15-8.同。~耐え忍ぶ者の真なる力~
~~~~情報伝達手段は限られている。これまで見えなかった経路が一つ、明らかになる。
王国の国境は、精霊の加護に守られている。
入国にあたり、定められた契約を行っていないものは、入ってこれない。
精霊ウィスプが、物理的に排除する。
王国民として登録される各種契約。
または、外国人に一時滞在を認める契約。
どちらかがないものは入れない、わけだが。
入国しても、犯罪まがいの動きをしてると、外国人なら契約省に通報が行く。
通報される基準は、伏せられていてわからないが。
とにかく報せは行き、国防省の職員が出て来て、簡単に取っ捕まる。
諜報活動ができるか?と言えば否、だ。
王国民に内応させるなら、一応可能だが。
これは特殊な手段を用いて、実際にやられていた。
忍がその手段をとっていない、とも言いきれないが。
元がリコたちと同じ箒衆なら、また別の可能性が出てくる。
リコおよび箒衆において、頭の名、つまり今代忍頭の『目帚』は……封印だ。
忠を尽くす相手のためだけに振るうことを許される、ある種の契約の力の。
これを誰かに捧げることで、彼らは修練の果てに得た、本来の力を発揮できるようになる。
開放すると、その技は王国貴族の精霊魔法級のものになる。
相手にも同じことができる、のであれば。
王国の精霊を、同等の力をもってごまかし、自らを隠蔽し、活動できるだろう。
エイミーの件は、帝国と連邦に人がいればいいが。
ボクの件は、王国に諜報の手が入ってないとダメだろう。
「仰る通りです。
ゆえ、我らはそれを、封印しております。
彼らについては……そうではないかと」
そんなもんができるって知られたら、王国出禁になるからねぇ。
「だろうね。
ボクらがこれまで活動してて、いやに敵に情報を知られてるなってことがあったんだよ。
そういうからくりなら、納得だ。
徴税隊とも組んで、がっつりやってたんだろう」
リコがはっとした顔になった。
「聖教の!?そういうことでしたか……」
「ああそうか、君には未共有か。では伝える。
聖国には、呪いと法術を併用し、ある種の緊急通報を容易に行う手段がある。
徴税隊は意図してそれをやってるだろうし、聖教徒は意識せずやらされている」
「道理で……やりにくいわけです。
共和国内ならまだしも、外の仕事はよく邪魔が入ります」
「目の敵にもされてるんだろうさ。
魂の名を持つ者は、精霊に近い。
星帚との因縁もあろうが、君らは聖国にとっても仇敵のうちだ」
「仇敵の筆頭が、ハイディ様ですか?」
楽しそうにいうなし。
「そんなつもりはないが、そうだろうよ。
このあたりは共和国に行くまでに話すが、ボクらは明確な敵がいる。
集団で言うなら、魔都発の神器船兼研究所、クレッセントだ。
奴らは聖国を始め、王国と敵対的関係にある筋との結びつきが見られる。
ただ……確証はないが、星帚とは折り合いが悪いな」
「あら、なぜでしょう?ぜひ拝聴したく思います」
なんかによによしてきとるしこの女。何が気に入った。
「これから君がフィラを確認すれば、はっきりする。
確保されてるなら、実は仲良しだったということだ。
そうでなければ、かなり険悪な協力関係だと思ったほうがいいだろう」
「ああ……神器船があるなら、移動して然るべきでしょうね。
彼らは表の身分を持たず、活動しています。
信用できるところがあったなら、そこへとっくに運んでるでしょう」
「そういうことだ。
まぁクレッセントどころか、聖国すら信用してないのかもな」
「あり得ます。狂信的な者たちですから」
解釈不一致でも起きてるんだろう。
「同感だ。
そしてボクに関しては、先の測定会でも目立ったし。
そのうち情報が出回るだろうな」
神主たちは、ボクのことを把握している。
だが星帚たちは、パンドラ単位のことまでだと思う。
ボク「が」やばいというのは、まだ伝わってないと見る。
先の旧王都での襲撃……誘拐だって王国の王妃、ボクのかーちゃんが退けたんだしね。
「あれは、意図して広めようとされたのですか?
素晴らしかったですが」
「スポンサーに見せないといけなかったんだよ。
ま、ボクの独断じゃなくて、お話合いの結果そうなったんだが。
意図があるんだろ」
「?把握されてるわけではない、と?」
「ないよ。そういうのは所長の仕事だ。
未成年のボクが、何でもかんでもやっちゃ問題だ」
「……しっかりされておりますね。
それだけの知恵とお力をもってすれば、と思うのですが」
「そういうのは前の時間でやって、酷い目にあった。
もうこりごりだよ。
仕事は人に任すし、判断は上にお願いする。
適度に潤滑油になって、あとは自分の仕事をしていたいね」
肩を竦める。
この仕草も、いつの間にかすっかり癖付いてしまったが。
それを見てリコは、控えめに笑った。
で……リコは前から契約してて、こちらの仕事を外でしててくれているわけだが。
こちらの情報は言うほど流していない。
それについてはまとめてやるものと、して。
今彼女が動く上で、他に何か……ああ、そうだな。
「あと……『目帚』の名は、この件が終わったら返してもらうよ。
一度皆、集めないとダメだろ?」
「はい、そのようにお願いしたく」
リコは丁寧に頭を下げた。
戦力的なことを考えたら、さっさとしたほうがいいんだけどねぇ。
そこはまぁ、何かあったらこちらを頼ってもらうようにしよう。
「ほかは何かあるかい?」
「…………そうですね。
あまりオリーブに、ほかの女性を近づけてほしくないな、とは」
なぜそこでめっちゃにっこり笑うのだねリコ。
次の投稿に続きます。




