15-10.同。~やばい奴らがバーで管を巻く~
~~~~聖女二人には……できればゆっくり過ごしてほしい。ボクだって聖女派だし、ちょっとは敬ってるんだよ。
結論から言うと。
三人は、バーにいた。
ああ、エイミー、マリー、それからダリアね。
小型神器船のエルピスの方にいるとは思わなくて、ちょっと探しまわってしまった。
「あらハイディ。どうしたの?」
「そこの二人をさがし……おい。
普通に朝っぱらから、酒飲んでんのかよ」
三人とも成人とはいえ、なにしとるん。
「いいでしょハイディ。長期休暇よ?長期休暇~。
最初の日くらい、お祝いしなきゃ」
「休みになったのは学園だけで、パンドラは営業中じゃボケェ。
金は出してやっから、勉強見てやってくれ」
「新入りの子たちですか?」
エイミーは顔が赤いが、マリーはさっぱりしたものだ。
マリーにとっては、アルコール=水でしかない。
ならなぜ酒を飲むのだ。
いや、ボクもアルコール飛ばしたやつ飲むから、気持ちはわかるけどさ。
「そう。マリーには戦略科の二人。
エイミーには魔道具科の三人を頼みたい。
ああエイミー、その子たち雑務に使っていいから」
「ほんと!?助かるわ~。
マリエッタもハイディも忙しいんだもの。
一人だと効率悪くなっちゃって」
そこがズボラな分、魔道具に全振りだからなエイミーは……。
成果は出すから、リソースを使ってでも補佐をする価値はある。
おっとそうだ、もう一つ。
「エイミー、生体の人型魔道具。作るよ」
なお生体というが、さすがに人間のものを使っているわけではない。
人型の魔物などからとった素材から、作り上げる。
ちなみに、人間大の人形はボクの知る限りないが、生体部品を使った魔道具は存在する。
魔物の素材から作っても、別におかしなことになったりはしない。
ご禁制の品でもない。
「よっしゃきた!え、どうして急に??」
「いつの間にそんな面白いもの、考案したのよ?」
エイミーだけじゃなくて、ダリアも反応した……。
まぁ君はそうか。最近は暇しとるしな。
たまに、エイミーの人型魔道具を手伝ってるくらいだ。
「あー……エイミーがどん詰まりしたときに、設計してきたんだよ。
設計書だけだったから、仕様をまとめてもらってね。
ボクが預かってる。
で、事情は後で話すけど。
そいつを器として、他所から精霊を引っ越すんだ」
この話、まだ全体の共有が済んでないからね……。
関係者でもう一度話した上で、資料にまとめて説明しないと。
「え、まさかビリオンからアウラを移すんですか?」
「残念だが違うんだよマリー。
ビリオンの破壊方法は、分かってないし。
ただ、別の器があってね。それを回収し、精霊を移す」
「…………ハイディ、それまさか。
『イオ・ニップの自動人形』?」
「当たり」
ダリアとは、一緒に展示を見に行ったんだよね。
とはいえ、これだけで思い至るとは思わなかったけど。
「何ですか?それ。前の時間でのこと?」
「めっちゃ気になるんだけど!!」
「落ち着けエイミー。
単純機構の魔道具人形で、一度だけ動いて自死した、というやつでね。
前の時間で、作者死亡の後、発見され、有名になった。
製作者は、ボクが連れて来たイオだ。
この時間でも、人形は作られていた」
「前の時間ではそれに精霊が宿ってて、起動した。
でも……」
「単純機構だから、動いたら壊れちゃったってこと!?」
「そだよ二人とも。
だから、精巧複雑な人形魔道具を作って、移すんだ」
「…………」
マリーがボクをじっと見て、しかし何も言わない。
まぁ君とマリエッタ、アリサにはある程度話してるもんな。
これは「対策」の一つ。
精霊を移せるということは。
人の魂だって、移せる。
ボクの設計は魔道具じゃなくて、神器だけどね。
言い方は最悪だが、人工的なマリーの体を作るようなもの、だ。
別に、マリーを移し替えるわけじゃないけど。
正直万が一のため、くらいに考えてたんだけど。
別途実験して確認ができるチャンスが、できてしまった。
なら有効に活用したいところだ。
「理由はともかく、経緯とやりたいことはわかったわ。
私も手伝いましょうか?」
「余裕があるならお願い」
「私をのけ者にしたりはしないわよねハイディ!?」
「優先は教師業だがね。一緒にやろう」
「やっほう!じゃあ早速」
「エイミー?」
マリーが声をかけると、エイミーがぴたっと止まった。
「なぁにマリー……」
「もうちょっとお話、聞きたいんだけどなー?」
なんだその猫なで声は。
何話してたんだよ君たち。
ダリアを見ると。
「大したことじゃないわ。
エイミーが管を巻いてただけよ」
「マリエッタの実家への挨拶、いきたくなーいってか?」
「そ」
「なるほど」
エイミーが、バーカウンターに突っ伏した。
なにかカウンター表面に指で文字を書きながら、ぶつぶつ言っている。
「それで思い出した。
ダリア、ソラン様結婚するんだって?」
「……」
…………なんだその嫌そうな顔は。
やっぱり報せは来てたんじゃないか。
「結婚じゃなくて、婚約よ……」
すごい声絞りだしたな君。
「お義兄さま、10歳以上年下の子に陥落させられたんですって」
「じゅ……はぁ!?」
思わず声を上げてしまった。
「メリー・ジュピター王女って覚えてますよね?ハイディ」
「ゲームのヒロインの方やんけ!?あの子まだ7-8歳だろ。
どうなってんだよ……」
「マリーが言った通りよ」
ほんと、どうなってるんだよ……。
「だが、マリエッタは結婚って言ってたぞ?」
「デクレス側が盛り上がってるから、そういう報せが来たのかもね……。
というかマリエッタだって、お相手知ってたら結婚だって思わないでしょうに」
そらそうか。相手のことは確かに聞かなかったな。
「……わたし。デクレス行ってソラン様に鉢合わせたら、どんな顔すればいいの……」
エイミーはだいぶネガティブになってるな。
確かにとてもお嫌だろうが。
「とにかく君ら連邦関係は、一度その情報を付き合わせてちゃんとしろ。
外出になるかもしれなかったんだから、整理しとけ」
「はいはい教授殿。ちゃんとやっておきますよ」
「よろしい助教授。エイミーとダリアは弄っててもいいが、会議場に行ってくれ。
5人も向かってるはずだから。あまり自習だけさせといてもよくない」
「わかりました。ハイディは?」
「ボクは、さっきの人形の詳細を詰めないと。
手術みたいなものも必要だからね」
「じゃあ、新人ちゃんたちはお任せあれっと。
二人とも、行きますよ」
ダリアがスツールから立ち上がり。
エイミーがマリーに引っこ抜かれ。
早々に連れていかれた。
「んぁ~!!やだぁ、もっとお酒のむぅ!!」
働け。やけ酒なら夜にしろ。
次の投稿に続きます。




