18-5.同。~精霊の診察~
~~~~正直、人にかしずかれるのは趣味じゃない。心臓に悪い。
精霊の名乗りは、契約者以外には聞こえない、らしいから。
ほとんどの人にとっては、何が起こってるのかわからない状況で。
なのでビオラ様が声を出さない大爆笑をしつつ、場をおさめてくれた。
精霊王たちもいたし、何となく察したらしい。
……ストックは割ときょとんとしていたから、まぁいいかな。
この件は、君には内緒だ。勘だが……たぶんその方が面白い。
一人で抱え込んじゃう君への、ちょっとした意趣返しだよ、相棒。
手術は大成功ってことで、解散。
記録はとってあるから、詳細は後に検証となった。
それはそれとして、幾人か残ってもらって。
作業室脇の部屋で、ボクはフィラの診察中だ。
「…………機能的問題はないな。
あとは感覚面だ。
精霊から人に近い体への、直接の受肉例は少ない」
ちらりとイオ――――月の精霊の化身、センカを見る。
メリアなんかも、そうかもしれないが。
あの子の場合、先の状況を思うに「世代が違う」んだろうな。
「身体機能については、ボクとそこのオリーブが主に担当する。
何かあったら言ってくれ。何もなくても、検診はする。
その他、生活については全面的にセンカに見てもらえ。
そのように手配済みだ」
「はい、しゅ……ハイディ、様」
「君は人の社会の立場上では、ボクの使いではない。
年齢も登録上、センカに合わせる。
ゆえ、ボクとも同年代、同輩だ。
呼び捨てで結構。様付けは誤解を招く」
「わかりました。ハイディ」
素直でよろしい。
センカとフィラの瞳は、もう深紅に戻っている。
あの青い瞳は、精霊の力の証、なのかな。
「マドカとアリサも、特にないということだったが。
しばらく検診は続ける。いいね?」
「わかった」「いいわよ」
二人は結晶で受肉した、人間。
ただ精霊の力が、強く出ていた魂で。
魔力というハードルを越えることで、それが目覚めた。
アリサを技術者の道に引き込んだことで、その資質が花開いた、とも言える。
そういう意味じゃ、ボクに似てるかもしれん。
ウィスタリアとリィンジアも、経緯はほぼ同じだが。
この子たちの場合、元々精霊の力をしっかり扱えていた、と見て良いのかもしれない。
だからこその、聖女。
聖女、といえば。
「ああ、そうそう改めて。
マドカ。それからウィスタリアとリィンジア。
あの六人は、君らに任せるので」
「ええ。とりあえず、不自由ないようにはしてもらえてるから」
それは重畳。
我が六人の友の「始祖」に当たるだろう者たち。
全員パンドラに収容の上、その体を点検して「仕掛け」を外した。
今は大人しく……あるいは、人らしい暮らしを満喫しているようだ。
「大丈夫よ。いい子たちだもの」
いやウィスタリア。
過去、ゲームの通りになったなら、君は彼女たちの誰かに恋人を寝取られ……。
リィンジアが目に入り、ボクはその考えを頭から振り払った。
その展開は、なかったんだな。
ということは、あれか?
あの話は、本当にゲームというか……クストの根とかが押し付けてたものなのか?
この現実とは、まったく関係なく。
ひでぇ話だ。
「リィンジアも、いいか?」
「ええ。任せてちょうだい」
……彼女がしている、いつもと色味の違うブローチをそっと見る。
こちらが魔導を仕込んで贈ったものでは、ないな。
「ところで、ブローチは少し趣味の違うものにしたのか?」
「何言ってるのよハイディ。リィンジア様の、いつものやつじゃない」
「君こそ何を言ってるんだウィスタリア。色味が全然違うだろうが」
「色味……??????」
ストックがよく、細かく色の違うものを身に着けてるから、ボクはこういう変化によく気づくんだよ。
「……少し変えてみたのよ。ダメだったかしら?」
「いや、いいんだ」
「そう」
仄かに赤みの増した、彼女の瞳を見る。
まぁ、予想通りか。
ではこちらの戦略を進めて、よさそうだな。
とりあえず、諸問題を片付けていかなくては。
「さて、フィラ。
君の今後についてだが。
人の社会を、学んでもらわないといけない。
まぁ別に、センカと共に歩むのでなけれ「必死に勉強します」」
食い気味に来られた。
精霊も、業が深い勢か。
いや、太陽と月の精霊は特に、かな。
次代の王と王妃を、ラブで決める奴らだしな。
「学園は休園中だし、今のうちに教わると良い」
初等部未満となると、エリアル様とか。
あとは、貴族教育を受けてる子たちだな。
幾人か、声をかけておこう。
「その上で、学園に通いたければ考査で十分な点がとれないといけない。
魔道具科だから、実技もある。
このあたりは、センカに教わり、質問があればうちの教師陣を使いなさい。
センカ、君の勉強にもなる。点がとれるよう、教育しなさい」
考査は翌年用に更改になるまで……7の月より前なら、受けてすぐ入学ができる。
それ以降は、次学年に回されるため、1の月1の日までお預けだ。
「はい、おうさ……ハイディ」
その王様って無意識に口ついて出るのん??
「ん。ボクからは以上だ。二人からは?」
「えっと。まずは、ありがとう。ハイディ。えへへ」
おう、素直にかわいく笑いますねセンカ。
年相応な子が、久しぶりに来た感じだわぁ。
マドカとアリサはこう……育ちすぎちゃった感が。
他はだいたいこう、年齢詐欺だし。
たぶん、ボクが最たるもの。
「私からは……一つお願いがございまして」
ぼくしってる。
ちょっとこの、湿度が混じったような表情。
執着を感じさせるこれは、やばいやつ。
「……不穏だが、聞こうか」
「処罰を、我が手で」
次の投稿に続きます。




