16-5.同。~魔結晶の招く罠~
~~~~本人ではない。だが……またボクの友を使ったな?我が怨敵よ。
赤い髪、黒い装いの魔女姫――――サレス・アーサー。
ホワイトブロンドの髪、聖国旅装の勇者――――メアリー。
…………こうしてみると、彼女たちには似てねぇな。
一応周囲の気配を推し量るが、これだけみたいだ。
六人全員で来るかも、と思ったのだが。
いないということは……わけたか?なら狙いはなんだ?
とりあえずここをおさめ、次はギンナたちの方。
あとパンドラも……見に行くとしよう。
魔物は少し遠くにいるが、おそらくネフティスの魔力流を警戒していて、来る様子はない。
「本当に来たわ。驚きね」
「黙れ魔女。仕事をしろ」
まだ割と遠くだが、彼女たちの声が聞こえる。
二人、仲はあまりおよろしくないようだ。
彼女たちが存在するのであれば、ここにいる理由は難しくない。
メアリーが予言の力を、使ったのだ。
しかし仕事、ね。
このタイミングであることが、よくわからなかったが。
さては、イオを確保したことから繋がってるな?
星帚や聖国から、クレッセントにボクらの排除を依頼された、か。
ボクらが確保したと知られた理由は、はっきりしないが。
ま、大したものじゃなかろ。
敵に予言や正語りがある時点で、考えても無駄だ。
……さて、彼女たちへの対処だが。
ウィスタリアは点きへの対抗策を持っているだけで、効くのは効いた。
結晶体の人間は、ある種の再生能力を持っているようではあったが。
あまり関係はないな。
クルマから出て来たストックに目線を送り、制す。
そしてそのまま、歩み寄る。
メアリーが魔力流を展開。いくつもの神器を、その流れの中に含め、操る。
無数の神器が浮かび上がり、ボクに狙いを定める。
マリーも使える、切り札の一つだ。
…………初めて見たのは、あの山のときだっけ。
サレスは節くれだった木の杖を掲げ、魔術の詠唱に入っている。
ダリアは最初に補助魔術陣を展開、詠唱をそちらにゆだねるから、魔術名呼称だけなんだよね。
隙だらけだ。一応、メアリーを撃たないよう、警戒は必要だが。
いや。
サレスの杖が、メアリーの方を向いていく。
「え、体が、かってに」
『ロールプレイ』での操作か!
命令は、ボクらの前で自爆しろってことか!?
くそったれ!!
瞠目し、脳内で撃鉄を起こす。
袖を咥え、布の中に雷鳴を流す。
引き金を引き、一気に紫の魔素を広げた。
世界が、止まる。
狙いをつけるまでもない。
「『紫藤に、輝け!!』」
駆け抜ける。
藤の網にかかって。
神器が、魔力流が、魔術が。
落ちる。
「な」「はぁ!?」
拙い魔力流操作と、魔術構築だ。
ほんと、隙だらけだよ。
君たち自身もね。
「「――――がっ!!」」
滅多点きにされて二人、倒れ伏した。
コンクパール時くらいの実力の模倣……ととれるが。
あの時点でも、二人はこんなものじゃない。
ボクの点きは、効かなかったからな。
周囲を警戒しつつ、振り返り――――その時。
「なに、これ、離しなさいよ!?」
「あんたこそ――か、体が、私の体が!!」
倒れたときに触れたと見える、二人の手から。
その体が、引き寄せられるように、融け込むように。
混ざり合っていく。
なぜ、融合、が。
まさか、あの子たちに使われてる魔結晶、何か新型なのか!?
二人は人の体というよりは、大きな結晶になって、膨れ上がっていく。
その表面が……魔物の皮の、光沢を思わせて。
赤い光が、仄かに灯っている。
……いずれかの呪いをもった魔物を、あらかじめ仕込んでおいて。
それを媒体に、無理やり結合させているのか。
「っ――――ッ!」
「たす……ぐぉ」
目をそむけたくなるような光景に、止まっていた思考が。
二人の最後の悲鳴を聞いて、回り出す。
息を、する。
ばらまいていた紫の魔素に、雷光が走る。
再び駆け抜け、点くが……ダメだ、通らない。
どこも魔物以上の固さだ。活路がない。
ストックの横まで来て。
「いくか」
彼女が右の緑の腕輪に、手をかけている。
「そうだね、降りてもらって――――」
「適任お届けでっす!」
虚空、少し空高めの位置に裂け目ができ、シフォリアの声が響く。
適任――――ダリアとマリーが、ネフティスと巨大な結晶の間に降りてきた。
あ、裂け目が消える!
「シフォリア、ギンナたちの方も!」
「あいあい、パンドラごといきます!」
は?
向こうは何が来てるの??
次の投稿に続きます。




