20-5.同。~彼女の思う、人型魔道具~
~~~~とてもうまく、複雑に、面倒に絡み合ってる二人だな……。うちも人のことは言えないが。
なんかピンクなやつ多いんやけど。
次は……いや、さすがにないか。
作業場で人型魔道具を調整中の、エイミーだ。
今日は、エイミーの面倒を見ている魔道具科三名+フィラは当番ではなく。
マリエッタが一緒のはずだ。
エイミーは主に管理周りがずさんなので、常に人をつけるようにした。
まだ日は浅いが、そろそろトンでも報告は落ち着いてくれると嬉しいところだ。
エイミー自身は、言えばちゃんとやってくれるんだが、熱中するとその意識が抜ける。
彼女を見に来たのは、クエルが治したケガのその後を確認するため。
会ったときに相応のチェックはしてるが、念のためだ。
ついでに、またなんか作っていやしないか、も確かめる。
マリエッタも情の深い性質だが、あれでちゃんと貴族令嬢。
人が普通に来たりする作業場で、変なことになってたりはしまい。
そう思いながら、開けっ放しの扉を潜り、作業場に入った。
入ってすぐ、真ん中あたりで椅子に座り、こちらを振り返るエイミーと目があった。
……着衣の乱れた、彼女と。
「はははははははいでぃ!?っここここ、これ、これ!」
「マリエッタ、どうした?」
マリエッタは真剣な様子で、少し出したエイミーの肌に手を当てていたが、ボクを見て。
「お願いします。左二の腕に、違和感があると」
ま、君ならこんなとこで不埒な真似はせんわな。
しかし違和感ね……よくないな。
「そそそ、そんな大したものじゃ!」
「治したのが魔導なら問題ないが、クエルの治癒は未知の力だ。
確認はいるよ」
魔導の治療は、そりゃあもう膨大な情報蓄積がある。
異常、例外、影響、急変等々、様々な知見があり。
それを踏まえて、現代治癒魔導はくみ上げられている。
帝国ならまだしも、魔術を重んじる連邦の姫たるマリエッタが治療したなら。
このようなことにはなるまい。
だが、エイミーを治したのはクエルの不思議な力。
娘本人にも確認したが、その力は「よくわからない」との回答だった。
ボクも見せてもらって同じ感想だったから、これはもうしょうがない。
悪影響がないかの確認と、あった場合の対策につとめるほかないだろう。
彼女の左腕の傷の位置は、覚えている。
見ても……表面上は痕もない。
魔素を少し、浸透させていく。
「…………神経、筋肉、骨、血管にも、問題はないね。
どうした、エイミー」
顔赤いんやけど。
「ちょっとその、くすぐったくて」
人の魔素が通ったせいかな。
……………………いや、おかしい。
武術家は、自分の魔素を感じ取って操作する。
だが他人のそれは、無理だ。
感じることができない。
ボクが知る限り、それができるのは。
ギンナと。
ボクだけ。
あと、例外なのかストックはボクの魔素を感じるようだ。
これは……確認が要るな。
姿勢を正し。
袖口を咥え、瞠目。
息をし、魔素を練り上げる。
それを、左の掌から空気中に少しずつ出していく。
エイミーの視線が、ボクの左手に吸い寄せられていく。
魔素を玉のようにし、右へ放る。そして右手で受け取る。
エイミーもそれを、目で追った。
「マリエッタ、君からはどう見えた?」
「え、説明が難しいですが……。
見えたままを言うなら。
ハイディが両手を出して。
エイミーが左から右を見た、だけです」
「えぇ!?マリエッタには見えてないの???」
まじかよ。何がどうなってこうなった。
「いったい、どういう……」
「あくまで近しい者で見て来た傾向、だが」
エイミーの服を直しながらコメントする。
「魔力がない、あるいはそれに類する性質の者は。
何かしらの、超常的な力を持っている」
「あなたやストック然り、ですか?」
「リィンジアやウィスタリア、娘たちだってそうだ。
少ないという範疇なら、メリア、ギンナ、マドカにアリサ。
未測定だが、センカあたりもそうだろう」
「精霊の、力……」
「だろうね。違うという示唆は何一つない」
ボタンをとめ、襟を整えて。
エイミーを改めて見る。
「自覚は?」
「ん……特には。
ああ、でも」
エイミーが、ちらりと人形のような、鎧のような……人型魔道具を見て。
「私ね。出来上がった人型魔道具に、ずっとずっと納得がいかなかったの」
確かに、何度も作り直していた。
マリエッタが使うから、もっと安全性を、機能をと、いろいろ追加しながら。
時に、ゼロから作り直してでも。
「ダリアちゃんに手伝ってもらいながら、何に納得がいかないのか、ずっとわからなくて。
それでも完成して、人の手も入るようになったのだけど。
これじゃ、ないの」
それから、マリエッタの方を見る。
「納得いかないって思うたびに、何か霞のようなものが、かかって。
でも最近、マリエッタと作業するようになって。
それが霞じゃなくて、光だって、わかったの」
二人の赤い瞳が、交差している。
「それは、私の光を反射している、小さな鏡のようなもの。
人型魔道具には、少しそれがある。
マリエッタには……いっぱいある」
なぜかボクはその二人の視線の交わりに。
いくつかのものが結びついていくのを、感じた。
「私の鏡。
私の世界。
私は…………」
人形。
魂の移動。
精霊とその力。
人型魔道具。
そして――――エイミーを「作った」マリエッタ。
マリエッタが、何かを理解したのか。
陶然とした笑みを、浮かべていく。
ボクは――――。
ま、どっちでもいいや。
やりたいってんなら、さて、誰に相談しようかね。
「……………………ハイディ」
「なに?エイミー」
「その。私、自分でもだいぶ、まずいこと言おうと、してるんだけど」
「そうだね。やばいよね?マリエッタ」
「はい。今にも絶頂しそうです」
自重しろ。
「えぇ~……とめないの???」
エイミーは、変なとこでガワが良識的だよなぁ。
中身はほんとにマッドなのに。
……なるほど、そこがこの子のお母さまが「作った」ところか。
「君が巨大ロボットを作るって言った時。
ボクは君を笑ったか?」
「いいえ。人型にする理由を、丁寧に聞いてくれたわ」
「その通り。君を止めたりゃしないよ」
あ、そうだ。
「可逆的な実現のために、ダリアを呼ぼうか。
魂の移動式は、彼女の発案だしね」
「へ。なんの、ために?」
とぼけているわけじゃ、なさそうだが……。
そうか、まだ具体的に頭の中で組み立ってるわけじゃないのか、エイミー。
マリエッタを見ると、彼女はにやりとした。
「私の体の保存のため、ですね?」
「そ。戻れなくなっちゃ駄目だろ」
マリエッタがまた……にやまぁりみたいなお顔になってく。
それを見て、エイミーの表情がふっと、なくなって。
「……ぜったい素敵なあなたを作ってあげる。マリエッタ」
そう、寒気すらする声でつぶやいた。
……マリエッタは歓喜に震えるのをやめろ。落ち着け。
次の投稿に続きます。




