20.共和国北~魔都南方魔境。嵐の前の、パンドラ。
――――落ち着いて話せる機会は大事だ。何せ……人数が多い。
実際のところ、パンドラの速度というのはとんでもない。
本来なら、半島を……半日もあれば、余裕で一周できる。
最大速度で継続航行すれば、それこともっともっと早い。
神器船や神器車の限界速度・航行速度は魔力流の強度に依存し、重量や体積に比例しない。
出力膨大なパンドラやエルピスは、神器車に比べると恐ろしく早く動けるのだ。
が。航路申請は絶対である。
戦争したくないなら、おとなしく自分の出したものに従うのだ。
そんなわけで、能力的にはとっくに魔都についているところ、まだその道程にいる。
我が領土アウローラの更新は、完了。
さすがにあれに王魔態相当をぶち込むとボクが死ぬので、ほどほどの改造ではあるが。
みなの力を借りて、その能力を十全に発揮できるはずだ。
本来のボクの出力だと、エルピスのカラミティレベル3が一人で動かせない。
パンドラなんてもっての他だ。レベル1までがせいぜいである。
アウローラは様々な工夫でもって、ボク一人ですべての力を引き出せるようにした、奥の手。
仲間の力を借りるのも、もちろんいい。できるなら、是非そうするべきだ。
だが一人でいるときの危機は、必ず訪れる。
それを切り抜けられないようだと、それこそ仲間に負担をかける。
先の襲撃の通り、敵も本腰を入れてきている。備えは必要だ。
……そうはいっても、今はその「備え」向けのことは、何もすることがない。
戦略・戦術戦力はアウローラがある以上、もう十分。過剰なくらいだ。
戦闘能力については、いくつか課題はあるが。
これは根本的な見直しが必要なので、逆に今取り組んでも時間が足りない。
例えば、単にディックに勝ちたいなら、ボクはカラミティレベルXで精霊のどれかの王魔態となればいい。
あいつの攻撃は、無敵の精霊体を砕けない。
かつて前の時間でメリアを斬ったボクって例外はあるから、安心はできないけど。
こないだそうしなかったのなんでかって?
それで倒そうとしたら、殺しちゃうからだよ。加減が難しい。
倒されないだけなら簡単だけど、倒すのはまた別。課題ってのは、その辺だ。
戦闘以外における、ボクの目的に必要なものも……出そろった。
[Hr]とピコマシン、精霊人形フィラ、おまけに計13柱の精霊の長たち。
今年に入るまではピコマシンまでしかなくて……博打になりそうだなー?と思っていたが。
イオに会えてから、結局堀が全部埋まってしまった。
しかしどうも様子を見るに、ストックはあれダメじゃろって思ってるみたいだ。
それでは地球と行き来できない、と。
理由もまぁわかるんだけどね。
しかし、それもクリアされてしまった。
ふふ。いずれあの子が、とても驚く顔を見れる。
楽しみだ。
考え事をしながら歩いていたら、目的の場所についた。
扉を軽く叩き、待つ。
事前に伝えてあるし、時間通り、だけど……。
「王様!」
元気そうなセンカが、ドアを開けてくれた。
「ん。二人の回診だけど。中で大丈夫?」
「はい!どうぞ!」
招き入れられ、私室に入る。
パンドラの居住区の部屋は、それぞれ結構広くとってある。
だいたい、一家で住めるくらいにしてあるからね。
さすがに貴族の住居ほどではないけど……しかし、これは。
「また増えたね」
「つい作っちゃって」
壁に設えられたいくつかの棚に、様々な人形が並んでいる。
それは人の形か??っていうものから、小さいのに精巧なものまで。
習作、といったところだろうか。
ただ数がめっちゃ多い。ついこないだ来たばっかりなのに。
いっそ製作所をどっか用意するか?
人形のためだけ、だとちょっとプロジェクトにしづらいけど。
今度何か、考えてみるか。
人形に限らず、デザイン用の工房とか、どうだろうかね。
「王様、お医者様みたい」
たまに、そういわれることもあるが。
白衣着てるからかしら。
「ボク自身はまだ、医者じゃないよ。
あれは資格が要るからね」
「そうなんだ」
「主ならば、すぐにでもとれそうですが」
それはいったいどこ由来の信頼感だね、フィラ。
この子、センカのことは知悉していたっぽいし……。
それ以外も、相応いろいろ知ってそうなんだよなぁ。
「年齢制限があるんだよ、フィラ。
正確には、王国では成人契約が必須、だ」
「なるほど」
白衣は、衛生を意識して着てるだけなんだけどね……。
ボクちっこいから、似合わないし。
普段パンドラで仕事してるときは、作業着の方が多い。
「それで主よ。服を脱げばよろしいので?」
脱ぐな。早速服に手をかけるな。
「ボクは診察でいちいち脱がさねぇよ。この距離なら分かる」
各種センサーは完備だ。
さすがに壁向こうとかは、魔素を通さないとわからないけど。
「「さすが」」
何か精霊たちの信頼が厚い。こわい。
「つまり、ずっと見られてる、ということですね……。
ああ。ぞくぞくします」
何に目覚めてんだよこいつ駄人形か?
ああ、ラブ寄りの精霊だっけ……その長だもんな。
頭ドピンクか。
おい、なぜ頬を赤らめた。
人の心を勝手に読むのをやめろ。
それで興奮するのもやめろ。
フィラが何か悶え始めたので、無視してセンカに向かう。
「というわけで、診察としては簡単な問診だけだ。
その様子だと、あまり聞くところはなさそうだけどね。
人形作りにおいて、違和感とかは出てないかい?センカ」
「出てます。すこぶる調子がいい、です」
違和にはちがいないけど、そういう答えは予想してなかったわ。
次の投稿に続きます。
#本話は計9回(18000字↑)の投稿です。




