16-2.同。~突き進む者たち、時に沈む~
~~~~ボクの必殺技(笑)が効かない子、多すぎるんだが???
この疑問は以前から、抱いた違和感から導き出せる可能性の一つ、かつ有力なものとして話してある。
もちろん、マリー、マリエッタ、アリサにだけ。
ボクの中でそれが確信に変わったのは、こないだスノーとビオラ様の二人と話した時だけど。
ただまぁ……厳密にはちょっと、疑義があるんだけどね。
たぶん、ストック自身も把握してないことだから、そのうち確認するつもりだ。
さて、まだ詳細は知らせてないから、残りはボクが引き継ぐか。
「神主のような、外敵を排除する使命を負っていたんだってさ。
神主三名、クストの根、そして魔境の主・邪魔が対象で」
「ああ……検討していた可能性では、それが有力でしたね」
「そ。あの通りだった。
で。邪魔はあと二体しかいないそうだ。
神主・東宮を倒したら、使命は完了。
地球に帰ることになる」
「ちょちょちょっと!それ、ハイディは……」
「もちろん、ボクを残して、だ」
エイミーとマドカの瞳に、頬に、さっと朱が差す。
そしてまず、それぞれに机の下を睨んで。
ボクを見た。
「ハイディ、私怒るから」「私も」
ちゃんとボクに聞いてくるあたり、偉いな二人とも。
「いいけど、対策はとれてるからな?
マリー、マリエッタ、アリサに手伝ってもらったし。
ただ……」
ボクも机の下を見る。
隙間から少し、銀の髪が揺れているのが見える。
「早く白状してくれれば、五人でさっさと対策できたんだけどね」
「「このへたれ!!!!」」
「もうしひらきもございません……」
「拗ねる資格ないじゃないのよ!!」「そうよそうよ!!」
「ああ、そこはね。
自分で頑張ろうとしたら、全部ボクがやっちゃったんだよ。
君たち、自分がそうされたらどうなるよ?
マリエッタやアリサに」
「「…………」」
二人悩んで。
エイミーは再び突っ伏し。
マドカもストックの隣の席まで行って、座って同じように突っ伏した。
エイミー、ストック、マドカの順で並んでる。
なんぞこれ。
「ごめんなさいでした」
「もうしません」
なんだ思い当たる節でもあるんかよ。
…………マリエッタとアリサが、悍ましい情緒の籠った顔をしている。
その表現しづらい、にやまぁりみたいなお顔、やめない?
どういう感情表現なの???
「エイミーはわかるけど、マドカは?
この子、何やらかしたの?アリサ」
エイミーは魔道具関連だ。何度やらかしたかわからん。
「貴族に自らを売り込みに行った」
ボクは無言でパンドラの制御にアクセス。
放送魔導を起動。拡声前に。
「招集かけるけど」
「や、それは別の機会にしてくれ……。
ギンナに手伝ってもらって、丸く収まったよ」
アクセスを切る。
報告は上がってないが、政治案件ならギンナかミスティが止めたか。
権限は与えてるしな。
「ビオラ様が知ってるならいい」
「知らせてある。というか、ギンナに話を通してくれた」
んむ。ならばよし。
「事情は聴いても?」
「ん……マドカはそろそろ自分でも何かしたい、って思ってたみたいで。
何をしたらいいかわからないから、マリーに相談したらしいんだよ」
……あやつめ。
「そしたら『嘘をつくのがうまい』って言われて」
「嘘……ああ。演技かな?」
マドカが机に伏せながら、びくっとなってる。
この子は普段から素直だ。その善良さに疑いはない。
だがマリーが言うなら、そこに才能があるのは事実だろう。
ん……?まさか、この子の力は。
祈り、じゃなくて。
「願望をかなえる力、だったのか」
「!そう、そうなんだよハイディ。
あまり強くはないけど、人の望みをかなえるみたいなんだ」
なるほど。
当然に、目の前の人間の望む姿がわかるし、とれると。
通りでふわっとした力なわけだよ。
相手によって、変わるんだな。
「で、昨年あたりに調子にのって、いろいろやって。
手籠めにでもされそうになったか?」
「そういうこと……。
私が一緒だったから、なんとかなったけど」
「そりゃ褒めてあげたいね。
自分が高く立とうとするとき、支えてくれる誰かをちゃんとそばに置いたんだから。
ストックとは大違いじゃないか」
机がちょっと揺れて、音を立てた。
「怒らないのか?」
「そりゃ君の権利だ、アリサ。
ボクとしては、ちょうどいいと思ったくらいだし」
「ちょうどいい?」
「うん。
アリサ。マドカを、ギンナたちに同行させてほしい。
もちろん、君がマドカに専属で補佐につけ」
「…………ああ。任せてくれ」
アリサが、左手首にした、細めの緑の腕輪を見せ、微笑む。
頼もしい。君の成長は、ここ四年、間近で見させてもらった。
マドカは様々な面で、共和国での鍵となるだろう。
狙われることも、あるだろう。
だが君がいてくれるなら、安心だ。
「では、私はお留守番のエイミーの見張り、ですね」
マリエッタも、同じように左手首に腕輪をしている。
この二人がばらばらの局面にいることになるのも、戦略上意味が大きい。
「頼むよ。しばらくは作るものもないしね」
「ふふ。ならエイミーを手伝ってますから」
「長く手を借りて、悪かったね」
「いえ」
また……マリエッタが、妖しい顔をした。
「この日をずっと待っていましたから。
ふふ」
エイミーがガタガタ震えている。
「……ストックと同じ、か」
「そういうことです。時間切れ、ですので」
なるほど。
道理で、こちらを快く手伝ってくれていたと思ったら。
技術を磨き、いずれ間に合わなかったエイミーを手伝って。
一気に人型魔道具を完成させるつもりだった、と。
あれ、いったんもの自体は完成して、他所にもプロジェクト立ってるんだけど。
人型魔道具そのものにまだエイミーが納得してないらしくて、作り続けてるんだよね。
で、それがうまくいってない。
たぶんこう、その時のエイミーのあれこれが見たくてたまらなかったんだろうな、マリエッタ。
大層歪んでるけど、まぁいいか。楽しそうだし。
ボクだって、ストックから根掘り葉掘り聞き出した後。
ぜーんぶ対策済みだって言うのは。
そりゃあもう楽しかった。
「あの、ハイディ。
それはいったい……?」
オリーブに支えられたリコが、こちらまでやってきた。
辛いなら、もう少し休んでていいと思うのだが。
ただ、だね。「それ」扱いはやめたげて?
「ん。周りに黙って突っ走った者の末路」
ついぞマドカとエイミーまで、もぞもぞと机の下に消えて行った。
共和国はもうすぐそこなんだが、大丈夫かね?
次の投稿に続きます。




