17-2.同.~ハイディ・シルバの本気~【閲覧制限記録】【シフォリア視点】
このときの様子はお母さま……ハイディお母さまは覚えていない、とのことなので。
パンドラの記録のために、僭越ながら私、シフォリア・シルバが見聞きしたものを残す。
クエルからも聞いて書いてるけど、あの子は認識出来なかったところがあるみたい。
私たちは巨大魔獣の相手を皆さんにお任せして、お母さまを追ってパンドラに戻った。
実際のところ、ほんの数秒差だったんじゃないだろうか。
飛び込んでみたら、お母さまから出てるとは思えない、絶叫が聞こえて。
エイミー先生が、血だらけで。
「ッ!クエル!!」
「わかった!」
クエルはお母さまとは違うけど、不思議な癒しの力の心得もある。
魔術で治っていない様子だから、たぶん呪いを受けている。
でもクエルに任せれば……きっと大丈夫。
マリエッタさんの腕の中で、先生は瞼が降りていってて。
クエルは間に合うと思うけど……奴らを相手していた怪鳥が、消えていく。
私の刀、雪白を取り出そうとしたそのとき。
お母さまの絶叫が、止んだ。
このとき聞こえた囁きが。
精霊ソルの声が、耳に残って、離れない。
━━━━『始祖が、お戻りに なられて、しまった』
し、そ?ミーティングで、聞いた、ような。
お母さまが?どういうこと?
そのお母さまの左腕が、すうっと肩口まで上げられて。
床と水平になった腕──その先の手のひらが、私の方を向いた。
なぜだか、ご意図がすぐに分かった。
私は左手を掲げ、お母さまの手の中から床付近まで、線を描く。
魔力が形になり……雪白が象られた。
お母さまが手を握り込み、その柄を持つ。
嘲るようにお母さまを見る二人の神主と……ギンナさん、ベルさんのそっくりさん。
この様子に、危機感を抱いていないみたい。
私なら気づいてすぐに、後ろを向いて逃げただろう。
……………………逃げ切れるとは、思えないけど。
「シフォリア……?」
クエルが、エイミー先生を手当てしながら、私に尋ねる。
その傷がみるみる塞がって、腕すら生え始めて、お顔に生気が戻っていく、けど。
そちらをじっと見る、余裕が、ない。
お母さまが雪白を両手で持ち、八相に構える。
殺気がないのに……怖くて、たまらない。
キン、と何かが鳴った気がしたのは、本当に気の所為だと思うけど。
私も、お母さまの向こうの者たちも、表情が、固まった。
空気のようなものに圧されて、息が、できない。
もう一度何か、音がして。
息が、本当に、止まった。
鼓動も、ないのが、わかる。
────生きて、いない?
わたし、死ん、だ……?
「シフォリア!息して!」
クエルの気合いの籠もった声に、ハッとなった。
鼓動が再開され、息が、細く、始まる。
神主二人と、ギンナさん?ベルさん?が。
糸の切れた操り人形のように、崩れ落ちた。
そして魔晶人は……すべて砕け散った。
皆、中身のない緑のやつだ。
まだ誰も、取り込まれていなかったみたい。
今のはたぶん……剣気?
お母さまは、斬ろう、とした。
それだけで、斬れた。
雪白は……形も残っていない。粉になってる。
剣がその闘気に、耐えられなかったんだ。
しんじられ、ない。
私なんて、これに比べたら。
ただ棒を振っている、だけだ。
「これでは、だめなのね。なら」
お母さまの声で、お母さまじゃない言葉が、聞こえる。
その指先が、すっとロザリオを撫で。
そのまま、胸元に当てられる。
「オーバードライブ。『神器 創造』
その手の中に現れた刀は、おそらく聖人。
確かにあれは、壊れないし、すぐ直るけど。
あの剣気に耐えられるのかな?
神主やギンナさんたちが、のろのろと起き上がろうとしてる。
そういえば……神主は死なないんだ。
ギンナさんたちは、別の理由だろうか。確かに動いてる。
そしてギンナさんとベルさんの首が。
歩み寄ったお母さまに、無造作に刎ねられた。
二人の首が、ごろりと転がり。
その見開かれた目と、視線が、合った。
急にその光景に、強い違和感を覚える。
「ちょ、お母さま!?」
お母さまが、そっくりさんとは、いえ。
あの人たちの首を、刎ねた?
そんな、ばかな。
「シフォリア、あれは偽物です」
「そんなことわかってるよマリエッタさん!
でも、でも!!」
あんなの、お母さまじゃ、ない。
「こいつらはいい、として。
さて。もう少しばらして、動けなく…………。
あら?」
お母さまの、動きが、止まる。
その右腕が、びしりっと音を立てて。
砕け散った。
刀が、床に落ちる。
「あら……やりますね」
こちらを向いた、おかあさまの、かおが。
のっぺりとした、えがお、で。
こいつは、ハイディおかあさまじゃ、ない。
「『アーカイブ』!」「『ロールプレイ』。さぁ、皆従え!!」
そんなタイミングで、余計な奴らが動き出した。
ベルさんとギンナさんの首が、体からにょきっと生えて。
彼女たちが頭を抑えながら、立ち上がる。
『ロールプレイ』は、私らにはさっぱり効かないけど。
あっちの二人には、効果があるようだ。
……よし。
今度は私が、やってやる!
このお母さまには、任せられない!!
クエルも治療が終わったのか、立ち上がる。
そうして彼女たちに、向き直ったところ。
右腕がなく、棒立ちだったお母さまが。
ゆらり、と動いた。
「――――しょうがねぇな」
その声に、思わずお母さまを二度見する。
目の端が少し吊り上がって。
口角が、上がっていて。
お母さまの、顔だ。
私の大好きな――――不敵な笑み。
ハイディ、お母さま……!!




