15-11.同。~迷い逃げる君の、助けになりたい~
~~~~10歳下……それも年下側から?いや、割とボクの周りではよくあったかも???
彼女たちの残したグラス等を、片付け。
エルピスまで来たので、せっかくだしと少し私室に寄ると。
珍しく、ストックがいた。
なんか仕事するか、そのままビオラ様と出てくるのかと思ったのに。
ベッドでぐったりしてるなんて、ほんと珍しいな。
仰向けに、中途半端に足をベッドの端から出して。
宙に浮いた右足が、たまに所在なさげに揺れている。
目元を左肘で覆っていて、その下から僅かに瞳が、ボクを見てるのが分かる。
「ストック」
声をかけたが、ほとんど動かない。
「ん……ハイディ」
唇が僅かに揺れるように、開いて、閉じた。
ほんとどうした。なんでそんなお辛そうなんだ。
というか、せめてお顔のその跡は拭えよ。
そんな悲しそうな顔してたら、ボクはもう仕事にならんぞ?
…………ま、いいか。
それぞれ暇しそうな子らには、やることを振ったし。
フィラの体の準備は、時間をかけてやっていこう。
少し悩んで。
羽織っていた上着を、脱いで。
丸テーブル脇の椅子、その背に掛けた。
「ハイディ……?」
目元を覆っていた彼女の腕が、少しだけ上がる。
「…………もっと脱いじゃっていい?」
「だっ、だめ……」
意気地なし。かわいい。
「じゃあ……キスを落とすのも、ダメかい?」
「だめぇ……」
身じろぎして……体ごと寝返りを打って、むこうを向いてしまった。
右だけではなく、左足がその上に乗って、両方が宙に浮いている。
…………フィラの存在を、踏まえるに。
これはそろそろ、突っ込み所かな。
いつまでも君が辛そうなのは。
ボクもとても、辛い。
正直、お辛いのはストックの自業自得だが。
もちろん、そんな事態にあることが、じゃなく。
それをボクに話さない点が、だ。
話してくれれば、すぐ解消することなんだがね?その不安は。
ボクは二人で、未来に向かう気なのに。
君はいつだって、一人でなんとかしようとするんだから。
……そういうところ、大好き。
枕寄りの、ベッドの淵に少し深めに腰かける。
ボクの背……というか尻に。ストックの肩甲骨が、当たる。
彼女は少し動こうとして。結局、ボクの方に体重がかかってきた。
……………………本当にそんなにボクの尻が好きなんか、君は。
今の、感触の誘惑に負けた、って感じだったが。
逃れたいんだか、すり寄りたいんだか、わからんなぁ。
まぁ、そうなっちゃう気持ちは、分かるけどね。
ベッドに手をつこうとして。
意外に狭くて。
しょうがないので――――しょうがないので。
ストックの腰のあたりに、右手を乗せる。
少し震えた彼女の身を、押さえるように。
指先、手のひら、手首、腕、肘の近くまで。
その曲線に沿って、つけていく。
ゆっくりと、柔らかく撫でる。
君はこう、成長が早いよねぇ。
ボクこの辺りがこんな曲線になるの、あと何年かかるかわからんぞ。
そしてしっかり鍛えてるけど、触れるとほんのりと柔らかさがあって。
ほおずりしてはだめかしら……逃げられそうだな。
ストックは、あまりイチャイチャしようとすると、逃げる。
近年になってその傾向は、よりはっきりするようになってきた。
エングレイブ王国には、殺すな、犯すな、呪うなという三警句があり。
これを破ると、精霊ウィスプの懲罰によってほぼ即死する。
我々は10歳を過ぎて公契約を結んだので、違反したら即ばれて、死は免れないだろう。
どの程度の基準で精霊が飛んでくるか?は実はよくわかっていない。
ただ女性かつ未成年同士で懲罰を受けた実例は存在するので、ボクらは油断できない状況だ。
だから……あまりやりすぎないよう、逃げ回るというのは、わかるんだよ。
ボクもあんまり我慢できなくなりそうなら、そうしてるし。
ストックは貴族教育を受けているし、かなり恥じらいのある方だ。
その点からも、過ぎれば逃げたくなるというのは、まぁ分かる。
体の成長によって、感覚が変わりつつある時期だし。
そこが由来している……というのも、分かる。
ボクも胸を触れられたら、そうなるし。
……でも違うよね。
君が逃げちゃう、本当の理由は。
8年前、再会した頃からしばらくは。
ボクも余裕なかったし、そこまでわからなかった。
4年くらい前に婚約して。
その時くらいからは……はっきりわかるようになって。
もしかしたらって思って、対策を進めた。
そして今。
君にこれまでこのことを、言わなかったのは、ね。
準備が整ってなかったから、なんだよ。
デモはうまくいった。
精霊の力は、十全に操れる。
そして……自動人形。もう一つの対策。
これまでの八年に培った様々なものと。
新たなこれらで。
君を――――きっと助けられる。
だから告げよう。
次の投稿に続きます。




