15-13.同。~君をもう、離したくないから~
~~~~ストック、本当に余裕がない。明らかに、気持ちがぐちゃぐちゃだ。
とても綺麗な君の瞳が、じっとボクを見ている。
少し目を伏せ、続ける。
「君はね、ストック。うっかり口を滑らせることが、割とある。
前の時間で出会ったとき、君はボクの礼を見て。
『その礼に怒りなど向けては、精霊に顔向けできません』。
そう言ったんだよ。
先日の学園でもう一度それを聞いて、ボクはやっと理解した。
あの出会いの時から、自分が王国民だと白状していたんだと」
「――――っは。
それは、その。お前の礼が、美しくて。
まさか、それを見られるとは、思わなくて。
つい」
だろうな。帝国に浚われ、向こうの公爵になった後だもんな。
「あれと同じだ。君は最初から、自白していた。
そうだと気づいていれば、はっきり理解できる。
ストック。君はゲームに対する認識が、おかしい」
「お、かしい……か?」
「うん。ボクやメリアを始め、色付き結晶を取り込んだ者たち。
皆、ゲームのことは知っているが……知ってるだけだ。
だが君のそれは、ゲームを『やったことがある』者の目線だ。
ゲーム関連の知識の出方が、自然すぎるんだよ」
そう。
再会し、初めて二人でサンライトビリオンに乗って。
雑談しながら、出て来た話から始まり。
君の目線はいつだって、この世界から別の世界を見るものではなく。
向こう側からやってきて、ゲームと世界と比較しているような言い方だった。
分かりやすいのが、神器の話。
これは、ボクらにとっては、あって当たり前のものだ。
だがゲーム上では、そもそもほとんど用向きのないもの。
プレイヤー目線だと、触れてないことがあっても無理もない範疇だ。
課金専用アイテム、らしいから。お金使ってなかったら、関わらない。
ストックは「ゲームになかった」と発言している。
これは、プレイヤーとして神器を使ったことがなく。
だがこちらの世界で初めて見た、からの言と受け取った。
ボクからすると、あるのが当たり前で。
だから、ストックから聞かれたとき。
ゲーム上にもあるにはある、という認識に至った。
実はこれ気になったので、他の色付き結晶持ちにも聞いてる。
「対策」を始めてから……数人に。
後に、残りの色付き結晶持ち全員に聞いた。
「分かりやすいところだと、神器だな。
ゲームにはないって言ったのは、三人だけ。
『揺り籠から墓場まで3』には本当に存在しない。
だからマドカとアリサは、そう答えたわけだが。
それ以外だと、君だけだ。ストック」
「それだけで……そう思い至ったのか?」
「『そうだと気づいていれば、はっきり理解できる』だ。
それは気づきを得たのにすぎない。
君の素性を理解できたのは、4年ほど前のスノーの発言と行動があったからだ。
なぜ君は、シルバ公爵を叙爵できなかった?」
シルバ領の爵位は、精霊アウラが認めた者に送られる。
そういう爵位なのだ。
つまり、伴侶二名が同時にシルバ公爵にならないと、おかしい。
どのみちボクのことだって隠すんだから、ストックも叙爵できていて然るべきだ。
だがそうはならなかった。
ボクはその理由が、「ストックがいずれ、いなくなるから」という見立てゆえと踏んだ。
そりゃ可能性はいくらでもあるがね?
その中で、最悪のものを考えるべきだ。
死亡、離別、封印等々。
「それはっ、今私が賜ると、いろいろと……」
「君はまだロイドの娘だしな。
だが、爵位はそもそも、家系とは別だ。
よその国では、令息令嬢が爵位を渡されることも普通にあるし。
この国でも、禁止されたものではない。前例もある」
「では、なぜ」
「君がいずれ向こうに行っちゃうからだよ。
ボクはね。『本当にストックでいいのか』って、あの子に聞かれたんだ。
どうしてだろうって思ってたんだけど。
いろいろ踏まえて、逆転させて考えると合点がいった」
次期王家で、王家精霊と契約するスノー「が」言ったから思い至った。
この世界の、異物を排除する精霊たち。
その巫女たる、エングレイブの王たる者。
精霊の囁きを聞ける彼女が、そう言ったのなら。
一見何の問題もないボクとストックの間に、問題があると見ているのなら。
その理由は、一つしかないだろう。
「君が単純にこの世界の外の存在なら、スノーが祝福された時点で排除されただろう。
そも、うちの父母にだって会ったが、何も言われなかったしな。
だからおそらく君はむしろ、『精霊の使い』。
この世界に干渉する異物と、呪いの化身を、排除する使命を負った者。
邪魔は残り何体だね?」
「それはに……はぁ。
お前には本当に」
ストックが、指輪を受け取ってくれたあの時のように。
でも、もっときれいに。
――――そして何かを諦めたように。
涙を零した。
「敵わないな」
ボクだってそうさ。
ふふ。きっと驚くぞ?
君を失いたくないがために、ボクが何をしたか聞いたら。
その日は仕事をオフにして。
遅くまで二人、語り合った。
ストックはそれから幾日も、かなり不機嫌で、時々悶えて。
でもすごくすっきりした、幸せで穏やかな顔を、時折見せるようになった。
そしてどんな顔をしているときも。
ボクだけを……見るようになった。
ボクは、君にボクを選ばせるためなら。
世界だって変えてみせる。
君の伴侶は――――君好みの、いい女だろう?ストック。
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