-1-3.~武人と侍従~
何も考えずに、メリアの首を拾い。
胴体と一緒に、また、並べて、寝かせて。
そしてやっぱり、次が来た。
右手に炎熱の剣を、握り締める。
……もう石だらけで、背中が思うように、曲がらない。
「キリエ」
この子だけは、逆に。
来るかもしれないと、確信めいたものがあった。
だから絶対に地表で相対しないように、場所を選んで移動していた。
<そもそもどうやって居場所が知られたのか、私は気づかなかった>
「止めに来たわよ、ウィスタリア」
あなたも私を、ウィスタリアと呼ぶのか。
彼女の手の中で、幾度も見た蛇腹の剣が伸びていく。
ミスティの髪より、ずっと長く。
この人に、勝てるわけがない。
ならば、身を捨てて一刀。
彼女の身が、まさに光の速度で動き出し。
合わせて、私のすべての魔素が、ばらまかれた。
…………やはり。
ほとんど止まった時間の中、見える世界。
彼女の剣が、奇妙な動きをしている。
これは魔法……だろうか。
ただの鉄ではない。
しかも、ミスティやダリアのように、要所が動いている。
速い。規則性のようなものはありそうだが――――解析が間に合わない。
斬られる。
剣を落とすことを諦め。
体の負傷を顧みず。
外部の魔素から、自身を制御し。
ただ胴を、薙ぎ払った。
二つに分かれた、彼女の体が。
その上半身が、そのまま私に迫ってきて。
もろとも、蛇腹の剣が縛り上げていく。
拘束を防ごうと剣を挟むが、砕かれた。
っ、最初から、このつもりで!?
私を拘束し、ただ、触れて。
それだけで、私は、死ぬ。
キリエの、特別な力によって。
…………でも、彼女は。
ただただ、その両の手を、私の背中に回して。
抱きしめた。
「――――――」
耳元で囁かれた何かが、脳に届く前に。
蛇腹の剣が、消えて。
「きり、え」
彼女の体の、力が、なくなって。
私はそれを、抱きしめて、支えて。
そのとき、やっと気づいた。
私の目からは、ずっと涙が流れてて。
今、止まったことに。
枯れて、しまった。
血濡れながら、ギンナの二つの体を、また横たえて、並べて。
最後の一人を、迎える。
「フィリねぇ……」
あなたのお仕着せは、久しぶりに見る気がする。
私はもう、神器一つ出せない。
関節のいくつかが、動かない。
まだ大気から戻らぬ魔素を、操り。
マリーを惑わせた気配の一手を、用いる。
……フィリねぇに効くわけが、ないんだけど。
自身はまっすぐいって。
手刀を繰り出した。
「…………ぇ?」
魔素での生成ゆえ、気配も攻撃能力を持つ。
フィリねぇは三方から腹部を貫かれ。
正面の私を、抱きしめた。
頭が、そっと撫でられる。
「――――――」
また、聞こえない。
みんなの、さいごの、ことばが。
とどかない。
さい、ご。
腕を引き抜く。
分身もまた、消える。
崩れ落ちる、フィリねぇの体を、支えて。
抱きしめて。
そのままかかえて、ならべに、いって。
私はそれから。
かなりの時間。
その山から、遠くを見ていた。
みんなと仕事して、遊んで、笑って。
そんな日々を。
六人の亡骸と一緒に、見ていた。
――――キリエ、フィリねぇ。やだ、目を、あけて。
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――――見ないでって、言ったのに。
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