18-7.同。~精霊の長との問答~
~~~~あの拙い魔道具に魂を込めた人形師……ありていに言って、ボクはセンカのファンだ。幸せに、なってほしい。
「代わりと言ってはなんだが、少し教えてほしい」
……背中を意識し。
少し、言葉を整理して。
精霊の上下関係というか、そういうところを整理したい。
アウラとの対話では、いまいち聞き取れなかったからな。
「君たちは、精霊の王、なんだよな?」
「お言葉ですが、我々は王ではありません。長というほうが正しいかと」
そういや、精霊王というのは俗称だったか。
ただ、「長き名を持つ精霊」としか言われてなかったな。
「我らの王は、ただおひとりです」
非常に、嫌な断言を聞いた。
なんだよ精霊の長の崇める王って。
そんな記述は、文献じゃさっぱり見なかったぞ?
しかもなぜボクなんだ。意味がわからん。
「祖霊はどういう位置づけになる?」
「ソレイは始まりの精霊です。
ただ、母というわけではありません」
なるほど。一番最初になっただけで、他にも精霊化したものがいる、と。
マドカやアリサのように。
「彼女がこだわる相手については、何か知っているか?」
「知っていますが、回答できません」
「……回答できない理由は聞いても?」
「ハイディ、私から言うけど」
おお?ウィスタリアだ。
「奴は名前を始め、核となる情報を知ると『食いに来る』。
だからさる観測者を始め、精霊には禁の契約を結んでもらった」
「ドラゴンのディードか」
「あら、知り合い?」
「友達だ」
ウィスタリアとリィンジアが、目を見開いてる。
「あれと……」
「あの偏屈女とよく……いえ、ハイディなら気が合いそうね」
どういう意味だリィンジア。
しかし。
「核か。概要を聞くのも難しいか?
元は人間か?とか」
「その程度でしたら。
あれは精霊です」
なんやと????
「もちろん、元は人間ですが。
我らの同胞なのです」
「敵対してるんじゃないのか?」
王国は魔物や呪いを、目の敵にしてるんやが。
「いいえ。我らの敵はあの未来、でした」
どういう……いや。
「そうか。君たちの敵はあくまで外のもの、か。
呪いは法則の内。精霊の司る領分の一つか」
「はい」
これは……いい知見を得られた。
魔導と呪いは対。
だからずっと、同時には使えない、思っていたが。
これは起動上の問題だ、ということだ。
いったん成立してしまえば、精霊魔法と呪いは両立可能ということになる。
ある意味、すでに近いことはやっているわけだけど。
これを前提に組んだものは、ない。
新しいことが、できそうだな。
あれ?でも、わからなくなったな。
精霊は呪いと対立していない、のなら。
「祖霊はなぜ、その精霊に固執する。
いや……それよりはこちらだな。
祖霊はなぜ、ボクの中にいる?」
「遠い過去のあなたが、隠されたからです」
なんやて。
いよいよもって、「ハイディ」という存在がわからん。
「理由は」
「先の、固執する、につながります。
我らの敵との戦いより、その精霊を優先し、こちらを妨害しました。
ゆえに『ハイディ』が自ら、隠されました」
……妨害。呪い。
クストの根は、祖ではないが、呪いそのもののようなもの。
祖たるその精霊が、根に包括された、というあたりか?
「祖霊は、その子を助けたかったんだな」
「はい」
当時の「ハイディ」の結論としては、根を倒せば救える、だったのだろう。
だが祖霊はこれに反発。封じられた。
そして。
「君たちと根の戦い。君らは負けたんだな?」
「その通りです。彼女たちを欠いたこともあり、破れました」
祖霊のやつ、はた迷惑な。
そして負けた結果、クストの根がこの世界に入り込むことを許したのだろう。
入ってきた奴は、未来から過去に向けて文字通り根を張っていき。
徐々にこの世界を、破壊していった。
「そして再起を図るため、人を頼ることとなりました」
フィラが、ストックを……見ている。
ストックは――――見られてることに、気づいてないみたいだな。
ややこしくなってきたぞぅ。
「それは功を奏し、今に至ります」
状況はだいぶ見えて来た。
祖霊の引っぺがし方は、いいだろう。
その上で、呪いの祖・『いと長く流れしもの』へのアプローチだが。
「ウィスタリア。フィラでもいい。
呪いの精霊に言及すると、食いに来る。
この様態となった、経緯はわかるか?」
「いえ、存じません」
なんと。
「時代が違うのよ」
それはつまり、別の旧世代精霊に聞かないとわからんと?
それ、誰だ。三世……ではなさそうだな。
その前が二人いるもんな。
「答えてやろう!」
作業控室の扉がばーんと開いた。
メリア。そのノリたまーにやるね?
「精霊の囁きというより、ひょっとして。
『カレン・クレードル』の記憶か?」
「さよう。最初の『カレン』が、サンディ一世の声を聞いておる」
「なるほど。で?」
「『わからない』」
何か数人、ずっこけた。
……ふむ。
「やはり根のせいか。
精霊の外を囲む、トラップのようなものを張られたな。
そして、精霊本体は内に閉じ込められていると見た」
「なんでそんなことがわかんの!?」
「そうなった経緯が分かるか?と聞いて、わからない、と答えた。
つまり、『そうなった』なんだよ。
最初から、そうだったわけじゃない」
喋りながら、さらに考えをまとめていく。
最初から「流れしもの」の姿だったわけではなく。
後からそうなったということは、確定。
そして。
「祖霊の行動からしても、原因はクストの根だろう。
その上で、流れしものの特性と、ウィスタリアの言った『食いに来る』を合わせる。
なぜそんなことをしているのか?だ。
単純だ。本人に名の力を持たれたら、外に出られてしまうからだ」
「「あ」」「おー。さすがよな、ハイディ」
なんとなくだが、魂の名の抵抗力。
あんまり名前を呼ばれてないと、消失するんじゃねぇかな。
役の方に押されて。
皆、ある種の防衛本能として、名乗れるなら魂の名を名乗ってるんじゃない?
ミスティなんか最たるもので、聞かれなきゃクレアとは名乗らなかったわけで。
ボクは前の人生で、彼女の役の名を知らなかったくらいだ。
呪いの精霊も、今は名を呼ぶと大変なことになっちゃうわけで。
誰にも名前を呼ばれないし、名乗れない。
そうして弱って、閉じ込められているのでは、ないだろうか。
「じゃあまぁ、いつかの時と作戦は一緒だな。ストック」
「ん?ああ。そりゃそうだろうが、誰が名前を調べるんだ?」
「適任がいるから、大丈夫だよ」
「はぁ」
ストックが後ろから、気の抜けた返事をする。
何なら、その流れしものの中に直接行って。
祖霊を出して、名前をよばせりゃいいだろう。
忘れたとか言ったら、ぶん殴ってやる。
「あー、ところで。誰も突っ込まんのか?」
皆が手を、メリアの方に向ける。
どうぞどうぞ、ってやつだ。
メリアが軽く咳ばらいをし。
「…………ストックは椅子になるのが趣味になったのか?」
ボクは今、ストックに座っている。
「単に、ボク成分が足りなくてしんどいんだよ。これは」
「そうか。妹の趣味が歪んだかと思ったが。
変わりなくて何よりだ」
ウィスタリアが立ち上がって、いきり立った。
「何よその気の抜けた突っ込みは!!
コレにちゃんと突っ込みなさいよ!!!」
「ならおぬしがやれ、ウィスタリア」
「ぬぐぐぐぐぐぐぐ!!」
そんなぬぐぐらなくても。激しくツッコミ入れるほどのことじゃなかろ?
ボクが、椅子に座ったストックのお膝の上に座って。
後ろからぎゅーってされてるだけやで。
明らかに、淑女みがその辺のごみ箱にダンクされてるが。
やっと素直に、甘えてくれるようになったから。
ちゃんとハイディ分を補給するまでは、甘やかすことに決めたんだよ。
ボクだって、ストックが大好きなんだ。
人前だろうと、ほんとはイチャつきたいのさ。
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