16-6.同。~神に愛されし、我が友~
~~~~この弄び方は、予測になかった。悍ましい奴め。
「こっちは私たちに任せて、先行ってもいいですよ?」
軽口を叩きながら、マリーは刀……神器・聖人を鞘から抜き放つ。
巨大な魔力流が、マリー、ダリア、ネフティスまでをも覆っていく。
ダリアは鍵状のいつもの白黒の杖を分離し、二本を掲げ、頭上で打ち鳴らした。
魔力流の外側に現れた、色味の違う緑の光が、流れの外側を回り出す。
人型魔道具にもつけた、流体防御魔術だ。
「行けるかボケェ。
あれブレイクするから、殺しちゃだめだよ?」
話も聞きたいし。
何より……いろいろ考えるに、だ。
…………この子たちは、ただの被害者じゃないか。
マドカやアリサ、ウィスタリアやリィンジアの顔が。
彼女たちの必死な表情が。
助けを請う二人に、重なる。
ぜったいにゆるさねぇ。
この子たちは、助ける。
神主は、生きたまま地獄を見せる。
もう勘弁ならん。
ボクの友達と同じ顔をした子らにまで、手を出したこと。
後悔させてやる。
「もちろん」
涼やかに言うマリーに、ふと視線が吸われる。
かつて。
その性根ゆえ、素直に生きられないと嘆き。
だが誰よりも、人の輪で生きるのが得意だった女が。
その汚濁のような自分の背負って。
華やかに、笑った。
「ハイディ。
私もあなたに、並び立ちます。
ダリアさんと、二人で!
オーバードライブ!!」
叫ぶとマリーは。
刀の刃を自らの首筋に押し当て。
引いた。
引いた!?
血しぶき、めっちゃ飛んでる!
いやこれ、そもそもどうなるんだ!?
マリーを何が何でも再生する聖人で、自らを斬ったら。
ただ治るだけ?にしては、血が戻らない……。
「私、これで指切っちゃったことあって。
それで気づいたんですよ」
自分の血で赤く染まるマリーが、平然とした声で言い。
いい笑顔で、こちらを振り返る。
「私の力が、どこに宿っているのかを」
飛んだ血が……よく見ると、地面に付着していない。
浮いて、る。
マリーは首筋から刀をどけ、流れる血をそのままに、ダリアの方を向いた。
「愛してますよ、ダリアさん」
「この子の前でそれ言うのね……私もよ」
二人が、頷き合う。
緑の光が舞う中に、血ではない、鮮烈な赤が混じる。
宿業……ボクとストックが、結んだような、光。
結晶が、頭が二つ付いた犬のような獣になりつつある中。
ボクの友の――――災いを呼ぶ、声が響く。
「「『災厄よ、箱より出でて――――。
広がり!
天に舞い!!
獣となり!!!』」」
聖人が分解し、細かな破片となる。
いやボクここまではやらんかったぞ!?
自分らで改造しやがったのか、マリー!ダリア!
浮かび上がった彼女の血が、舞い踊り。
破片と、宿業と合わさり、魔力の流れの中に、染み込んでいく。
マリーの魔力流が、それどころかダリアの魔術まで。
赤く、いや赤黒く、染まっていく。
あれ?カラミティの式ってことは、これは神器制御。
そして変形のはず……。
ふと見たダリアが、ボクの視線に気づき。
その口元で、不敵に笑った。
いつも。
不貞腐れたように、ぶっきらぼうで、人に合わせられなくて。
そのくせ、性根が真っ直ぐなお人よしで。
生きづらいと、零していた。
黒ではなく、赤に染まり切った魔女が。
背筋を伸ばし、胸を張り、前を見る。
彼女の愛しい、伴侶を、見る。
「『魔神と化せ!』」
そのコールレベル聞いてないぞ!?
ボクが作った式じゃない、ダリアか!
赤い魔力流が、ボクらを透過しつつ縮まり、二人だけを包む。
濃厚に……外から中が、見えないくらいに。
見覚えのある、卵のようになっていく。
そして二人、どちらともつかない声が。
あるいは二人の声が重なるような、唱和が。
悍ましい卵の中から、聞こえた。
『顕現、白銀・聴霊・神魔!!』
赤い魔力流にひびが入り、割れる。
精霊、ではない。
この世界を慈しむ、神の一柱が受肉し。
新たな存在が、産み落とされた。
次の投稿に続きます。




