17-5.同~業と誇りがぶつかる。勝つのは……~
~~~~勝つのは、ボクのストックに、決まってるだろッ!!
ほとんど認識できない、戦いが続く。何の解説もできねぇ。
時折赤い光や、結晶のきらめきが見えるけど。
ボクの感覚をもってしても、何が起こってるのかさっぱりだ。
腰抜けちゃったので、情けないけど這うようにシフォリアのあたりまで戻る。
「っ。おかあさま」
娘が、また抱き上げてくれた。
ちょっと子の助けが必要になるには、早すぎるぞボク……。
我ながら、自分の情けなさが心にくる。
「大丈夫。
ストックも……大丈夫だ。
きっと勝つよ」
普段なら、そんな油断のような観測など口にしないのだけど。
だめ。頭の中が、ドピンクで。
うまく考えられない。
「それより」
エイミーたちの方に視線をやると。
マリエッタが肩を貸して、二人でこちらに歩いてきているところだった。
「ハイディ、大丈夫?」
「ボクは平気。それで」
今、向こうには手を出せない。
せっかくだから、状況を知りたい。
エイミーはあいつを、知っているようだったし。
「あの人、突然現れて。
敵かと思ったんだけど、味方してくれて。
船内に僅かに入りこんだ魔晶人を、倒しに行ってくれたの」
そういえば、仕事って言っていたな。
スノーか、クラソーの指示か?
「でも……」
エイミーが、見えない戦闘の方に顔を向けて、眉根を寄せている。
「あれがディック。元タトル公爵」
情報は共有してある。
ただ、今の風貌とかはわからなくてね……。
「あれが、ですか。
尋常ではない強さですね……。
いえその。ストックも、ですが」
マリエッタもこう、呆然としている。
ほんとだよ。いつの間に、ここまで強くなったんだ。
時折、衝撃が起こって、風が吹き抜けていく。
ディックはまだしも、ストックは生身だ。
呪いの拳と、宿業を力に変えるあの技だけで、戦っていることになる。
……信じられない。
「お父さまはそりゃ、一人で何体も邪魔を倒してるもの」
シフォリアが何でもないように、言う。
「素手で!?」
「素手で」
えっ、邪魔退治をやってるのはそりゃ聞いてるがよう。
ビオラ様らや、君らと力を合わせて、と思ってたのに。
ストックが?一人で??素手で??????
装備もなくというなら、ボクはもちろん無理だぞ……。
しかしそりゃ、気持ちが追い詰められるわけだよ。
どんだけ努力を重ねたのさ。
どれだけ、辛い目にあったんだよ。
四年の時間があったとはいえ、これだけ急に至ったら。
人がそれに耐えられるわけ、ないじゃないか。
案の定――――打突音にまじって、嫌な、音が。
みしり、という小さな音がした。
音が止み、二人が間合いを離して姿を現す。
ストックが、左肩を押さえてる。
「お父さま!?」
シフォリアが、思わずといったように叫んだ。
ストックの左手に、明らかにヒビが入っているからだ。
先ほどの……ボクの右腕と同じだろう。
「回復しろ」
ディックもまた、結晶を張り直しているようだ。
だがおそらく、ストックは体自体がほぼ限界。
……ボクの体は、まったく動きゃしない。
だが。
歯を食いしばり。
目を強く閉じ、力を、意思を込めて開く。
こういうときは!
助けになるのが!!
伴侶の務めってもんだろ!!!
赤い腕輪を回し、ピコマシンを駆動開始。魔力の生成を始める。
さらにシフォリアの持っていた、聖人をとって。
床に、突き立てた。
こいつはボクでもストックでも、一人じゃオーバードライブできない。
精霊や呪いはともかく、結晶の力の多人数集約方法なんて見つかってない。
けど。
ボクならば!
ボクとストックの間を、繋ぐことができる!
不死鳥よ!
今こそお前の主人を、助けろ!
かつてあの山で、彼女の死を拒絶してみせたように!!
「オーバードライブ!!
『神器 創造』!
『聖者 聖戦』!!」
ピコマシンで、ストックとの神器駆動線を繋ぎ。
神器に変更を加えた上で――――本来のものではない、超過駆動を開始。
聖人の超過駆動は、フェニックスと同じで結晶化抑制だ。
だから駆動指示はない。
これは万が一のためと考案していた、式の一つ。
それを神器創造で叩きこんで、起動した。
魔力流と、魔力そのものが……大量の緑の光が、彼女に集約していく。
マリーの魔力流操作……神力災害の極みにあたるもの。
魔力流そのものへの、超過駆動だ。
ただ流れを制御し、強化するものとは一線を画す。
「これは……!」
ストックの驚きの呟きが、聞こえる。
クエルとシフォリアから、聞いた技。
マドカとアリサの、見せてくれた姿。
きっとそこに、この先の答えがある!
魔導と呪いは、表裏一体。
あるいは球の光と影。
魔力の先である、魔力流に。
宿業の先である姿を、足せば!
さぁ、縁を辿れ。
ボクの執念!!
「ボクの愛情だ!
全部君のものだ!!
もっていけ!!!」
ボクの身からも、赤い光が溢れ出る。
彼女のもとへ、流れ込む。
ストックに集まる、赤と緑が。
環を象る。
光が収束し。
ふっと消え。
そして彼女の背に、不思議な虹の環が浮かんだ。
「お前の愛を独り占め、か。
悪くない」
ストックは……不敵に笑うと。
小細工なしに、突っ込んだ。
結晶の煌めきが、幾重にもこれを阻む。
しかし彼女の拳は、その膜もろとも。
ディックを殴り飛ばした。
首がもげる勢いで、吹っ飛ぶディック。
腕が砕け散る、ストック。
二人瞬時に再生し、また知覚できない世界で殴り合う。
時に全身砕け散り。
時に船体に激突し。
互いに長い髪を振り乱しながら。
ただ、殴り合って。
「おとう、さま」
シフォリアが、呆然と呟く。
「ストックお母さま!」
クエルが、決然と見据える。
「「勝って!!」」
二人の声が、重なった。
ストックの動きが、よくなる。
見えないはずなのに、それが伝わる。
拳をかわし、一方的に殴りつける。
彼女が。
徐々に。
押し込んで!
――――その拳を、止めた。
「限界だな」
「……………………みきられた、か」
戦闘中も見えていた、結晶の煌めきが。
ない。
ボクが突き立てた聖人は、まだ絶好調ドライブ中だ。
決着は、ついた。
ストックが、伸ばした腕の先で、拳を開く。
「こちらは二人……四人がかりだが、文句など言うまいな?」
ディックがその手をとり、弱弱しく、立つ。
「もとより、そのつもりだ。次は――――」
どこからか、メダルを取り出し、割った。
「正面からまとめて、打ち倒す」
聖域の緊急転送。どこかに行き先を確保しているのか。
彼の身は、仄かな魔力光に包まれ。
パンドラから消えた。
しかし……見渡すとひどい有様だ。
蠢いてる神主の、後始末も必要だし。
あまりの戦闘に、呆然としてるキリエとフィリアルのケアも要る。
さらにあと四人もいて。エイミーは……大丈夫そうだけど。
さんざんな目に遭ったな。
「船の修理費は……スノーにつけておくか」
ボクのパンドラの内装が、ぼっこぼこだ。
「分割払いを認めるとしよう」
虹の光が収まりつつあるストックが、ボクのそばにきて。
拳を突きだす。
「金利は加減してやれよ?」
ボクはそこに、軽く拳を合わせて。
身を引いた。
「お父さま!」「お母さま!」
「ほがぁっ!?」
ストックは娘たちに、もみくちゃに倒された。
「なにやってるクエルそんなとこさわ、こら!
はいでぃ、はい、ハイディーーーーーーー!!」
甘んじて受けとけ、相棒。
……最っ高に、かっこよかったよ。
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