16.共和国~魔都南東魔境。強襲、クレッセント。
――――堂々と迎え撃ってくるとはな。……地獄を見せてやる。神主ども。
神器船パンドラは、順調に共和国付近を目指し始めた。
航路変更が、すんなり認められたからだ。
処理・調整をする学園が、今休園中だからというのもあるけどね。
ボクらは今、共和国入りまでやっておかなければならないことを進めている。
主に二つだ。一つは、自動人形・フィラの「体」作成。
これはエイミーを中心に、ダリア、リコ、イオに手伝ってもらってる。
もちろん、ボクもだ。
もう一つは呪いを狂信する忍衆、『星帚』対策の準備。
奴らはボクと同じ、魔素を乱す技を使う可能性がある。
そのため、ボクの点きを捌ける者、捌けない者で色分けする必要があった。
結果だが。
まったく効かないのが、メリア、マドカ、アリサ、リィンジア、クエル。
耐性を持っているのが、ストック、リコの二人。
対策できるのが、ダリア、ミスティ、ギンナ、ビオラ様、ウィスタリア、シフォリア。
そして別枠で、ボクとマドカ。
ボク、ストック、マドカの三人は、他人の魔素異常を解除できる。
特にマドカの力は大きかった。どんなに深く浸食して乱しても、一発解除だ。
マドカ本人が動けなくても使える。この子がいれば、かなり安全だな。
ボクもマドカと同じことはできるが、あそこまでの治癒能力はないな。
やはり共和国行きは、ボクとストックが人形確保。
交渉などを行うミスティやギンナたちに、マドカとアリサを同行させよう。
ビオラ様とスノーがこっちに来るから……あとはイオ、リコ、オリーブまで入れて、7名。
交渉組はギンナ、ベルねぇ、ミスティ、メリアに加え、マドカとアリサ……あと聖女2人を入れて8名。
ウィスタリアとリィンジアは、向こうにいたほうがいいはずだ。
聖女公表ありでの、共和国と聖国の併合がゴールだからねぇ。
ネタ晴らしは先だとしても、二人が話わかってないと進めにくいところだ。
マリー、ダリア、エイミー、マリエッタ、クエル、シフォリアはお留守番かな。
留守番というか、遊兵も兼ねてるけど。
特にシフォリアには、頑張ってもらう。
シフォリアは特殊な魔力の練り上げができるので、それで緊急通報の魔道具に魔力を籠めてもらった。
これで、すぐ救援を要請ができる。ありがたい。
通報して飛んできてもらえば、連絡員も務まるし。
これが終わったら、存分に労ってやらねば。
まぁ、クエルがやってくれるかもしれんが。
「しかし、驚きました」
マリエッタの声だ。もういいみたいだな。
彼女はミスティやダリアがボクの技を対処したのを見て、自身もやってみたいとお願いしてきたのだ。
結果は散々だったが。
防御魔術は出す端から撃破され、自身も何度かボクの点きを体験することとなった。
ここはパンドラの鍛錬場。
少し広めに空間をとっておいてあり、とにかく体を動かすためのものだ。
トレーニングの機器なんかは、あるにはあるのだが、普段は出してない。
今出してあるのは、長椅子とかいくつかの机、くらいだな。
残っているのは、マドカとアリサ、エイミーとマリエッタ、そしてストックとボクだ。
奥の長椅子でリコがダウンして、それにイオとオリーブが付き添ってたりもするが。
あの子もこう、意地になってトライしてきた口だ。
床から身を起こし、マリエッタが続ける。
エイミーが少し心配そうだ。
「とても人間業とは思えません」
「ほんとよね、ハイディ」
「違いますエイミー。ミスティとダリアの二人です」
「へ?」
エイミーは魔力がなくて、魔導は直接使えない。
だから、感覚的にはわからないんだろうな。
「魔導でボクの技を防げるとしたら、あの二人くらいだろう。
魔力さえあれば、エイミーとストックも候補だけど」
「でしょうね。私には難しいです」
「素直に、エイミーに魔導を使わせるのが一番だと思う」
「はい」
マリエッタは穏やかに笑っている。
この子、単車乗るとアレだけど、普段の様子はずいぶん丸くなったよなぁ。
ボクとエイミーが絡んでると、未だに謎の情緒を向けてくるけど。
エイミーはなぜか、近くの机に行き、椅子を引き出して座った。
そして机に突っ伏す。
なお、隣にはぶーたれたストックが、同じようにのっぺりと机に広がっている。
「なぜエイミーはそうなったし」
「あれは人型魔道具の再現プロジェクトの管理が面倒でぐったりしてるんです。
気分転換になるかと思ったらそのことを思い起こされて情緒が不安定になっています。
すばらしい」
早口で何言い出すのこの子怖い。
「私はそれより、ストックが気になるんだが。
ハイディ、何かあったのか?」
「私もさっきから、ずっと気になってるんだけど……」
リコを診に行ってた、アリサとマドカが戻ってきた。
君らスルースキル高いね。
マリエッタのお顔見て何も言わないし。
まぁいいか。
アリサと、マリエッタを見てから。
「ばらした」
「「あぁ~……」」
二人が、とても納得したように息とも声ともつかぬものを漏らした。
アリサ、マリエッタ、マリーにはいろいろ手伝ってもらっていたので。
もちろん、ボクの「危惧」も伝えてある。
それを防ぐためのアイディアを、ディスカッションしないといけなかったからね。
ここしばらくで、ストックからも情報をいろいろ聞き出した。徐々に共有することになる。
ビオラ様とスノーにも確認……そう、確認し。
良いと言われたので、折を見て全体に話していくつもりだ。
もちろん、ボクの妹と上司殿は知っていた。
ストックから口止めされていたそうな。
あほっ子め。かわいいことしやがって。
「ちなみにどれを?」
「全部だよ。予備手段を用意済と言った辺りで、撃沈した。
それからこの調子だ」
「それはなんというかご愁傷様、だな……だが」
アリサが、マリエッタを見上げる。
二人で軽く頷いて、少し肩を竦めた。
「「へたれなのが悪い」」
「ごふ」
ぶーたれストックが何かダメージを受けて、机の下に深く沈んでいった。
「どういうこと?二人とも」
「余計気になるんだけど」
エイミーとマドカが食いつく。
マリエッタとアリサが、ボクを見て来たので。
ボクは半笑いで頷いた。
アリサが二人に、説明を始める。
「ゲームってあったろう?」
「うん」「あるわね」
「ストックはどうも、そのゲームが作られた世界の人みたいだ」
「「……は?」」
次の投稿に続きます。
#本話は計7回(15000字↑)の投稿です。




