-1-2.~探偵と皇女~
そんな状態でも、私の体は殺気を向けられると反応する。
二人の体を抱えて、跳び退る。
その後を、大剣が薙ぎ払っていった。
二人を岩陰に隠し、振りむいたところで。
がちっと足首に何かがはまった。
ま、どうぐ。
拘束。空間に固定する、タイプの。
まるで暗器なこれを、自在に扱っていたのは――――
「ミスティ!あなたまで何で!?」
あまりの事態に、逆に頭が回ってくる。
この人だけは、絶対来ないと思っていた。
むしろ、あちらに行かれないように、手を回したのに。
そのくらい読んで、今頃走り回ってると、思っていたのに。
どうして、ここにいるの?
「あなたを止めるためです。ウィスタリア」
彼女を見て。
息を呑んだ。
何か、いる。
見えないけど、無数に。
せい、れい?まさか。
魔法は使えないって、言っていたのに。
ミスティは髪ひもを解き。
大剣を肩口に構え。
生き物のようにうねる髪とともに、向かって来た。
同時に熱が、風が、水が、土が。
いくつもの魔術が。
私を狙って飛ぼうとしているのを、感じる。
殺気が、あらゆるところから、来ていて。
私は右手の中に……神器・フェニックスを作った。
すぐに、オーバードライブをかける。
フェニックスの再生効果があっても……立て続けに使いすぎたせいで、結晶化が進む。
感触からして、おなかのあたりは、もう石だらけだ。
構え、最高速で踏み込む。
拘束されていた右足首から先が、千切れる。
即座に、再生され。
片方裸足になったまま、駆ける。
正面圧力は――――ミスティだけ。
ならばフェニックスの再生能力で、そのまま突っ込んで斬る!!
その考え自体が、間違っていたことは。
彼女を、袈裟懸けに斬ってから、気が付いた。
「なん、で?」
呆然と呟く私の、方に。
穏やかな顔のミスティが、倒れてくる。
「――――っ―――」
フェニックスを手放し、慌てて、支える。
ミスティの武器は、ナイフだ。
最接近距離から、一手で手首を落とし、頸動脈を捌く。
なのに、大剣、なんて。使ったことも、ないだろうに。
あっという間に、血を出し切った、ミスティの体は。
もう呼吸も、鼓動も、ない。
彼女の体を抱え、とぼとぼと、マリーとダリアと一緒のところに、寝かせる。
どうして、こんなことに。
もう、何も、考えられない。
足音がまた、聞こえて。
反射的に振り返って――――その先に、カレンと。
彼女との間に、フェニックスを見た。
思わず駆け寄って、剣を掴む。
「は、はは……」
気づいて、しまった。
最初から!フェニックスを抜いていれば!!
この神器で治癒を行えば!!
マリーも、ダリアも、ミスティも!!
死なせずに、済んだじゃないか!!!!
「あは、はははははははは!!!」
なんかもうどうでもよくなって。
カレンに、自ら切りかかる。
彼女の得手は、小剣と、多少の格闘。
そして……不壊の肉体。
どうせ勝てないのだから。
殺して、もらおう。
もう、やだ。
刀身に炎を纏わせ、私が首を狙った一撃が。
そのまま当たり。
不思議な音が鳴って、止まる。
刃が、通らない。フェニックスは……折れた。
でも……何か、違和感がある。
小剣が振るわれ、伏せて身をかわしたところに。
蹴りこまれ、後ろに跳ねながら受ける。
「やる気のようで、何よりだ。その所業、止めさせてもらおう」
彼女の言葉は、もうあまり私の耳に届いていなかった。
何も考えられて、いなかった。
再生しようとする剣を放棄。
新たな一刀を生成する。
今度は、氷剣。
愚直に飛び込んで。
同じところを狙い、一刀。
折れる。
……さっきと、音が違う。
掴もうとする彼女の手を避け、蛇行するように下がる。
次は――――風だ。
こちらに向かって歩き出すカレンに、迫り。
同じ位置を、狙う。
反応できない彼女は、そのまま受ける。
振動する刃が。
また別の音を奏で。
砕けた。
その首筋に……うっすら赤い線を残して。
そのまま体を横に一回転させつつ、もう一刀を生成。
頼るは熱。フェニックスを遥かに超える、高温の刃。
振りかぶった私と。
剣すら持たない彼女の。
目が、合って。
「――――――――」
そしてすぐ、逸れた。
カレンの首が、宙を舞った。
呆然とした私の頭は。
ただただ、なんで?という疑問だけが占めていた。
皆がなんでこんなことをしたのか、じゃなくて。
なんで私は今、カレンを斬ったのか。
自分の中から、その疑問に押し出されて。
大事なものがたくさん、ごっそり。
こそげ落ちていくのを、感じた。
――――ミスティ、カレン。ごめん、なさい。




