15-7.同。~忍が動き、蠢く~
~~~~オリーブはしっかりしてて助かる。トンでも部類じゃないし、ありがたい。……ないよね?
廊下を歩くボクの斜め後ろくらいを、リコが無言でついてくる。
笑顔。だがよくよく雰囲気を読み取ると、おこではない。
こう、その下に複雑なものを隠しているような、そんな印象を受ける。
この子も特に寝不足な様子もない。
たぶん、オリーブが見たのは狸寝入りだな。
聞き耳はどうかと思うが、姿を現したことに免じて、スルーしておくか。
「私。ちょっとわかりましたよ、ハイディ」
「何がさ」
立ち止まって、振りむく。
リコの声の調子は軽いが。
その笑顔が……なんとも深い情念を感じるものに、なった。
「未来の私が、どうしてあなたに惚れたのか」
ヤな話蒸し返さないでくれます????
「そうやってきっと、私や一門の皆の面倒を、丁寧に見てくれたのですね」
それは否定できない。
前の時のボクは、今よりずっと世話焼きだった。
自分の限界ぎりぎりまで、人のために何かをしていた。
それはボク自身が快適に過ごしたいから、という理由だったけど。
明らかに、手を出し過ぎだった。
ある種の承認に、飢えていたんだろうな。
今は……それはない。
ストックが認めてくれるから、ではない。
それは、その前。前の時間の、学園の頃からだ。
もう、どうでもよくなってしまっただけ、なんだよ。
ボクは、そんなことをしている場合ではない。
彼女だけに、すべてを費やさねば。
また失うのだと、理解したんだ。
生体魔導人形。
精霊の器。
これらを実際に作り、様態を解明することで。
ボクの道は、もう一つ拓ける。
「前はね。今はそこほどでもないよ」
「そうには見えませんよ?」
「下心があるってことだよ。
こう見えてボクは、ストックのことしか考えてない」
「そうには……見えないのですが」
「そんなことないよ。全部彼女に繋がってる」
「自動人形を確保し、起動させようとすることも、ですか?」
普通に盗み聞きを暴露するんかい。
「そだよ。
ただそのためだからといって、リコやイオの利益を害さないだけだ。
ストックに嫌な思いさせちゃうからね」
「意外に腹黒い、と」
「別に腹に隠したりゃしないよ。
言っちゃなんだが、何年もパンドラいる子らはみんな知ってる。
何なら、聞いて回ってみるといい」
「あー……はい。せっかくですから」
「それで。要件は?」
リコは姿勢を正した。
ま、このくらいはただの雑談よな。
「経費を潤沢にいただけるとのことなので。
『星帚』の把握・監視。イオの家の現状把握を始めます」
それは助かるところだ。
行ってみたら人形なかった、はあり得るが、あまりよろしくはない。
現時点でそうだったらもうしょうがないんだが、こちらが準備している間の動きは、把握できるに越したことはない。
正直、ちゃんと新しく契約手続きしてから、お願いしようと思ってたんだが。
先にリコから提案してくれるとは。
「結構。通信に金を惜しむな。
工材は有り余ってるし、エイミーがたまに切れて滅茶苦茶作ってるから、もってけ」
「えっ。はい、承知いたしまいした」
魔力収束式の緊急通報魔道具を、エイミーは暇な時になぜか量産している。
なんか無心に作れるから、だそうだが。
「正式にあたってくれるなら、聞きたいことがあるんだが」
「『星帚』についてですね?」
「そうだが、君の思うこととは……少し違う」
「はぁ」
瞠目する。
ボクはあまり気にしないようにしてたんだけど、さ。
ずっと、おかしなことがあったじゃないか。
情報の、伝達速度だよ。
ボクらの行動が、敵にばれすぎてる。
特に4年前、連邦に行く最中。エイミーと初めて会った頃のことだ。
最初彼女は、ボクらと行動を共にしていなかったが、にもかかわらず読まれていた。
エイミーは帝国を出奔し、王国西方魔境を通って、連邦南端へ行こうとしていた。
彼女の目的は、学友のマリエッタとソラン王子。
その途中で、誘拐に遭った。
ここで投入された戦力が、明らかに過剰だった。
ボクらが同行していることが、はっきり伝わっていたとしか思えない。
こちらの情報を得る能力も、それを適切なところへ届ける力も、ありすぎる。
ゲーム『揺り籠から墓場まで2』のプレイヤーの分身役、神主・西宮。
やつはその能力でボクやストック、マドカやアリサの状況は知ることができていた。
だがエイミーは別だろう。
加えて言うなら、こないだ旧王都で襲われた件。
ちょっと寄っただけで、すぐ行動を起こされた。
いくらなんでも迅速すぎる。
ボクを操った?手段も謎だが、とにかくこの情報の取り扱い速度が不気味だったわけで。
もしも。
聖国及び、そこに所属する忍のような諜報集団が関わっていれば、至極わかりやすい構図になる。
聖国は徴税隊という、信者に聖女への魔力を捧げさせる者たちを、各国に派遣している。
これが実は結構いて、しかも呪いである種の情報伝達・集約をしているようでもあった。
ここに諜報集団が加われば、ボクらのことを逐次伺うことも不可能ではないだろう。
ただ一つだけ、問題がある。
リコに聞きたいのは、そこだ。
「奴ら、あるいは君たちの技には。
精霊をごまかす手段が、あるな?」
「ッ」
……当たりか。
次の投稿に続きます。




