19-3.同。~仕掛けは上々、後は仕上げを御覧じろ~
~~~~フィラ奪還の恩恵は、いくつもある。彼女のおかげで、きっとボクの願いは叶う。
なぜこの実験が必要だったかという点、もう少し掘り下げて説明しよう。
この世界から、魔素のない地球に「出る」のが。
フィラが体を移動した現象に、似たものになるという予測からだ。
地球とこちらの間の移動は、魔素の有無以上に、法則の違う世界の移動に相当する。
魔素のある世界とない世界じゃ、別物といってもいい。時空間座標は同じ枠内でも、ね。
それこそ、その間の移動は「転生」に相当するだろう。
ストックがこちらに来ている以上、この「転生」は可能なわけだが。
その方法は不明だし、観測もされていない。
精霊や宿業の不思議パゥワー頼みにするのは、あんまりだ。
そこで目をつけたのが自動人形フィラの、体の移動だ。
フィラは人形→精霊→人間と移ったに等しい。
これは生死の様態変化、生まれ変わり等に類する。
彼女を実際に移したことで、その方法は確認された。
その様態は観測された。
着目すべきは、フィラが記憶の連続性を、保っているということ。
転生相当の移動において、ボクが必要としているのは、これだ。
ただクストの根の封印空間へ飛んだのとは、異なり。
ボクは法則の異なる地球へ飛んだら、文字通り転生し、記憶すらなくす恐れがある。
向こうは魔素がないからね。
そういう悲劇性の強いエンディングは、好みじゃないんだよ。
ま、だからフィラの奪還に拘ったわけさ。
おかげで、帰還用の座標特定もできるし。
ボクがボクのまま、地球に行くことができるだろう。
「地球側で精霊か魔素のどちらかが扱えれば、それ経由でこの世界の座標を特定できる。
精霊が楽だが、魔素でも多少時間をかければ繋がる」
持ち出した魔素、または精霊のこちらの世界から検出は、ピコマシンで可能だ。
自己増殖機能付きの、ボクの結晶で起動し、魔素をこめた極小の神器たち。
異次元転移である「門」の魔導を応用し、自身と定義できる範疇ならどんな距離でも探せる。
増えすぎるとアレなので、一定の条件で自壊するようにしてあるけど。
なお、本当にダンジョンの中……つまり異次元まで追っかけてくることを、確認してある。
なので当然に、ボクがボクの魔素や精霊……魂を地球に持ち込めれば。
ピコマシンが追いかけて来て、互いの世界の座標が分かる。
あとはその道を、渡るだけ。
本当は移動手段は、別途考えなければならなかったんだけど。
「シフォリア」
「は、はい。はい?」
「手順を作ったので、今度渡しておこう。
この座標特定、情報伝達が完了したら君に緊急通報が行くようにする。
次元を斬って、迎えに来てくれ。
そうしないと、少々向こうから戻るのに、時間がかかりすぎる」
娘のおかげで、とっても楽ができる。
魔素を持ちだせても、あまりに少ないと座標特定に時間がかかる。
地球側でも観測、生成を試みたほうがいいかもしれない。
自身の寿命の間にはそれが終わらないと、帰れないわけだが。
これに加えて、向こうからの転移手段を模索するとなると。
どう考えても、手段が用意できる前に、死ぬ。
「まぁ向こうで二人で暮らし、こちらには戻らないというなら別だがね?
ストック」
「それはごめん被りたい。
お前といるのは幸せだが、こちらの方がいい」
「おや、それはなぜだね。
向こうの君は、実は大変な立場だったりするのかい?」
ストックは少し黙り。
じっと、机の上を見て。
頭を振った。
「すまない。向こうの自分のことは、覚えていないんだ」
……かわいいうそつきさんめ。
ならなぜ比較して、こちらの方がいいと即答した。
覚えてなかったら、ゲームのプレイヤー視点なんて出るわけないだろ?
君には地球の記憶があるのが、明白だ。
ま、次の機会にしてやろうか。それは。
…………帰るのが嫌そうだった、ことといい。
あまりあちらの自分に、前向きになれないのかもしれないな。
「そうか。
ついでに聞くが、しばらく余裕がなかったのは。
この子たちの将来のために、邪魔を倒したい。
だが倒すと帰るのが早まる。
帰らずに済むか、戻ってくる手段が定まらない。
以上三点が理由だな?」
ストックが驚いたような顔をし。
それから、深く息を吐いた。
「その通りだ、相棒」
おや、相棒呼びとは調子戻ってきたね?ストック。
「将来ってお母さま、どういう……?」
「奴らもまた、事件再現に関わってるんじゃないか?という予測だよ。
実際、クストの根の種子のようなもの、らしいし。
外れちゃいないだろう。
いなくなれば、君たちの見た破滅の未来への、到来可能性が薄くなる」
「「なるほど」」
あとは干渉者を全部……つまり、神主・東宮を倒してしまえばいい。
「東宮は見つかりそうなのか?二人とも」
「ん、と……ごめんなさいお母さま。それは言えません」
「どう聞かれるか、わからないから。でも必ず倒します」
さすがに情報流出口は、もうないと願いたいが。
確かにないと楽観は、できないな。
頼りになる娘たちだ。
「任せる。スノーとビオラ様もいるんだ、間違えはないさ。
そうだろう?ストック」
「ああ……そうだな。頼もしい限りだ」
そうそう。だからもっと、頼ってもええんやで?
ボクだって、今の事態に際して、大事なところは人任せだしな。
「さて、納得できたなら、そろそろ手を動かしてほしいね。
そっちはそれでいいわけだが。
その前にボクらが全滅でもしたら、目も当てられない」
「はい!」
「よっしゃやったる!」
二人とも、ちょっと気合いが入ったようだ。
帰る世界が、なくなっちゃってもいかんからねぇ。
ほほ笑むストックと、目が合う。
君がここに帰りたいというなら。
そりゃボクが守らなくては、ね。
君と一緒に。
次投稿をもって、本話は完了です。




