15-12.同。~遠き彼方よりの、愛しい旅人よ~
~~~~ビオラ様と何話してこうなったし。
「……ストック」
「……ハイディ」
そんな状態でも、ちゃんと応えてくれるんだね。
「四年前のことを、覚えてるだろう?
娘たちに、初めて会った時だ」
クストの根、という巨大な何か。呪いの化身。
未来から過去に渡りつつ、この世界を破壊していた存在。
そいつはボクの可能性……「子を持てる未来」を生贄に、力を得ていたらしい。
逆転の発想で、「子がいる現実」を招き寄せ。
ボクは自分と……ストックの未来と。
二人の娘を守って、奴を倒した。
その時のことだ。
「もちろん、覚えているとも」
「なら。なぜ怯える?」
ストックの体が、強く震えた。
「私が……何に、怯えてると、言うんだ」
「あれだけ、15のその日を待ちわびていた君が。
今はボクのこと、見すらしない。
それとも、ボクがそんな状態の君のことを、わかってないとでもいうのかね?」
少し身をよじる。
つややかな銀髪が、ストックの顔にかかっていて。
その奥に、惑うような瞳がのぞいている。
そして、また逸らされた。
「……愛して、いるとも」
自分でも何を答えているのか、よくわかってなさそうだな。
君はね。
終わりが見え始めて。
幸せでいることに。
「そしてそれが辛いんだろ?」
耐えられなくなって、きているんだ。
「っ。お前に、何がッ」
身をよじり、こちらを見るストック。
瞳が、戸惑いに染まっている。
自分の感情が……よくわからない。そんな色に。
抱きしめて、あげたいけど。
ボクはただ、じっと見る。
「本当に余裕がないな。
わかってるに決まってるだろ?
珍しく、君は分かってないようだが」
「そんな、ことは……」
「じゃあ何にそんなに悩むんだよ。
ボクが君の問題について、はっきり言及しないのはな?
ただ、君がボクに言おうとしないからだ。
言いたくないという気持ちを、尊重している。
だが、ボクが何もかも分かった上で黙ってるとして。
君はそれでも、何も言いたくないのか?」
ストックが臍を嚙んでいる。そんなにかぁ。
「悔しいんだな。自分で何とかできなくて」
「……」
図星らしい。
時間を戻ってすぐ、自ら動いて、聖国からボクを救おうとしたストック。
二人でいるために、聖域ドーンの巫女の推挙をとってきたストック。
ボクと婚約するために、新しい王都まで作ってみせたストック。
そんなこの子が、今は弱弱しい。
…………かわいい。
「ふふ。君は人に仕事を振るのが、本当にうまいのに。
ボクには滅多に振らんね?」
「それは……」
「君は察するに、ボクと並び立ちたいと、思ってるんだろう?」
「……いつだって、そう思ってる」
「なら、ボクも同じ気持ちだと、なぜわからない」
「ぉ…………おな、じ」
そんなに意外なことを言ったか?
緊張していた彼女の身から、力が抜け。
柔らかく、またボクを見上げて来た。
「同じだよ。ボクと君は、なんだかんだよく似てるじゃないか。
相棒」
「んっ……そう、だろうか。
自信は、ない」
君はよく、ボクを閃光と……苛烈な光だと評するけど。
ならば君は。
「ストック。ボクの優しい太陽」
体をさらにひねり、傾け、彼女の髪を。
そっと撫でる。
「ボクらは太陽と月、みたいな。対の関係じゃない。
だからね。相手がとても尊く眩しいと。
自分の光が、わからなくなってしまうんだよ」
体を、少し倒して。
髪を一房、手に取って。
唇で、優しくなぞる。
なんだねその抗議の目は。
食んでないから、レギュレーション内だぞ?ストック。
「君はボクといるために、いつだって全力を尽くしてくれた。
そうして、成果を出してきた。
でもそれは、君一人で出したものじゃ、ない。
大人がたくさん、手伝ってくれただろう?」
「それは、そうだが……」
聖国へ誘拐されたボクを探すのも。
ドーンの巫女にするのも。
王都を作るのだって。
ストックはたくさんの大人に、頼ってきたはずだ。
けど今この子が、悩んでいることは。
迫る別れを、止める手立ては。
そもそも、誰もやったことがないことで。
自慢がじゃないが、ボク以外の誰かが、力になれることじゃ、ない。
「なら大人ができないことを、しようと思った時。
この世界で出来ないことを、成し遂げようとした時。
頼るべき相手は、本当にそれで合っているのか?」
ストックが、身を捩って。
やっと。
やっとストックが、ボクを正面から。
その両の瞳で、見た。
輝きの強い、ボクの愛しい赤が。
大きく、見開かれて。
ボクだけを見ている。
「まさかお前、本当に――――」
「分かってるに決まってる。そう言った。
ついさっきだ。まさか忘れてはいまい?」
「忘れや、しない……でも」
「信じられない?」
彼女が、頷く。
「君が地球人だと、ボクが知っていることを?」
ストックの。
身じろぎも。
呼吸も。
瞬きも。
何もかもが、止まった。
次投稿をもって、本話は完了です。
また、本話を見た方は分かるかと思いますが。
タグを一部、変更いたします。




