタレさんが、地球に連れ戻されそうになったとき。
体を用意しておいて移す、もしくは強制的に引き戻す、でしょう?」
さすが我が助教授殿。当たりだ。
「そうだ。そして前段階として、自分の魂を別の体に移す方法は構築した」
ちなみにこの体を移す、というのも大きな意味がある。
残った生身が「目印」になる。地球から、帰るための。
「それで精霊の働きかけに、逆らえるかどうかは……」
スノーを見るが。彼女は目を逸らした。
わかりやすいこと。
不可能だ、と思ってるんだろう?
君がなぜ不可能だと思っているか、お姉ちゃんはよーくわかってるよ。
ストックも君と同意見だ、ということもな。
「未知数だ。だが、魂を別の体に移す、という方法は確立し。
フィラで確認できた」
フィラの存在は、何重にもボクの思惑を後押ししてくれた。
「すごいことするわね……アリサも手伝ってたの?」
「本当に手伝いくらいだし、具体的にどうする、というところは聞いてなかったけどな。
まさかマリエッタまで、それを使おうとするとは……いや、さもありなんか、これ」
何年も一緒にやってきたアリサは、いろいろ納得してるようだ。
「マリエッタはむしろ、ずっとエイミーの追求したいものがわかってたんだよ。
それがとても高いものだからこそ、敢えて離れてたんだろう」
勘だがね。
4年くらい前の彼女は、腕のいい0.9人前の技師……くらいだった。
今は一人前のやべー奴だ。
「そして手段が確立したから。
エイミーが求めても答えられるから、戻ったと」
「のようだね。
そういうわけでビオラ様」
「倫理ぶっ飛んだ話よね。許可しましょう。
大々的にはできないけど、意義の大きいことだわ。
それ、故人の復活とかはどうなるの?」
おお。さすがに切り込んできた。
そう。代替の体を用意し、移せるということは……そういうことだ。
マリエッタ自身のでも幾年かはかかるだろう。
ビオラ様の御懸念は、その先、となるわけだが。
「できません。魂の観測手段は未確立です。
その者が死後、どこにいくのか、どうなったのかがわからない」
「フィラと同じ方法では難しいと?」
「はい。あと、治験もしにくいところです」
「そうね」
いずれ別方向のやばい奴が、推し進めるだろうな。
……お潰れになった妹の頭から、煙が出てそうな気がするし。
許可はいただいたから、具体的な詰めはまたにするか。
「アリサ、精霊を宿したこともあるし、君の知見がいる。
手伝ってほしい」
「ああ。望むところだ」
「ダリア」
「いいわよ」
二人とも、即答かよ。
頼もしいな。
「はいでぃ。わーたーしーはー?」
なんで絡むような言い方するんだね助教授殿。
「興味ないだろ?神器使えないぞ?」
「だから興味あるんですよ。
親和性が高いから、フィードバックできるし。
どうせハイディは自分の分、神器で考えてたんでしょう?」
「そうだよ。それで?」
楽しそうにボクを見ていた、マリーの目が。
珍しく――――非常に珍しく、濁りの色を見せた。
「故人が出た場合の魂の移動と復活。私が踏み込みます。
もしもあなたが失われたなら、私が戻す。
この役は、ストックにも、ダリアさんにも、他の方にも譲りません」
なぜ、と聞くのを躊躇わせるような。
赤い色が、その濁りの中に、ある。
「…………その時ストックがいないなら、放っておいてくれ。
そうでないなら、任せる」
「ええ。ハイディは、ストックがいてこそ、です」
妖しく笑う君のその情緒も、正直よくわかんねぇなぁ。
「それじゃあ、私も踏み込むけど」
ダリアが、もたれかかっていた壁から、離れて。
真っ直ぐに、ボクを見た。
「すぐやるの?」
おや。おばれになってる。
ボクが、自分の分の体をもう用意していて。
近いうち、移動実験を行うつもりだ、ということが。
「ああ。自分の分、ということね。ハイディ。
理由は?」
理由は二つ。
一つは……左記のとおり。
残した生身の体を、地球から帰るための「目印」にするため。
もう一つは。
「生身の体だと、ボクは全力を出すと壊れますが。
それで壊れなかったものがあるので、乗り換えておこうかなと。
少なくとも、敵を一掃するまでの、間は」
こないだ乗っ取られた時のことを、踏まえた措置だ。
やっと安全に力が振るえる手段が、見つかった。
「クルマか何かのように言いますね、姉上……。
フィラで予行したから、大丈夫ということですか?」
「そゆこと。細部は違うが、そも元は自分用に作った工程を、フィラ用にしただけだし。
それがうまく行った以上、特に問題はない。
今ないものとしては、生身の体の保存方法なんだけど」
エイミーにも話した通り。
魂抜けたら、普通そのままダメになると思うんよ。
「それくらい、大丈夫よ。すぐ用意できる」
さっすがダリア大先生。
「ならよいでしょう。
非公開で進めて。
それから……慎重に、ね」
「はい、ビオラ様」
ふふ。我ながら、とんでもないことをやろうとしている。
わくわくするね。
次の投稿に続きます。




