15-6.同。~人形医の道を説く~
~~~~回復魔導があるから、医者の成り手は結構少ない。貴重だ。
自動人形・フィラの自死。
衝撃的な光景だったのだろう。
オリーブが身を竦ませ、その記憶の励起を拒んだのが、見て取れる。
だが、ゆっくりと俯き。
「作者は亡くなってるって、言ったら。
ゆっくり、立ち上がって。
それから、左手で、胸を貫いて」
「構造上、そんなところに動力核はなかったろう。
確か、背中のはずだが」
腎臓にあたるところだ。
そこに、魔力のバッテリーらしきものがついていた。
資料によれば、当時魔力は空だったはずなのだが。
「はい。でも、それから動かなくなりました」
「体はどうなった」
「え、かなり崩れて……」
「胸を刺す前からだろう?」
「あ、はい。あれ?」
ん。ちゃんと疑問を覚えてくれたようで、何よりだ。
「不壊の精霊人形だぞ。普通は壊れるわけがない。
だが彼女は、稼働そのものが攻撃以上の魔導なんだ。
そして、魔道具が高出力魔導を使うには、二つの条件がある。
一つは人の形をしていること。
もう一つは、内部まで人を模した複雑機構であること、だ。
条件を満たさない場合、強度に関係なく崩壊する。
そしてそもそも、起動しない」
魔道具が攻撃魔導を打てない理由は、そこ。
あれは人の形をしてないのはもちろん、機能実装のために構造が単純化される。
神器の場合は、道具そのものを経由しないことで、攻撃魔導の使用を限定実現している。
この崩壊は、物理的強度では防ぐことができない。
おそらく原理としては、ボクが測定会で巨大魔石を消したのと同じ。
世界に、否定されるのだ。
「強度……もしかして、ハイディさんが魔石を削ったみたいに?
精霊の力で?」
おや、ちゃんと彼女の中でつながったようだ。
「そう。法則に拒絶されるんだろう。
だからフィラを起動したいなら、その問題をクリアする必要がある。
まぁそのままじゃ、改造なんてできないがね」
「あ!壊れないから……」
精霊を宿した物体は、壊れない。
フィラの不壊性は、オリーブも前の時間で聞いているのだろう。
「そうだ。ならどうする?」
「どうするって……引っ越し、とか?」
なぜその発想にいたった。正解だぞ。
「花丸をやろう。お昼、好きなもの作ってあげるよ」
「え、え!?えっとえっとじゃあ……その。
高くてもいいんですか?」
「いいよ。ここはたいがいの食材はそろう」
「もしあるなら……春芽の野菜揚げが、食べたいです。
お父さんが好きで、分けてもらったことがあって。
苦いけど、忘れられない味で。
こっちに戻ってきた後、その。はまっちゃって」
同好の士じゃったか。
「わかった。たっぷり作ってあげよう。
なんか引くほど採れるんだよ」
「採れる!?え、この船でですか!!」
「屋上でがっつり農業やってる。
ここの食糧は、全部そこで賄ってるんだ。
イオの食事は見たろう?
あれ並みに食べるのが、二桁いる。
それを支えられる供給力だ」
「えぇぇぇぇぇぇ~……」
「春芽はどうも、ボクとストックくらいしか好まないんだよ。
一緒に食べてくれ」
オリーブは少し目を見開いて。
「はい、ぜひ」
ほっとしたような、笑顔になった。
「というわけで、フィラに合った人形の体をもう一つ作る。
しかも内部も人並みに精巧に、だ。
これは原案があるから、ボクが設計して製作する。
フィラの移植手術後は、君に任せる」
「ぉ……わたし、が」
「そうだ。前代未聞の魔道具だし、精密なメンテナンスが要る。
不壊ゆえに治療できないとなると問題だから、そこはこちらで考えて作るが。
誰かついてもらわないといけない。
イオにやってもらうのが望ましいが、まずは君だ。
リコがいるのに……私情を絡めたりは、しまいな?」
イオは時間を遡っていない。つまり、以前と同じか、多少上くらいの技量。
前に見た魔導人形の作成力量では、複雑化した人型魔道具を扱えない。
かつて人体実験を行わされていたという、リコの力が要る。
もちろんボクもやるんだが、できる者が一人だけというのはダメだ。
最終的にイオがやるのか、リコが務めるのかは、技量の伸び次第だろうけど。
どちらにせよ、今から手を付けて行ってもらう必要がある。
「っ、はい。私も、医者の端くれです」
……よし。
力量十分なら、任せてよさそうだな。
何でもかんでも、ボクが面倒を見るべきではない。
「よろしい。では、それが君の仕事だ。
イオには話しといてくれる?」
「え?ハイディさんが話すんじゃ??」
「医者が自分の患者のご家族に説明ができなくて、どうする。
現時点では概要程度で構わない。
もちろん、わからないことができたら、ボクに持ってきてくれていい。
しかし。責任を持つのは、君だ」
オリーブは、ほぅっと息を吐いて。
少し気の抜けたような顔になった後、強く目をつぶって。
力強く、息を吸って、瞳を開いた。
「はい。任せてください」
よしよし。長椅子から立ち上がる。
「ん。ああ、あと。
君ら魔道具科の勉強については、エイミーをつける。
代わりに、彼女の補佐をしてやってくれ。
何をしてほしいかは、資料にする。
彼女は管理が苦手でね」
「ぇ。あぁー……そうなんだ。そうなんですね。わかりました」
大いに納得されたぞ。
この短い期間で、生徒にどういう印象を持たれた?エイミー。
「君は重大な責任を負ったし、リコも別に仕事がある。
イオになるべく振るようにしてくれ」
あの子の働く様子からすると、こういうのは得意だろう。
「はい。あの、ありがとうございます。ハイディさん」
「それがボクの仕事ってやつだよ。気にするなオリーブ」
少し伸びをしたかったが、人前なので我慢して。
彼女に軽く手を振って、ボクは医務室の扉を開けた。
そしてエイミーでも探すかぁ、と出てドアを閉めたところで。
扉の影にいた、リコを見つけた。
…………学園長みたいな笑顔、しないでくれる?
次の投稿に続きます。




