20-2.同。~人形師と人形の成長のために~
~~~~元から……なのか?なんか変な影響受けてない?大丈夫フィラ。
「好調が不調の前触れのこともある。
フィラ……は宛てにならないし。
次の診察はオリーブを呼ぶから、そこでまた聞こうか。
フィラ、記録だけつけろ」
「っ。はい、主よ」
その顔を引っ込めろ、特によだれ。
「つけ方が分からなかったら、指導者に聞くように。
センカ、君が教えてもいい」
「はい!」
「それで、フィラ。人の体になって……いや。
精霊固有で、馴染まないことはあるか?」
「やはり時間、ですね。気を付けていないと、わからなくなります」
精霊は時間概念があいまい、というあれだ。
一説には、精霊は不変だから、なんだそうだが。
となると。
「心配しなくても、すぐ慣れる」
「そうなのですか?」
「今、君は多数の変化を経験しているだろう?
それが時間の概念を、君の中に作っていく」
「確かに。日々、いえ常に新鮮なことばかり。
人の目から見る世界とは、こんなにも美しいものなのですね」
ふふ。そう感じるなら、もう心配はないな。
「ああ……主のほっそりとした首筋が……」
なぜそっちに行った。
というか隣にいるセンカは、いろいろといいのか、それで。
いやこの子……何かこう、むしろ陶然とフィラを見ている、ような。
どういう情緒だ。マリエッタが二人いるみたいなんだが。
「そう思うのは止めない。口には出さないように」
「はい。ありがたき幸せ」
あとよだれは止めろ。
「そういや、その主とか王ってのは、具体的になんなんだ?」
「「わかりません」」
は?
「親とかでは、ないです」
「絶対の命令者、などでもありません」
「「ただ我らが敬い、かしづくお方」」
…………わからん。
いや、信仰……に近いのか?
精霊信仰というものが、王国にはあるが。その逆。
すごい雑な言い方をすれば。
最推し、とか?
……………………いやないだろ。何重にもないわ。
聞いてもわかんないみたいだから、考えるのはやめにしとくか。
「あ、王様。一つ聞きたいことが」
「なに?センカ」
「あの二人、具体的にはどうなるんですか?」
ああ……ウォン家の。
「フィラはどう思う」
「落ちぶれるでしょう。おそらくは実家ごと」
そりゃそうなる。
学園発行の貴族名鑑って分厚い資料では、あそこの子どもは二人だけ。
それが二人そろってあの有様では、もう先はない。
というか……ちゃんと調べると、例の件が出て来そうだしね。
学園休園の建前、監視の魔道具が大量に出て来たこと、だ。
ラース王子たちなら無理があるが、在校生のハワード・ウォンならどうだ?
他国諜報活動に熱心な、聖国の者。
しかも、忍の集団と繋がっている。
人の体にまで、魔道具を仕掛けてもいた。
どう見ても真っ黒だ。
証拠が出れば、学園からは即追放だ。
王国行政も黙ってはいないだろう。
で、わざわざセンカがそれを聞いたのは。
「君、これまで聞いた中では、ウォン子爵には言及しなかったが。
恩があるのか?」
「あ、その。奥様の方、ですけど」
そりゃあ複雑だな。
ん?
「後妻じゃなかったか?子爵夫人は」
「はい。ときどきその、助けてくれたん、です」
……よくない話だな。
家は、どう考えてもこのままだと落ちぶれる。
ゆくゆくどうなるかはわからないが、少なくとも直近であの二人は、その家に帰るわけで。
そこにいる、彼らの側ではない女性、か。
フィラを見る。
素知らぬ顔だ……これは単に、そういう機微がまだわからないんだな。
フィラは、あの兄弟がセンカにひどいことをしたことにだけ、意識が向いている。
それはセンカのためというより、むしろ自分のためだ。
なるほど。ではこうしよう。
「フィラ。指針を変えよう」
「どういうことでしょう?」
「いろいろ教えてはやる。その二人を教導し、真人間にしてみせろ」
「はぁ。それはどういうご意図なのです?主よ」
素直に聞く気ではあるが、純粋に目的がわからないみたいだな。
「今のまま落ちぶれても、あの二人は人のせいにして何も苦しまない。
想像がつくだろう?」
「…………はい」
ん。まったくわからないわけではないようだ。
ならば。
「だから、後悔させろ。
善人にし、まっとうにし。
その行いを、生涯もって悔いるように」
二人の深紅の瞳に、少しの、妖しい影が差す。
……きっと、いい機会だろう。
単純に、人としての成長を促すにも。
すでに自らの奥に潜む、それを自覚するにも。
センカは善性の子だが、暗いものを植え付けられ、うまく折り合いがつけられていない。
フィラはまだ真っ白に近いが、やはりよくないことが先にあったせいで、自己の確立に手間取っている。
その原因と、しっかりと向き合わせた方がいい。
あの兄弟が、己と、周りと向き合う様を見ることで。
センカとフィラの先が、おのずと見えてくるはずだ。
「主よ。ご指導賜りたく思います」
「前向きで大変結構。
では彼らは二人の預かりとなるように、根を回しておこうか」
二人が頷き。
ふと目があったのか。
その口元で、微笑み合っている。
幼い悪意で乱された人生、ならば。
それとの対峙が、この二人のためになるだろう。
ついでにきっと、子爵夫人も満足される結果になるさ。
あの二人は聖国に引き戻しとなったから……これは、ギンナに相談かな。
次の投稿に続きます。




