18.魔都南東魔境~ロード共和国ロードⅢ。精霊人形。
――――精霊の謎は、深まるばかりだ。ボク自身のことを、含めて。
あれから、日をまたいで。
『それは大変な目に遭ったな』
大きくて、涼やかな声が上から降りてくる。
「まったくだよ。
でも君がボクのことを、覚えているなんてな。
ちょっと嬉しくて、疲れなんて吹き飛んでしまった。
ディード」
ボクの眼前に鎮座する、岩山のような、巨大な竜。
ストックの祝いの獣は、この方に比べたら子どものようなものだな。
『これでも、未練がましく生きている方だ。
呪いの流転が起きたときは、都度遡っている』
なんだとう。前は聞かなかったなそれ。
「割とあることなのかい?」
『稀に、くらいだな。
お前ほど大きく起こしたものは、記憶にない』
「君の記憶力は、宛てにならないんだけど?」
こいつはたまに肝心なことを「忘れた」とかしれっといいやがる。
別に言いたくないのは構わないが、そういう言い訳なら弄ってやるのも礼儀だろう。
『手厳しいな』
爬虫類系のお顔なんて、表情わかんねぇんだけど。
笑っていることが……すごくよく伝わってくる。
あの後。
再起したエイミーが、パンドラで巨大魔獣……おそらく邪魔を使ったそれを、見事にぶっ飛ばした。
アリサは先を越されたと、珍しくぶーたれて。
マドカに慰められていた。
キリエたち六人は、収容された。
ウィスタリアとリィンジアに任せる、つもりだったが。
なぜかマドカとエイミーが。
「先輩として!」「先生として!」って張り切って世話を始めた。
なんだ。何があった君たち。
いったんは皆、パンドラに戻り。
共和国組は、危ないので留守番となった。
落ち着いて、ことの経緯を確認してみれば。
どうも奴らは、転送路からパンドラに入ってきたらしくて。
つまり、新王都魔導学園のから、だ。
別途、パンドラから人が出払うタイミングを監視。
その上で、人が少なくなった学園で誰かを『ロールプレイ』などの方法で操って、侵入。
未登録者の転送を受けて迎撃に向かったエイミーたちが、押し留めてくれた、ということのようだった。
奴らも学園の転送路は使えるから、必要なのは情報の監視・伝達だけ。
これはフィリアルの正語りと、メアリーの予言で行ったとのこと。
つまり狙われる可能性を踏まえながら、一気に留守にしたボクのミスだ。
留守番組も十分作ったが、この遊兵にした子らがある意味便利すぎて、使いすぎてしまった形だ。
パンドラのクルーたちもいるし、ある程度は彼らも戦えるしと、油断してしまった。
その反省から、三手に分かれるのは辞めることにした。
時間を考慮し、まずはボクらの人形回収が優先だ。
おそらく、先の襲撃は時間稼ぎも兼ねてるだろうから……ね。
で。当初予定の七人で、再びネフティスに乗って。
ここまで……ディードのもとまでやってきた。
ネフティスはディックにぶん殴られて、ばらばらになったわけだが。
元の部品がすげー細かいので、直すのは簡単でね。
二時間ほどの作業で、元通りだ。
こういうところも、まさにスーパーカーってやつさ。いいだろ。
あー。フィラ回収ではなく、寄り道してるのは、だね。
ちょっと理由があって、どうしてもディードには会っておきたかったんだ。
正直、今後を考えるとこっちの方が、優先度が高い。
フィラは最悪、移動させられてしまっても次がある。
一応、リコの弁ではまだ移動の兆候はない、とのことだったし。
だが一方で、ディードのとこに来るのは、手間がかかるし。
何より、ボクが自分で来なければダメだ。人任せにできない。
今後、いくつかの懸念が現実となったら。
どうしても、力を借りることになる。
まぁビオラ様を会わせたかったのも、あるんだけどね。
いっぱいお話して、うちの上司はもうにっこにこである。
ビオラ様の質問タイムは終わって、今は雑談。
ちょうどいい岩があったので、そこに座ってお話し中。
ちょっと探りを入れたいこともあって、つい昨日のことを話している。
……ボクの後ろには、背中合わせにストックが座っている。
人前だし竜前だというのに、手は離してくれない。
背中で背中すりすりするなし。こう、あれか。かゆいときみたいで色気ねぇな?
ボクがディードと、昔っからの知り合いみたいに気安く話してるから、ちょっと落ち着かないんだろ?
わかってるんだぞおぉん?
「ディード、聞きたいことがあるんだけど」
気を取り直して、大事なとこにいこう。
『言ってみろ』
「祖霊って、何だ?」
意外に君、わかりやすい反応するな?
そんな露骨に、固まらんでも。
『…………漠然と聞くな』
「精霊の祖だっていうんだが。
そいつは精霊か?それとも人間か?」
『人間だ』
おお。そっちか。
「なるほど。完成された人間、だな」
『相変わらず1を聞いて10を知るな、ハイディ』
彼女のゆったりとした呼吸が、まるでため息のようだ。
「褒めたって追求の手は緩めねぇぞ?
――――のぞき見とは、ずいぶんな趣味だな。ディード」
ドラゴンの目が、細められた。
次の投稿に続きます。
#本話は計7回(15000字↑)の投稿です。




