20-3.同。~愛でる技師~
~~~~簡単にできるものでもないが……手段は問わない。きっと二人はやり遂げて、さらなる先へ向かうだろう。
さてっと次は。
オリーブとリコだな。
オリーブをフィラの回診に同伴しなかったのは、別の用があったからで。
それは、リコの定期健診だ。
彼女は多発魔結化症……魔結晶ができやすい体なので、結構な頻度で診ないといけない。
あの体質で警戒しなければいけないのは、体の内側に結晶ができること。
できた場所によっては急変することもあるため、手間・暇・負担をかけてもチェックが必要だ。
……そんな状態なのに、議員と忍頭やってるんだからな。大した情熱だよ、あの子。
だが。
そろそろ検査は終わった頃だろうと、医務室にやってきてみれば。
長椅子にぐったり……オリーブに膝枕してもらってる、リコの姿が。
「あわ、わわわわ!ハイディ、さ」
「そのままでいいよ。異常はなかった?」
慌ててリコを起こそうとするオリーブを、押し留め。
ボクも彼女の隣に座る。
「ぉやかたさま……」
体悪かったのかと心配になるくらい、怠そうだ。
オリーブを見る。
「いえ、特に異常はありませんでした」
「となると、燃え尽きたか?」
オリーブの太ももの上で、黒髪が揺れた。
「そう、なのでしょうか……」
どう見てもそうだろう。
この子は聖女復活を目指して、幼くして共和国の常任議員になった。
また先代が倒れた後、忍頭を引き継ぎ、箒衆をまとめていた。
聖女は本人が出て来て、そのうち公表される算段。
忍一門としては、ボクという主人ができたことで……この子が自らにかける重圧は、和らいだだろう。
状況はよくなったわけだが、変化としては急激だ。
多少心にくるのは、当然だろうな。
「ウィスタリアとは、話したりしてる?」
「ぁ、はい。思っていたのとは、違う、といいますか」
「でも経典通りだろ?」
本人、経典通りにだいぶロックなやつだし。
「その点は……そうですね」
共和国の、聖教聖女派経典。
寓話として、1000年前の聖女の記録をつづったもの。
内容はかなり正確……らしく。
だいぶこう、野性味あふれる聖女の活躍が見られる。
「そうなんです?私、経典はそこまで読んでなくて、あまり。
ウィスタリアは、普通の子、に見えますけど」
この子、決闘は分からんけど……測定会でウィスタリア見たよな。
それで「普通の子」評価かよ、オリーブ。
肝が据わってらっしゃる。
「ぇ、え?あれ、あれが?普通??????」
リコがすげぇ動揺しとるぞ。
「あーうん。ほら」
オリーブがボクを見た。
「あぁ……」
なんだね君たちそれは。
「ウィスタリアは、できることはすごいんだけど、中身は普通の女の子だよ。
ハイディさんは、中身からして何か違うもの」
何かとは。
「それは、はい。まったくもってその通りです」
君らとはまだ短い付き合いやが、遠慮なく断言するね????
そうだけど。
しかしそういう評価だと。
「リコも普通の子、か?オリーブ」
「いいえ、リコは違いますよ」
……何かぞわりと来た。
オリーブが、リコの髪の中に手を差し入れて、耳のあたりを撫でている。
リコは思いっきりこう、身じろぎして……おい、君ら人前やぞ。
「いけない子、なんですよ。いつもいろんな女の子のこと、ねっとり見てて。
私がいいっていうのに、次の瞬間にはエイミー先生に目が行ってたりするんです」
こう、そんな風に言われたら、縮みあがりそうなものだが。
耳を撫でられながらもぞもぞしている、リコは。
どちらかというと……とても、悦んでいて。
「この瞳を、世界を、全部私だけで埋めたい……」
オリーブのその趣味は、理解できるが。
けど、だね。
リコはそう責められて、何がいいんだね。
ああ……いや、こいつら。
「いけない子、ね。ボクの目の前でやるのも、その一環か」
「ふふ、はい。本当のリコを、ハイディさんにも見せてあげたくて」
ちょっとわかってきた。
リコ、たぶんマリーからお友達認定される系だわ。
次の投稿に続きます。




