19-4.同。~人形が、伴侶のために望む懲罰~
~~~~ストックは人の上に立つのは得意だが、人を信じるのは下手だ。ふふ。そこがめんどくさくて、かわいい。
魔都に辿り着く前に……機会に恵まれた。
いや、恵まれたというのだろうか、これは。
まぁ彼女たちにとっては、恵まれたと言えるだろうな。
ベルねぇとギンナが、口を利いてくれて。
ボク、ストック、そしてセンカとフィラの四人はやって来た。
そこは聖国への移送を待つ、さる要人に仮に与えられた住まい。
ウィスタリア聖国ウォン子爵令息。
ハラード・ウォンと、アシャード・ウォン。
体は拘束されていないが……足輪がついている。
一定以上の魔力を検知すると、締まって大層な痛みを与える、というものだったはず。
個人所持禁止の魔道具だ。
さすが、小型の監視魔道具なんて生み出す国。よくやるなぁ。
「…………イオ。何の用だ。復讐でもしに来たか?」
強気だなぁ。
取り調べ等で、この子らがある種の自失状態だったことは、裏がとれている。
現在は治療済みだ、が。
この態度ということは……それ以前のものは、自前ということだ。
イオ――――センカへの、扱いも。
センカの後ろで、フィラの顔色が静かに変わっている。
「いえ。私は何も。
話をしに来ただけです」
兄のハラードは、センカとフィラを睨むだけ。
アシャードは。
「貴様に話すことなど、何もない!!」
「私もです」
「なに?」
ボクが、アシャードたちから少し離れたところに置いた椅子に。
センカとフィラが座った。
「私はあなたたちの前で、あなたたちのしたことを。
このフィラに、話すだけです。
少し話したら、許せないと言われたので。
あなたたちの反応が見えるところで、詳細を話します」
「なッ!?」
「ボクから一言。
二人の話をお邪魔するようなら、お黙りいただく。
…………何か?」
ハラードの方がボクを見たので、尋ねる。
「なぜ、そのような真似をする」
フィラに視線を向ける。
「特に意味はありません。
私は詳しく、話が聞きたかっただけ。
そのとき、怒りを向ける対象が目の前にいたほうが」
自動人形から。
精霊の化身から。
仄かに……赤い光が立ち上るのが、見える。
本当に、呪い自体は精霊と相容れるんだな。
彼女は淡々とした口調と、穏やかな表情で続ける。
「忘れず、その気持ちを刻み込むことが、できるでしょう?」
おそらくそれは。
そいつらに当たるためでは、ない。
大事な人の苦境にいられなかったことへの……煩悶。
二度とそうならないようにしたい、という。情念と執念。
怜悧な情熱に、少年たちは気圧されたのか。
青い顔で、黙り込んだ。
ボクの介入は……必要なさそうだな。
自分の分の椅子を出し、ゆっくりと聞くことにした。
センカもまた、淡々と話し出す。
――――思い付きで魔導や魔道具、結晶を入れられていたこと。
――――暴言暴力は当たり前で、いつも生傷が絶えなかったこと。
――――食事は人の食べられるぎりぎりのものを、押し込むように与えられていたこと。
センカの体は、手術時に一通りの点検をしているが。
おおよそ、そこから想像のつく通りだったな。
栄養状態のせいか、成長が遅く、まだ子どもの体だったことは……いや。
これを軽々しく、不幸中の幸いなどとは、言えまい。
「なぜ、そのような真似を。そう思っていましたが」
30分ほど、たっぷりと話し。
センカの言葉が、途切れたところで。
フィラが、後を引き継ぐ。
「よくわかりました。
やはり。ただの嫉妬、でしたか」
そうなの?ほんと?とは思ったが。
兄弟の顔は、朱に染まった。
ああ……そういうことか。
なぜウォン子爵その人ではなく。
この兄弟が、ある種の矢面に立っていたのかと、思ったら。
つまり、子爵が才能を見込んで引き取ったイオ・ニップを。
この二人が好き放題していた、と。
呪いを信奉する忍衆と、どこで結びついたのかはわからないが。
こんな悪童じゃ無理なからん。自業自得だ。
どっかで自分たちでも、呪いに手を出したんだろうしな。
センカの体には、呪いもかかっていたし。
ああ、そうそう。施術者は別という話だったが。
あれは星帚の者だった。確認がとれた。
子どもの残酷さを、自ら超えたのが先か。
あるいは呪いの存在に接触されたのが先かは、わからんが。
こりゃダメだな。
「誇り高き、ウォン家のためにやったことだ。
どこの馬の骨とも知れぬ女如きに、言われる筋合いはないッ!」
「そうだ!下賤な平民め!拾った恩も忘れやがって!!」
拾ったのはどう考えても子爵だろ。
話聞いてると頭がいてぇ。
二人は唾を飛ばさん勢いだが。
フィラはゆっくり、ボクを見た。
「できる。どうする?」
彼女の「処罰」の要望は、いくつか具体的に聞いている。
この場合は、要望に該当するものがある。
「お願いいたします。主よ」
彼女の返事に頷き。
席を立つ。
二人が立つのを待って、椅子を仕舞って。
「なにを、するき、だ」
ハラードの顔が、赤黒くなっていく。
おこなの?なんでや。
馬鹿にされたと思ってのかね。
「なにも?」
「「はぁ!?」」
だからなぜ怒る。
「仔細は聞いた。これは記録される。
そして誰でも、参照できるようになる。
その上で、君たちに被害者からは何もない。
さて」
正直馬鹿らしくなって、少しため息が漏れる。
「周りはどう思い。
君たちの『誇り高い』子爵家は。
どうなる?」
二人の顔が、赤から変わり、青を通り越して白くなる。
やはりウォン子爵には、秘密にしていたとみられる。
そしてある種の保身には、頭が回るようだ。
知られたらどうなるか、どう思われるか。
どうしっ責されるか。その想像がつく、くらいには。
「ま、まって、まってくれ!」
「弟が勝手にやったんだ!俺は何もしていない!!」
「ば、に、貴様!?」
「助けてくれ!知られたら破滅する!」
「こ、こいつがやったんだ!俺じゃない!」
えぇ~。めんどくさ。
「「ひっ!?」」
ん?フィラとセンカは特におこではなさそう。
呆れてるだけ。
……っておい。
「四世……」
赤砂の紳士が、いつの間にか部屋の扉の前にいる。
君、魔力どうしてんだよ。
というか呼んでないのに勝手に出すぎだろ。
なんか……他の精霊の、気配もあるし。
君ら、案外仲良しだな。
仲間想いというか。
しょうがねぇ。
右の腕輪をまわしーの。
呪いと魔素をはなちーの。
ちょっと空気をばりばりさせまして。
━━━━『お眠り いただけ』
━━━━『御意』
サンドマンは、一部精神への干渉も司る。
赤い砂が少し舞い。
うるさい二人の瞼が落ちて。
そのまま椅子から倒れ、床で寝始めた。
フィラとセンカが、あるいは皆が、ボクを見ている。
二人が、少し笑った。
ちょっとは、かしずかれる側として……勤めを果たせたかね?
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